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日本が強豪国認定の「ティア1」昇格って本当?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ワールドカップ日本大会で初の8強入りした日本代表(写真:青木紘二/アフロスポーツ)

 ワールドラグビーの会長選挙で再選されたビル・ボーモント氏が、日本を強豪国とランク付けされるティア1に昇格させる見通しであることが報じられている。

 世界のラグビー界には階層を意味するティアという構造が根付いていて、伝統的な上位国や一部の新興勢力がティア1に位置づけられており、日本はティア2と目されてきた。日本が11番目のティア1国となれば強豪国とのマッチメイクや分配金の受け取りを有利に進められるのでは、と見られている。

 日本ラグビー協会は5月20日、リモートで定例理事会を実施。終了後は会長選挙にもコミットした岩渕健輔・専務理事がブリーフィングをおこない、この件などについて言及した。

 まずは新型コロナウイルスの感染拡大に伴うテストマッチ(代表戦)中止に関し、話を進める。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――6月からのウェールズ代表、イングランド代表とのテストマッチ(代表戦)は、予定された日程での開催はできないこととなりました。

「7月までの国際試合がすべて中止。これで財政のインパクトが10数億円になる。収入面で難しい問題があるが、対策をしていきたい。活動再開につきましてはワールドラグビーからガイドラインが発表されました。日本協会としてはこれに基づきプログラムを作成しています。各種大会を始めるにあたっての基本的な判断基準、衛生管理を含めた運営方針を定めたもの。協会のメディカル委員会、医療関係者、専門家の意見を含めながら今月中には作成し、発表させていただきたい。政府要請に従いながら、安全に活動を再開することを第一に考えたいです」

――当該の代表戦が10月以降に延期して実施される可能性は。

「現時点で我々にとっての大きな収入となる国際試合をどうやるか。6、7月の国際試合は1度なくなっている。一方で、(代表戦は)世界中でなくなっている。他の代表戦、各国のリーグ戦を含め、国際カレンダーの調整をしています。我々としてはいち早くラグビーをして皆さんと一緒にワールドカップ時のような状況になれればと考え、その準備をしています。開催時期がいつになるかは、ワールドラグビー、あるいは色々な国と週に1度はどういうオプションがあるのかを話し合っています。どの国も同じように、どうにか開催できないかという方向で話しております。一方で、渡航そのものが厳しく制限されている国もあるなど、国によって事情が違う。そんななか、『こっちはできるがあっちはできない』とはできません。そのため『ここのタイミングで』という方向性は出ていません。ですが、『何とかいち早くやりたい』とワールドラグビーが中心となって話をしています」

 今度のゲームが10月以降に延期される可能性はいまだに残されている。ただし正式決定を下すのはワールドラグビーとあって、慎重な談話に終始するのも自然な流れだ。

 ここから先は、そのワールドラグビーの会長選挙に話が及ぶ。その延長で、今回報じられるティア1入りにまつわる話題が展開された。

――5月2日に結果が発表されたワールドラグビーの会長選挙について。現職のビル・ボーモント氏(イングランド)が28票で、副会長だったアグスティン・ピチョット氏(アルゼンチン)の23票を上回り勝利しました。日本は持てる2つの票をボーモント現会長に投じている、と言われています。

「2人の会長候補者のマニフェストを各理事会のメンバーに配り、それに基づき考え、かつ2人の候補者と話をしました。話の内容はマニフェストの内容に基づいてどう考えているのか、日本協会がワールドラグビーに何を期待しているのかになります。

 選挙が終わってからも色んな報道がなされています。そこで我々が少し考えなきゃいけないことがあります。

 いまは北と南という構造でよく話がされています。テストマッチでは6月は北から南へ、11月は南から北へ動いているが、これからは『どちらか(に比重を置く)』という考えではない。日本はワールドカップをホストした国。これは過去に6つしかないと認識しています。またワールドカップでベスト8入りした国も過去13か国しかないと思っています。そうしたことを踏まえ、我々はもう1度ワールドカップを開きたいと公に話をさせてもらっています。もし再招致が決まればそれは過去4か国しかない。我々がそういう国として世界のラグビー界でやらなくてはならないことはたくさんあります。その責任を果たすことが、ラグビー界での責務です。今回ボーモントさんが会長になったが、新しいワールドラグビーで日本協会が果たすべき役割を進めていきたいと思っています。

 これから先、世界のラグビーが大きく広がるには、ふたつの対立軸ではなく、大きな視野で捉えないといけない。そのなかで日本協会が役割を果たさなければいけない」

――ボーモント氏への期待は。

「すでに発表になったかもしれませんが、ワールドラグビーとしてガバナンスの改革をすると彼は話していました。ラグビー界の構造、ゲームの決まり方等々について第三者を入れていくと聞きました。ここの部分は、日本がどうしても話に入っていけなかったところなので期待していますし、ラグビー協会としてもそうしたプロセスの中に入っていきたいと思っています」

――この「ガバナンス」とは、組織のガバナンスのことか、ティアのことも話すのか。

「そういう風に認識しています」

――補足です。一部で報じられた日本のティア1入りへの動きは、かなり確度の高い情報と見られています。一方でボーモント氏の談話などからは、そもそも「ティア1、2」という仕組みそのものを見直したい意欲も感じられます。実際のところ、どうなのでしょうか。

「ティアという考え方には明確な基準もないですし、どのように決まって来たかも曖昧な状況であります。そういったことから、どうやったらティア1に入れるかの明確な答えもないのが現実です。その意味では、考え方そのものを見つめ直すことが必要だと思っています。我々としては、ティア1に入りたい、ティア2がいいということではなく、今回のワールドカップを招致するにあたっては、それまで伝統国だけでパスを回しっていたところそうじゃない国(日本)に回ってきた。役割は非常に大きいのではないかと認識しています」

――ボーモント氏も似たようなお考えですか。

「ボーモントさんが公にそのような話をされたかはわからないですが、構造そのものを見つめ直すという話をされたことは、伝わっているのかなと思います」

 日本協会が目指しているのは、世界のラグビー界の意思決定のプロセスに加わることだ。

 意思決定のプロセスに加わった状態をティア1と捉えるのであれば日本がティア1入りへ前進を図っていて、会長選挙で勝利したボーモント氏に投票したのだとしたら、そのこと自体が自体が日本のティア1昇格を後押ししうると取れる。一方、ワールドラグビーがティアという構造をなくす方向で話を進める場合、日本協会は新しいストラクチャーのなかで意思決定のプロセスに加わりたいとするのだろう。国際情勢が考慮されているであろう繊細な言葉選びにも、その思いがにじむ。

 そしてこの先展開される国際リーグのスーパーラグビーに関する談話でも、強調されたのは「話し合いのなかに日本が最初から入って話をする」ことの重要性だ。

――国際リーグのスーパーラグビーに参加するサンウルブズが7月、スーパーラグビーのオーストラリア勢のリーグ戦に参加するかもしれないと報じられている。今度の新リーグには参加しないサンウルブズについてどう考えているか。特に、スーパーラグビーから除外される来年以降についての動向は。

「サンウルブズのCEOで理事の渡瀬(裕司)からも話がありました。オーストラリアについて7月から開始の方向、サンウルブズそのものが渡航できるかどうかがポイントになっていると話がありました。出場できれば出場する方向で準備を進めています。一方で、政府判断もある。これについては近日中に話があるのでそれに沿って進めていきたい。

 サンウルブズは日本ラグビー界にも貴重な存在だと思っています。今後はいまのところスーパーラグビーから撤退することになっていますが、国際カレンダーの再編等もあるので、この先に何か新しい展開があるのかも含め、考えていきたい。サンウルブズそのものも大切にしていきたいと思っています」

――チームは存続させたいという思いか。

「チームとして存続させたいとなった時は出場できる大会がないといけない。いろんな状況が考えられる。続けられるかどうかはわからないのが現状ではあります」

――「国際カレンダー」の調整についてもう少し具体的に伺います。スーパーラグビーが昨今の事情を踏まえて予定されていた14チーム総当たり制をおこなわなくなる可能性もあります。そうなった場合、サンウルブズをはじめとした日本のチームは国際競争のなかにどのようにコミットするのか。考えを聞かせてください。

「先ほどのティア1、ティア2の考え方も関係してくるが、前回のワールドカップでは選手やチームの頑張り、応援していただいた方のおかげでベスト8に入れたと思っています。ただ、次にベスト4に行けるかというと簡単ではない。

 そんななか、どうやって競技力を維持するか、どう財政基盤を安定させるかがポイントになります。ここではティア1、ティア2などは関係なく、どういうコンペティションに参加できるか、そのうえでどう財政を安定させられるかが今後の大きな課題だと思っています。

 いままでは、すでにできていた大会に乗っかるのが日本の立ち位置でした。でも、いまはコロナウイルスの影響で大会、インターナショナルのカレンダーを見直していて、スーパーラグビーもどうなるかわからない状況です。

 ですので、そういった話し合いのなかに日本が最初から入って話をすることを、いましなければいけないと思っています。そのなかで日本ラグビー界、日本代表にとって一番いい強化策を取っていきたいです」

 たとえばスーパーラグビーが加盟国の国内戦を増やす形に再編された場合、各グループの上位国とサンウルブズをはじめとした日本のチームが戦えるようになればどうか。そうなればクラブレベルでの国際試合の数を南半球の強豪国と同程度にできるうえ、その参加権の利用方法次第では日本代表の強化を強く後押しできる。その方向性を前向きに見る関係者がいるのも確かだ。

 もっとも本当に大事なのは、かような議論そのものに日本が加わることである。2019年6月までの前執行部は国際交渉で課題を残していた。森重隆現会長が懸念材料を払しょくするため専務理事に擁立したのが、ケンブリッジ大学社会政治学部修士課程卒で元日本代表ゼネラルマネージャーの岩渕氏だった。いまの日本ラグビー界が国際ラグビー界のサロンでどこまで存在感を示せるか、期待がかかる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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