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中古ゲームソフトの「ニセモノ」 誰もが身近に触れる時代の到来は時間の問題か

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
筆者が入手した中古ファミコンソフトの「ニセモノ」(※筆者撮影。以下同)

先日、とある取材の帰りに立ち寄った都内の某ディスカウントショップで、気になる中古ゲームソフトを偶然発見した。

前掲の写真がそのソフトである。前面には、1986年にナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)が発売したファミコン用ソフト「バベルの塔」のステッカーが貼られており、パッケージやマニュアル、付属品が一切添付されていない、いわゆる「裸ソフト」の状態で、価格は1100円(税抜)で売られていた。

この写真をひと目見て「おかしいぞ?」と気付いた人は、おそらく筆者と同じファミコンブーム期を知る世代だろう。筆者も「バベルの塔」の発売当時は夢中になって遊んだ経験があり、ソフトは今でも持っているので、そのおかしさにはすぐに気が付いた。

以下の写真をご覧いただければ、その違いは誰の目にも明らかだろう。

上の黒いソフトが、筆者が数十年前に購入した「バベルの塔」
上の黒いソフトが、筆者が数十年前に購入した「バベルの塔」

今回見付けたソフトは、おそらく「ニセモノ」だろうと筆者は直感した。だが、もしかしたら何らかの理由で市場に流出した試作品、あるいは店頭デモ用の販促品の可能性があるかもしれないと思い、迷った挙句に買ってみることにした。

早速開封したところ、購入前は半透明のフィルムで包装されていたので気付かなかったが、裏面の注意書きには誤字、脱字があることを発見した。

ソフトの裏面。ステッカーの貼り方が雑で、文面には誤字、脱字が1か所ずつある(おわかりいただけるだろうか?)
ソフトの裏面。ステッカーの貼り方が雑で、文面には誤字、脱字が1か所ずつある(おわかりいただけるだろうか?)

さらにソフトの上部には、中に入っている基板が直接見える小さな空洞が2か所もあった。あまりに稚拙な出来具合を見て、筆者は本ソフトが「ニセモノ」であることをほぼ確信した。

とはいえ、念のため動作確認はしておくべきだろう。筆者は意を決して(?)、帰宅後に本ソフトをすぐさま起動してみた。

上部の隙間から、何と基板が見えている。「売り物」としては、かなり乱暴に作られた印象はぬぐえない
上部の隙間から、何と基板が見えている。「売り物」としては、かなり乱暴に作られた印象はぬぐえない

実際に動かしてみたところ……

本ソフトをファミコン本体にセットして電源をオンにしても、画面が灰色でゲームが起動しない状態が3、4分ほど続いたが、ソフトの抜き差しを繰り返しているうちにタイトル画面が現れた。

見た目は確かに、かつて筆者が遊んだ「バベルの塔」そのものであった。

数分間の格闘後、タイトル画面が表示された
数分間の格闘後、タイトル画面が表示された

試しに15分ほどプレイしてみたが、中身もまったく同じ。続けて、以前から持っていたソフトでも遊んでみたが、今回購入したソフトとの相違点は特に見付からなかった。

先日、筆者が購入したソフトを使用して撮影した「バベルの塔」1面のオープニング
先日、筆者が購入したソフトを使用して撮影した「バベルの塔」1面のオープニング

こちらは、以前から筆者が持っていた「バベルの塔」で撮影した画面写真。どちらもまったく同じように見える (C)1986 BNEI
こちらは、以前から筆者が持っていた「バベルの塔」で撮影した画面写真。どちらもまったく同じように見える (C)1986 BNEI

鑑定の結果は、やはり……

はたして、本ソフトは「本当に」ニセモノなのか? 仕事として日々中古品に触れている、ゲームショップのスタッフに鑑定をお願いすることにした。

鑑定を依頼したのは、以前に拙稿「『中古ゲームソフトのニセモノ』は許さない 真贋をチェックする査定現場は」でもご協力をいただいた中古PC・ゲーム専門店、BEEP広報の丸山満氏。筆者が秋葉原の店舗に件のソフトを持ち込んだところ、丸山氏も過去に類似品を見たことがなかったご様子で、実に不思議そうな目で見つめていた。

やがて丸山氏は、ソフトの表面にバリが数か所あることと、塗装が全体的に雑であることをすぐに見抜き「とうてい正規品とは思えない」との見解を筆者に示した。

では、ソフトの中身はいったいどうなっているのか? 丸山氏にガワを外していただいたところ、内部にはどういうわけか、手作業で何かを削り取った跡が残っていた。

ソフトの内側。バリが目立ち、余分な突起をカッターか何かで削り取った跡も見付かった
ソフトの内側。バリが目立ち、余分な突起をカッターか何かで削り取った跡も見付かった

本ソフトの中には、以下の写真の基板が入っていた。

基板にはメーカー(ナムコ)の表記は一切なく、さらに同店のスタッフがひと目見て「(本物よりも)ICの数が多過ぎるのでは」と指摘したほか、一部のICは傾いた状態で、かなり雑にハンダ付けされているのも発見した。さすがはこの道のプロ、筆者がまったく気付かなかったところを次から次へと教えてくれた。

「ニセモノ」の基板
「ニセモノ」の基板

念には念を入れるべく、基板も筆者が以前に購入したものと比較してみたところ、その形状やICの種類がまったく異なっていた。さらに念押しで、元ナムコのゲーム開発者にも基板の写真を見せたところ、「ナムコ製ではない」とのお墨付きをいただいた。

よって、今回筆者が購入した謎のソフトは「ニセモノ」であることが判明した。前述のステッカーに書かれた日本語の誤記も併せて考えると、おそらく海外で製造されたものではないかと推測される。

「バベルの塔」の本物。表面にはナムコの家庭用ソフトのブランドである「namcot」のロゴがプリントされている(※筆者私物)
「バベルの塔」の本物。表面にはナムコの家庭用ソフトのブランドである「namcot」のロゴがプリントされている(※筆者私物)

「ニセモノ」の流通がさらに増えるのは必至の情勢か

前述した拙稿では、中古市場でプレミア価格が付いたゲームソフトの「ニセモノ」が出回っていることを紹介した。

では、今回の「バベルの塔」のように、特にプレミア価格が付いていないソフトの「ニセモノ」が作られた理由はいったい何か? 丸山氏は以下のように推測する。

「『バベルの塔』をそのままコピーしたものではなく、コピーしたゲームのプログラムが書き込まれたROMを入れ替えるだけで、いろいろなゲームが動くような仕組みになっていると考えられます。最近ではなく、ファミコンブームの最中とか、かなり古い時代に作られた可能性もありますね」(丸山氏)

「ニセモノ」ゲームソフトは、目利きのスタッフがいる専門店であればその正体をすぐに見破り、当然ながら買い取りを拒否する。では、なぜ今回採り上げた「ニセモノ」がリサイクルショップで売られていたのか。

件の店舗は、ゲーム以外のオモチャや家電などの商品も多数取り扱い、学生アルバイトと思しき若いスタッフが非常に目立っていた。おそらく、ゲームに詳しくないスタッフがマニュアルに沿って査定はしたが、それとは気付かずに客から買い取ったため「ニセモノ」が店頭に並んでしまったと思われる。

「ニセモノ」を売り物にしたのは、明らかに店側のミスである。とはいえ、自身が生まれるずっと前に発売されたゲームソフトを査定した、若いスタッフのたった1回のミスを糾弾するのは、あまりにも酷な話だろう。

今は手頃な価格で入手できる中古品であっても、数年後には市場価格が上がり、同時に「ニセモノ」が製造されるタイトルが増える可能性が高まることも考えられる。専門店以外でも「中古ゲームは儲かるから」と、今後も商材として扱い続けるのであれば、やがて3年、5年と時間が経つごとに「ニセモノ」が店頭で出回る可能性がどんどん高まるのではないか。

その結果、「ニセモノ」であることに気付かずに買ってしまう、あるいは「本物はプレミア価格が付いているから」と「ニセモノ」を買って満足してしまうユーザーが増えてしまうかもしれない。今回の「ニセモノ」の発見を通じて、そんな危険を筆者は覚えた次第である。

「このような『ニセモノ』が一般的な店で出回り始めたのは、確かに危険かもしれません。我々としても、しっかりと査定をしなければと改めて思いました」(丸山氏)

読者の皆さんも、もし店頭で気になる中古ゲームソフト、ゲーム機類を見付けたら、特に高額の商品を買う場合は詳しいスタッフに相談するといいだろう。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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