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「神の国」と「オリンピック」ー新国立競技場問題の本当の責任者についてー

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
(写真:tableatny)

2020年東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設に必要な予算が、デザインが決定した時と比べて大幅に増えた。そのことが問題視されると同時に責任所在が話題になっている。大きく三者が登場している。国と東京都とオリンピック組織委員会である。こういう時の常ではあるが、結局は今回も互いに責任を擦り合うという不細工な結末になっている。

責任はどこにあるのか。オリンピック組織委員会か、国か、東京都か。オリンピック組織委員会の森会長の「誰にも責任はないでしょう」という発言が興味深い。

森喜郎は、85-86代目の日本の内閣総理大臣だったが、失言が多いことでも有名だった。思い出に残るのは「神の国」発言である。実は今回の責任所在と「神の国」がつながる。

文化功労者で2002年より第16代文化庁長官をつとめた故河合隼雄を思い出す。河合は日本人らしさについて多く研究している。古事記に登場している神々の大きな特徴は「中空均衡構造」であると紹介している。少し要約したい。

古事記の中で最初に名乗られる神は「アメノミナカヌシ」で、そこに「タカミムスヒ」と「カミムスヒ」という神も登場する。しかし、後から出て来た「タカミムスヒ」と「カミムスヒ」がいろいろと活躍するが一番最初に出てきた「アメノミナカヌシ」は中心であるはずなのにそれ以降に文章の中で現れることはない。

もう一組として、ホデリ(海幸彦)とホオリ(山幸彦)も有名ですが、実はその間には何もしない「ホスセリ」という神がいる。

日本で最も尊敬を集めている、太陽の女神である「アマテラスオオミカミ」と月の神である「ツキヨミノミコト」と「スサノオノミコト」の三貴神ですが、「アマテラスオオミカミ」と「スサノオノミコト」は激しく衝突などを繰り返しているのに真ん中にいるはずの「ツキヨミノミコト」が無反応のまま存在している。

河合は日本のこれらの神々の動きを見てそこには、責任がはっきりする一神教の国に一般的に存在する「中心統合型構造」とは違う形が存在しているのだと説明している。この国の場合は、たくさんの神が登場するだけではなく、その場に何もせずただいるだけの神がいたり、センター不在のまま物事が運ばれたり、決まったりする「中空均衡型構造」が存在しているのだと言う。複数者が集まり、中心がない状態で、責任の所在は曖昧な状態で物事が決まる文化が国の神話にも見受けられるのだという。

河合がまだ生きていたら、おそらく今回の新国立競技場の話を、中空均衡構造が神の時代と同じように今に至ってこの国に存在しているのだということを説明する例として取り上げるに違いないと想像する。案ととして公表されているスタジアムの形状そのものも「中空均衡型構造」に見えなくもない。

森総理の「神の国」の発言を受けて当時の野党から、日本は「政教分離」であることと「国民主権」であるとの指摘を受けた。

この国には、神々の時代から継承された日本らしい、中空均衡構造の文化が今に至って残存している可能性はある。しかしオリンピック開催に向けての意思決定の機関としてここで登場している三者は神とは違う。右肩上がりの成長とは無縁の成熟国家日本で2020年に開催されるオリンピッックは、ひたむきに努力に努力を重ねている選手と民の真心と血税の上で成り立とうとしている祭り事である。意思決定に関わる三者とも、高い志と、芯となる責任をもって公僕となる日本人としてのらしさこそ発揮してもらいたい。

(写真:gor Zhukov)
(写真:gor Zhukov)
社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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