代表MF山口蛍はセレッソ大阪復帰。絶賛されたボランチが落ちた「罠」
日本代表ボランチである山口蛍(25才)がドイツ、ハノーバー96からJリーグ、セレッソ大阪に復帰することが決まっている。眼窩低骨折による欠場が響いたことはあったし、チームが2部に降格した事情はあるにせよ、わずか半年での帰国。6試合に出場したのみで、"凱旋"とは程遠い。
「インターセプトとスタミナ。さらに攻撃力も優れる」
それが山口に与えられた評価だったが、実情はなにもできなかったと言える。
では、世界で求められるボランチの資質とはなにか?
ボランチは舵取り、ハンドルを意味するが、その資質、条件はいくらでも出てくるだろう。
「ハードワーク」
「人を潰せる強さ」
「運動量の多さ」
「ボールを奪う技術」
「パスセンス」
「視野の広さ」
あるいは、「ダブルボランチなら、一人はパス出しができて、もう一人は守備で潰せる選手。相性が重要」という意見もあるかもしれない。
しかしそれらの視点は枝葉であって、根幹ではないだろう。
どこに立っているか?
まず、その判断がボランチというポジションのプレーヤーには要求される。
「ボランチは自分のポジションを留守にするな。もし出て行くなら、相手を殺すつもりでいけ」
Jリーグで数々のタイトルを手にしたネルシーニョ監督は選手に伝えたそうだが、ボランチはみだりにポジションを動かすべきではない。ボランチはポジションを留守にすれば、ガードなしに攻撃を受けることになる。自らが立つべき場所を選択、その確保がまず大事になる。味方選手と連係し、補完できる場所に立つことで、距離感を良くし、攻撃でも守備でも負担をなくし、集団としての機能性を向上させる。
次に大切なこと。
それは、いいタイミングでボールを受け、然るべきスペース(もしくは味方)にボールを流し込むことだろう。そして、味方がそこからのプレーを展開させられるか。簡潔に言えば、チーム全体のプレーテンポを作ることになる。
「あいつがパスを叩くと、それ以後の攻撃をイメージできるよな」
究極的には、それが至高のボランチと言えるだろう。
世界最高のボランチと言えるのは、スペイン代表セルジ・ブスケッツだ。ブスケッツは最終ラインと二列目の縦関係だけでなく、サイドバックやサイドアタッカーなど横関係も意識。同時に敵の選手の位置を俯瞰し、自分がいるべき場所を察知している。それによって楽々とボールを受け、プレスの網もかけられる。いい距離感でいることで敵を挟み込み、潰すことも容易だし、ボールを奪い取った後のスムースなカウンター攻撃にもつながる。
なにより、ブスケッツはボールを受けた後、出すパス技術が高度である。ボールの転がり方だけで他の選手と歴然の差だが、迅速で最適のタイミングで、いいポジションにいる受け手がすぐに次のプレーに移れる。ブスケッツは味方に猶予を与えているわけだ。
「いいボランチは、自分は10点満点で7点の選手でも、味方の選手たちそれぞれにプラス1点を与えられる」
その鉄則に、ボランチというポジションの本質がある。スキルとビジョンがブスケッツを超一流の選手にしているのは間違いないが、それは己自身が輝くためよりも、周りが輝くために存在する。目の前のプレーよりも、なん手か先の攻守を捉えている。予測、予感、その実現でボランチは人知れず輝くのだ。
「あの選手はどこにも顔を出し、インターセプトの思い切りがいい。そして攻撃に顔を出せる」
そんな万能感が褒め称えられることもあるが、その目立ち方は皮肉にも、ボランチとしては正しくない。見栄えがいいだけに、人は目を奪われるわけだが、個で完結してしまう。全体の怒濤とならない。
凡庸なボランチは、顕著なプレー貢献に拘泥してしまうものだ。局面のプレーとしては悪くないし、手応えもあるからだろう。しかしそうなった場合、チーム全体を補完しながら動かす、という舵取りは疎かになる。
J2リーグに戻った山口は、舵取りに立ち戻るべきだろう。周りのレベルが下がることで、"自分が決める"という気持ちが強くなってもおかしくはない。ファンや関係者も、きっとそう要求するだろう。だがそれでは、ポジションの本質からはどんどん遠ざかることになる。
ポジションを失わずにいるべき場所に立ち、いいタイミングでボールを受け、迅速かつ最適の場所にパスを出し、そこから繰り出されたプレーが循環しているか。
そこにボランチの評価基準はある。