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禁煙効果と「がんリスク」〜21年で非喫煙者と同程度に

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 筆者も以前は喫煙者だった。10代後半から40代半ばまでの約25年間、1日20本のタバコを吸っていた。いわゆるブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数、※1)で言えば「500」で、この数値が400を超えると肺がんの発生率が非喫煙者と比べて約5倍高くなる、と言われている。

まだまだ喫煙率は高い

 日本の喫煙率は下がったとは言え、性別年代によってまだまだ高い。習慣的に喫煙している人の割合は18.3%だが、男性はまだ30.2%、女性も8.2%。さらに男性の30代で42%、40代で41.1%、50代で39%となっている(※2)。

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現在、習慣的に喫煙している人の男女別年代別の割合。2016年度の「国民健康・栄養調査」より。

 一方、タバコを止めたがっている人は全体で27.7%いる。男性は25.4%、女性の35%が禁煙希望者だ。どうだろう。喫煙率が下がった分、こちらの割合は少ないままだ。

 喫煙の弊害は60年以上も前から科学的に明らかにされてきた(※3)。最近の調査でも喫煙者の死亡リスクは非喫煙者の3倍に達する、という報告もある(※4、米国)。日本の研究でも喫煙者の死亡率は非喫煙者に比べ、男性で1.6倍、女性で1.9倍高くなることがわかっている(※5)。

 それでは今、禁煙したとして、いったいどれくらいタバコを断てば非喫煙者と同じくらいリスクが低くなるのだろうか。それについて新しい研究成果が出たので紹介したい。

禁煙期間が長くなるほどリスクは低減

 東京大学と国立がん研究センターなどの研究者が、日本の8つの集団の前向きコホート研究(※6)を用い、合計32万人以上を対象にして全てのがんと喫煙に関連するがんのリスクを評価し、その結果を『Cancer epidemiology(がん疫学)』のオンライン版(2017年12月号)で発表した(※7)。

 それによれば、バイアスや交絡因子(喫煙以外の要因など)を排除調整した後、ある特定の時期から禁煙を始めた男性喫煙者が、21年以上、禁煙を続けた場合、がんリスクが全くタバコを吸わない非喫煙者と同じになることがわかった、と言う。女性の場合はこれが短くなり、11年以上の禁煙で同レベルに戻る(ハザード比:0.96)。

 喫煙の程度を比べた場合、20パック・イヤー(※1)以上のヘビースモーカーでもほぼ同様の結果になった(ハザード比:1.01対1.06)。また、禁煙期間が長いほど、男女ともにがんリスクが有意に低下することもわかった。

 受動喫煙の健康被害など、社会的に喫煙に対する視線が厳しくなってきてもいる。禁煙外来に行けば、保険適用を受けて禁煙治療が始められる。

 21年は長いだろうか。いや、禁煙を始めるのは早いほどいい。この研究でもわかるとおり、禁煙期間が長くなればなるほど、がんに限らず様々な病気にかかるリスクを減らすことができる。喫煙者は一刻も早くタバコ離れしたほうがいい。

※1:ブリンクマン指数(Brinkman index、BI)は日本独自のタバコ消費量(実喫煙数)の尺度だ。世界的には「Pack year(パック・イヤー、パック年)」を使うことが多い。1パックは20本で、1日に1パックのタバコを吸う場合、その量を吸い続けた年数を掛ける。筆者の場合は「25パック年」となる。日本における禁煙外来の保険適用では、35歳以上の者についてはブリンクマン指数(=1日の喫煙本数×喫煙年数)200以上が保険適用の条件となる(35歳以下は指数は関係なく喫煙状況による)。

※2:2016年度の「国民健康・栄養調査」より。習慣的に喫煙している人:※「現在習慣的に喫煙している者」で、たばこを「毎日吸っている」又は「時々吸う日がある」と回答した者。

※3:Richard Doll, A. Bradford Hill, "The Mortality of Doctors in Relation to Their Smoking Habits." , British Medical Journal, Vol.1, 4877, 1954

※4:Neil Mehta, Samuel Preston, "Continued Increases in the Relative Risk of Death From Smoking." American Journal of Public Health, Vol.102, Issue11, 2012、米国の65歳の喫煙者調査(1987年〜2003年)。

※5:M Hara, T Sobue, S Sasaki, S Tsugane, "Smoking and risk of premature death among middle-aged Japanese: ten-year follow-up of the Japan Public Health Center-based prospective study on cancer and cardiovascular diseases (JPHC Study) cohort I." Japanese Journal of Cancer Research, Vol.93(1), 2002

※6:コホート研究:cohort study。公衆衛生、疫学の分析方法の一つで、ある特定の環境や生活習慣などの影響を受けた集団と、そうでない集団を一定の期間、追跡し、両者を比較して研究観察する。前向きコホート研究(prospective cohort study)とは、過去のある時点から未来へ向かって研究観察する方法で、例えば喫煙者を追跡調査し、非喫煙者と比較して何年でどれくらい特定の疾病にかかるかを調べたりする。

※7:Eiko Saito, Manami Inoue, Shoichiro Tsugane, Hidemi Ito, Keitaro Matsuo, Kenji Wakai, Keiko Wada, Chisato Nagata, Akiko Tamakoshi, Yumi Sugawara, Ichiro Tsuji, Tetsuya Mizou, "Smoking cessation and subsequent risk of cancer: A pooled analysis of eight population-based cohort studies in Japan." Cancer Epidemiology, Vol.51, 98-108, 2017

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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