骨太の方針に「PBの黒字化」明記で批判続出。では、しないとどうなる? IMF管理で破綻処理に!
■「PB黒字化」は単なる口先だけの目標
政府は6月21日、経済財政運営の指針「骨太方針」を閣議決定し、「基礎的財政収支」(プライマリーバランス:PB)を2025年度に黒字化させる財政再建の目標を3年ぶりに明記した。
しかし、このPB明記に批判が続出。「PB黒字化には意味がない」「財政出動ができなくなる」「PB黒字化は緊縮財政と増税を意味する。それでは日本が滅びる」と言うのだ。PB明記をめぐっては、自民党内で、財政規律を維持する「財政規律派」と、財政出動の余地を広げることを主張する「積極財政派」との対立が続いた。
そのため、PB明記はしたものの、達成への具体的な道筋は示されなかった。しかも、黒字化達成の根拠となる内閣府の試算は、GDPが中長期的に実質2%で成長していくという“超楽観シナリオ”で想定されている。
つまり、PB黒字化は、単なる口先だけの目標にすぎない。
■「積極財政派」は国民を地獄に導く
とはいえ、PB黒字化を明記しないと、日本は財政規律を重視していない、無視しているということで、市場からの信頼を損なう。ただでさえ国家債務のGDP比が世界第2位の252.36%(2023年度)に上る「借金大国」(第1位は破綻国家スーダン)が、さらに借金を重ねていくと言っているのと同じだからだ。
現在、スタグフレーションにあえぐ国が、財政規律を無視し続けたら、どうなるだろうか? まず、円安は止まらず、ドル円はすぐにでも200円になるだろう。もちろん、インフレも止まらない。
そしてその先にあるのは、国債暴落、ハイパーインフレである。つまり、「積極財政派」は国民を地獄に導こうとしている。
極端な積極財政派は、「国債など償還しなくていい」とまで言う。国債は借金ではないと言うのだ。世界広しとはいえ、市場経済に基づく資本主義国家で、中央銀行が国債と株式を爆買いしている国は日本だけである。そんな国が、国債を償還しないとなったらどうなるか?
■赤字国債の発行は財政法で禁じられている
たしかに、諸外国で国債をまともに償還した例はない。しかし政府債務残高の上限であったり、あるいは対GDP比による財政赤字の限度を決めたり、財政規律は厳格に定めている。たとえば、EU加盟国は、(1)政府の単年度財政赤字を対GDP比3%以下に抑えること(2)政府の債務残高を対GDP比60%以下に抑えること、という基本ルールを守っている。
ところが、いまの日本は税収でまかなえない分は、ほぼすべて国債でまかなっている。つまり、赤字補填である。赤字国債の発行は、財政法第4条で禁止されているにもかかわらず、特例措置として半世紀以上も続いている。
もはや無法地帯。ルールとしてあるのは、「60年償還ルール」という、無限に借り換えできるルールだけである。よって、国債に買い手がつかなくなった場合は、国債は暴落して紙くずとなり、財政は破綻する。
もちろん、日銀が国債を直接引き受けて(=財政ファイナンス)円を刷り続ければ、テクニカルには破綻しない。しかし、そうなれば円は紙屑となり、国民の暮らしは成り立たなくなるが----。
■いまよみがえるIMF「ネバダ・レポート」
日本政府は、「国債が財源」という“国債依存症”にかかってしまっている。また、政治家の多くは、与野党を問わず「財政出動すれば経済は回復する」という“お花畑症候群”に罹患している。
そこで、金融危機、不良債権危機で、日本経済が崩壊寸前までいったとき、国会の質疑でなにが問われたか? ここにその一部を再現してみたい。
この質疑があったのは、2002年2月14日、衆議院予算委員会。質問者は五十嵐文彦・衆議院議員(民主党、当時)で、五十嵐議員は「ネバダ・レポート」(通称)という、もしIMFが日本を管理下に置いたら、どういう政策が打ち出されるかということを詳細に述べたレポートを手にしていた。
このレポートは、一部報道で真偽不明とされたが、出所はIMFそのものではないが、内容はIMFが金融危機で管理下においた国に要求することが列記されている点で、価値のあるものだった。のちに、私は五十嵐議員に直接お会いして、このことを確認している。
■赤字財政の改善が経済成長に結びつく
では、「衆議院議事録第10号抜粋」(平成14年2月14日)より、どんな質疑であったのか、以下再録したい。*原文のママ、肩書きなど一部を注記。
五十嵐委員 竹中大臣(竹中平蔵、金融経済財政政策担当大臣、当時)に伺いたいと思うんですが、きのう、私、時間がなかったので口早にちょっと御説明をしてしまいましたけれども、需要の単純な追加というのは効果が極めて限定されるということを申し上げました。同時に弊害もあるんだということも申し上げました。わかりやすく簡単に、このことをお認めになるかどうか、私がきのうお話ししたことについて、御所感があったら伺いたいと思います。
竹中国務大臣 昨日の五十嵐委員の、供給サイドの強化こそが必要だという点に関しては、全く同感であるという思いで聞かせていただきました。需要が一時的に低下したときに一時的に政府が追加するといういわゆるファインチューニングは諸外国はやっていないわけで、それについても慎むべきであるという点も同様でありました。
ただし、需要側にショックがあるときに関しては、これは政府に重要な役割があるというふうにも思います。
五十嵐委員 それは多少の効果があるということは私も認めていますよ。だけれども、これだけの財政状況になってくると非ケインズ効果も生まれるのではないかということも申し上げたわけであります。
それから、苦言を一つ呈しておきますが、先日の予算委員会で、竹中大臣は、需要と供給の関係で、最終的には需要と供給は一致するんだというようなことをおっしゃったですね。これは、あなたが売った値段と私が買った値段は同じですよと言っているにすぎないのであって、国会をばかにしているような発言だと私は思いますので、ぜひそういうようなくだらない、くだらないといいますか明々白々の話をここでして何になるんだという話ですから、それは御注意を申し上げておきます。
それから、赤字財政の改善が中長期的な経済成長率の上昇に寄与するという諸先進国の常識を今お認めになったわけですけれども、よその国ではこういうことをやっていないということをはっきり認識しているというお話でいいわけですね。今お認めになったのでいいと思いますが。
■IMFの金融セクター審査を受け入れると表明
五十嵐委員 私のところに一つレポートがございます。ネバダ・レポートというものです。これは、アメリカのIMFに近い筋の専門家がまとめているものなんですけれども、この中にどういうことが書いてあるか。
ネバダ・レポートの中でも、昨年の9月7日に配信されたものなんですけれども、IMF審査の受け入れの前に、小泉総理の、日本の税収は50兆円ほどしかない、今の85兆円を超える予算は異常なんですという発言があります。これを大変重視して、当然だと言っているんです。
同時に、9月上旬、ワシントンで、私、柳澤大臣(柳澤伯夫、金融担当大臣、当時)と行き会いましたけれども、そのときに、柳澤大臣が記者会見をワシントンでされていまして、IMFプログラムを受け入れるという発言をされていますね。これは御確認をさせていただきたいんですが、そのとおりですか。
柳澤国務大臣 IMFのFSAP、これは受け入れます。これは、もともとがG7の国で発案をしたものでして、それをいつやるかということを我々も考えておりましたが、我々の方はペイオフという大事業があるので、生まれたばかりの役所でマンパワーがとかく不足であるというようなこともありまして、少しそのタイミングを見計らったということが背景で、今回、そういうことを正式に表明したということでございます。
(FSAP:IMFが加盟国に対して行う金融セクターの安定性を評価するプログラム。日本を含む主要国は5年に1度審査を受けることになっている)
五十嵐委員 極めて狭い意味、いわゆる金融のIMFによる検査という意味で柳澤大臣は使われているんですが、IMFの方では、金融面のプログラム、それは検査だけではないと思いますが、いわゆるIMFのプログラムの中には、金融面とそうでない部分があるんですね。主に我々も金融面をとらえているし、その検査も含めて、柳澤大臣も金融面のことを頭に置かれているというふうに思うんですが、このネバダ・レポートの中ではこの2つの発言を評価しておりまして、これが当たり前なんだということを言っております。
つまり、バランスバジェット、収支均衡というのが極めてIMFでは重視されるんだということを言っておりまして、もしIMF管理下に日本が入ったとすれば、8項目のプログラムが実行されるだろうということを述べているのであります。
■プライマリーバランスの均衡は世界の常識
五十嵐委員 手元にありますが、その8項目というのは大変ショッキングであります。
公務員の総数、給料は30%以上カット、及びボーナスは例外なくすべてカット。公務員の退職金は一切認めない、100%カット。年金は一律30%カット。国債の利払いは5年から10年間停止。消費税を20%に引き上げる。課税最低限を引き下げ、年収100万円以上から徴税を行う。
資産税を導入し、不動産に対しては公示価格の5%を課税。債券、社債については5から15%の課税。それから、預金については一律ペイオフを実施し、第2段階として、預金を30%から40%カットする。大変厳しい見方がなされている。
これはどういうことか。そのぐらい収支均衡というのは大事なんだ、経済を立て直すためには極めて大事なんだということを、世界の常識となっているということを示しているわけであります。
こういう認識をお持ちになっているかどうか、財務大臣、竹中大臣、伺いたいと思います。
塩川国務大臣 (塩川正十郎、財務大臣、当時)数字の面でいろいろ議論ございますけれども、私は、今おっしゃったような厳しい認識は持っております。
竹中国務大臣 短期的に常に均衡させることが重要かどうかということについては、当然のことながら議論が御承知のとおりありますけれども、長期的にやはり持続可能であるためには、それはまさにプライマリーバランスを均衡させなければいけないと強く思っております。
五十嵐委員 その厳しさが違うということを私は申し上げたい。ここまでしなきゃいけないんだというほど世界の常識はこの面に厳しいということであります。
■8項目にわたる日本の破産処理
以上が、国会質疑の主要部分だが、これを再読すれば、「積極財政派」の主張が、いかに“お花畑”で、日本という“金融財政ガラパゴス”を正当化するだけのものかわかるだろう。
五十嵐議員が質疑で述べている8項目を、以下、箇条書きでまとめておこう。
1、公務員の総数および給料の30%カット。ボーナスはすべてカット。
2、公務員の退職金は100%すべてカット。
3、年金は一律30%カット。
4、国債の利払いは5~10年間停止(=事実上紙屑に)。
5、消費税を引き上げて20%に。
6、課税最低限を年収100万円まで引き下げ。
7、資産税を導入し、不動産に対しては公示価格の5%を課税。債券・社債については5~15%の課税。株式は取得金額の1%を課税。
8、預金は一律、ペイオフを実施するとともに、第2段階として預金額を30~40%カットする。
■IMF審査を受け入れ黒字転換したカナダ
IMFが金融・財政破綻国に対して求める「緊縮財政・構造改革」が厳しすぎるという批判がある。たしかに、IMFプログラムを実行した場合、経済は大きく落ち込む。
1997年のアジア通貨危機では、IMF管理下に入った韓国やタイのGDPは大きく落ち込んだ。1999年のブラジル、2001年のアルゼンチン、 2009年のギリシャなども同様だ。
しかし、その後、各国とも立ち直り、経済は再生した。
IMF審査を最初に受け入れた先進国カナダは、1994年から、大改革を実行した。当時のカナダは、国債を発行しすぎてG7のなかでも深刻な財政赤字を抱えていた。
カナダの改革の先駆けは、連邦政府の公務員の15%リストラだった。その後、各種補助金の削減、政府系企業の民営化などを次々に行い、なんと3年間で、単年度の黒字を達成したのである。
岸田政権は、相変わらず、財源を国債に求めるバラマキ政治を続け、2024年度予算では34兆9490億円の新規国債の発行を予定している。また、これまでに発行した国債の償還や利払いにあてる国債費は27兆90億円と過去最大。PBは8兆3163億円の赤字となっている。