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世界人口の50%が水を得るの厳しいー気候変動の影響ー3月22日「世界水の日」

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
干ばつのバングラデシュでの水くみ(WaterAid/Abir Abdullah)

干ばつで水源の枯渇、洪水で水源が汚染

 3月22日は国連の定める「世界水の日」。今年のテーマは「水と気候変動」である。

 私たちはかつてない気候変動の時代を生きている。激しい干ばつ、壊滅的な洪水、頻繁に襲ってくる台風など。今年1月に開催された「世界経済フォーラム」で公表された『グローバル・リスク報告書』(2020年版)においても、気候変動と水は大きなリスクとして上位にランキングされた。だが、世界の要人、知識層が考える以上に現場は深刻だ。

「グローバルリスク報告書」で上位にランクされた項目(図表は著作作成)
「グローバルリスク報告書」で上位にランクされた項目(図表は著作作成)

 開発途上国の水と衛生を支援する国際NGOウォーターエイド(日本法人ウォーターエイドジャパン)は、3月19日、世界各国の気候変動の現状、将来予測、提言をまとめた、『気候変動の最前線 2020年 世界の水の現状』を発表した。

 (全文PDF)"On the frontline -The state of the world's water "

 レポートによると、気候変動に脆弱な国や地域では、気候変動によって水資源、給水システムに破壊的な影響が出る。きれいな水が得られないため健康に影響をおよぼす。

レポート『気候変動の最前線 2020年 世界の水の現状』
レポート『気候変動の最前線 2020年 世界の水の現状』

 まったく理不尽なことに気候変動の原因(温室効果ガスの排出など)をつくっていない人たちが、気候変動の影響を大きく受ける。つまり先進国に住む私たちは「加害者」という見方ができる。

世界の人の水アクセス状況(データはウォーターエイド報告書より、いらすとやイラストを著者が構成)
世界の人の水アクセス状況(データはウォーターエイド報告書より、いらすとやイラストを著者が構成)

 上の図からわかるように、世界の3割の人は水道をもっていない。水源まで水をくみに行っている。その状況はさらに悪くなる。これまで使用していた水源が枯渇し、水くみの時間がより長くなる。そのために働く時間、学校に行く時間がなくなり、より深刻な貧困に陥る。洪水によって水源が排泄物によって汚染され病気につながったり、海面の上昇で地下水が塩水化することもある。

 今後気温が上昇すると、こうした状況に拍車がかかる。レポートでは、「2050年までに毎年少なくとも1か月間、水を得るのに苦労する人の数は50億人に達し、世界人口の50%以上になる」としている。

気候変動の「最前線」では絶望的な状況が悪化する

 ウォーターエイドは、マリ、ニジェール、インド、バングラデシュ、エチオピアなど気候変動の「最前線」で活動しているが、すでに不健康と貧困に苦しんでいる。

 マリでは人口の8割が生計を立てるために農業に従事しているが、長期間の干ばつと砂漠化が進行し、北部の住民が南部へ移住している。南部の人口密度は増加し、水の奪い合いが起き、コミュニティ間での対立が深刻になっている。

マリでの水くみの様子(WaterAid/Basile Ouedraogo)
マリでの水くみの様子(WaterAid/Basile Ouedraogo)

 国連によって世界最貧国として位置付けられているニジェールは、気候変動に対しても脆弱な国で、現在、約1000万人が安全な水のない状況で生活している。サハラ砂漠南縁部に広がるサヘル地域全体は社会的にも不安定だが、温暖化の進行とともに渇水と洪水を繰り返すようになり、コミュニティの絶望的な状況は悪化している。

 インドは急速に経済成長しているが、社会は不平等で基本的なサービス提供の格差が激しい。2019年、国の大部分は数十年で最悪の干ばつに見舞われ、水不足に直面している何億人もの農民が畑を放棄した。東部オリッサ州は、大型サイクロン「ファニ」に襲われた。この時期としては珍しく、一帯を襲ったサイクロンとしては、この20年間で最も強く、それにより村は水没し、何千もの家屋とサービスが破壊された。

先進国の排出した温暖化ガスが脆弱国に壊滅的なインパクト

 レポートでは「解決策は明確」としている。それは「きれいな水」と「きちんとしたトイレ」。「きれいな水」と「きちんとしたトイレ」を普及させることがコミュニティの気候変動に対する最初の防衛線である。干ばつの時にいかに「きれいな水」を確保できるか、洪水の時に「きちんとしたトイレ」で汚染の拡散を防ぐかが、重要な課題である。

 ウォーターエイドは今月発表した別の報告書『気候変動対策の少なすぎる予算』のなかで、以下のように課題を見出し、解決に向けた提言を行っている。

ウォーターエイド報告書『気候変動対策の少なすぎる予算』の内容を著者が抜粋、まとめ
ウォーターエイド報告書『気候変動対策の少なすぎる予算』の内容を著者が抜粋、まとめ

 「世界水の日」の目的は「水の大切さや、きれいで安全な水を使用できるようにすることの重要性を世界中で考えること」。先進国に住む私たちの排出した温暖化ガスが、気候変動に脆弱な国や地域に住む人びとの生活に壊滅的なインパクトを与えている現実を直視すべきである。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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