チリ火山噴火と異常気象
噴煙は上空15キロ、成層圏へ
4月22日、チリ南部に位置するカルブコ火山(Calbuco volcano)が1972年以来、43年ぶりに噴火しました。
カルブコ火山は世界の主な火山(99火山)のうちの一つで、標高は2003メートル、1893年に初噴火を起こした記録が残っています。
今回は報道されたように、50キロ離れた場所から立ち上る噴煙が確認できるほどの大規模な爆発となり、噴煙は約15キロ(5万フィート)の高さまで達しました。
日々の気象現象は対流圏(troposphere)と呼ばれる、地上から約10キロの高さの中で起こっています。地球の大きさから考えれば、わずかな薄い層の中で、私たちは雨・風とともに暮らしているのです。
この対流圏にまき散らされた火山灰は数日から数週間のうちに落下するため、天気への影響は限定的です。
しかし、カルブコ火山のように、対流圏のさらに上、成層圏(stratosphere)まで噴煙が達した場合は、世界の気候に影響する可能性があります。噴煙に含まれる二酸化硫黄ガスが成層圏の中で雲を発生させ、この雲が太陽の熱を遮って、地球の表面を冷やす効果(地表面の寒冷化)があるためです。
日本の記録的冷夏を引き起こしたピナツボ山の大噴火
有史以来、火山噴火が引き起こした数々の異常気象が知られています。1815年にインドネシアのタンボラ山(Tambora)が世界最大噴火した際は、欧州と北米で記録的な冷夏「夏のない年」となり、凶作による餓死や暴動が起こりました。
また、1991年、フィリピンのピナツボ山(Pinatubo)が600年ぶりに大噴火した際は、噴煙が20キロの高さまで達し、地球の温度を約0.5度下げたといわれています。その影響は1993年の日本の記録的冷夏の一因ともなりました。
今回のカルブコ火山の噴火では、成層圏に注入された二酸化硫黄ガスの量が多ければ多いほど、世界の気候に与える影響が大きくなる可能性があります。しかし一方で、カルブコ火山が南半球の中緯度帯に位置していることから、熱帯や亜熱帯の火山噴火と比べて北半球への影響は小さいとも考えられます。火山噴火が引き起こす異常気象のメカニズムはまだまだ解明されていない部分も多く、断定した言い方はできないけれど、地球の誕生から続いている火山噴火と気候との関係に興味はつきません。
火山噴火と世界の気候との関係について、詳しく知りたい方はIPCC第5次評価報告書・第一次部会報告書・よくある質問と回答(気象庁約)の第11章「火山噴火は、気候と我々の気候予報能力にどう影響するのか?」をお読みください。
【参考資料】
IPCC第5次評価報告書・第一次部会報告書・よくある質問と回答(気象庁約):第11章「火山噴火は、気候と我々の気候予報能力にどう影響するのか?」
チリ政府ホームページ:http://www.gob.cl/
宇宙からみたカルブコ火山の噴煙:NASA Earth Observatory(Calbuco Volcano Erupts):http://earthobservatory.nasa.gov/NaturalHazards/view.php?id=85767
チリ気象局(DIRECCION METEOROLOGICA DE CHILE):http://www.meteochile.gob.cl/
平成24年(2012年)理科年表:国立天文台編,丸善出版.