バルサFWスアレスは神も悪魔も恐れない!
2018-19シーズン、欧州チャンピオンズリーグ準々決勝。スペイン王者FCバルセロナはマンチェスター・ユナイテッドと激突する。その攻撃力で、叩きのめせるか――。
ウルグアイ代表FWルイス・スアレスは、得点を狙う使命を託された男である。
オランダリーグ、プレミアリーグ、そしてリーガエスパニョーラと異なるリーグで得点王に輝いている。バルサでは過去4シーズン、平均して約40点近くを記録してきた。まるでゴールするために作られた機械のようだ。
ゴールマシンの人間臭さ
もっとも、スアレスはどこか人間臭い。荒ぶった様子は、生々しいというのか。不穏なイメージさえつきまとう。
「噛みつき事件」
その印象が濃い。オランダリーグでは7試合、プレミアリーグでは10試合の出場停止処分を受けている。そして2014年ブラジルW杯ではイタリア戦でジョルジョ・キエッリーニの肩に噛みつき、ウルグアイ代表としても9試合の出場停止となった。
「気持ちを制御できない」
噛みつくというインパクトが強いだけに、模範的なイメージはない選手ではある。
「ストライカーはゴールと共に生きる」
スアレスは事もなげに言う。
「自分のゴールでチームが前進する、というのは格別の気分さ。ゴールのサイクルは必ずやってくるよ。そのときまで、決して俯かず、ひたすら自分を信じ、あとは天に祈るだけさ」
歪んだまでの純粋さに、スアレスのエネルギーの源があるとすれば――。
スアレスのルーツ
スアレスは決して恵まれた家庭には育ってはいない。出身地はウルグアイ西部、アルゼンチンとの国境の町、サルト。一家はその日暮らしで、食べるのにも困るほどだった。いつも腹を空かしていた。
12歳で両親が離婚し、貧しさは友人のようなものだった。母親に女手一つで育てられ、少年は夢を描くことよりも現実を生きることを求められた。しかし幸運にも、彼にはサッカー選手としての非凡さがあった。
「靴を買ってもらえるような家の子ではなかった」
スアレスは貧乏時代を、彼なりの言い回しで告白している。
「早い話が、"低所得者層"だったさ。子供の頃、スニーカーを店で選んだ覚えはないね。あるものを履いていただけ。でも、母さんには毎日のように感謝していたよ。いつも必ず、できるだけのことをやってくれたから。人生はすべてが可能なわけではないんだ。まあ、時間だけはいくらでもあったから、とにかく友達とボールを蹴っていた。土がデコボコしたグラウンドや街角でね」
スアレスはサッカーに没頭した。1日に何時間、というのではなかった。サッカーボールを蹴る以外、他に何をするのか、という偏った日々だった。お金もなく、食べるものもろくになく、他にやることもない。そして周りには同じような境遇の子供たちがわんさかといた。悪い道に流れていく仲間も少なくなかった。
<ゴールを奪う>
たったそれだけの才能で抜きん出で、道を開いた。その渇望は味方だった。這ってでも、たとえ噛みついてでも――。それがスアレスなのだ。
ウルグアイ人は神も、悪魔も怖れない
「ウルグアイ人選手は神も、悪魔も怖れない」
有名なフレーズである。この勇敢さのおかげで、人口わずか336万人の国の代表はW杯で2度優勝した。2010年W杯でも4位に輝き、世界中に好選手を輩出し続けている。
ウルグアイ人にとって、サッカーは生きることそのものに等しい。スペインでもサッカー人気は高いし、生活に息づいている。しかし、切実さには距離がある。
その感情の部分が、ウルグアイ人の強さになっている。ウルグアイ特有のガーラ・チャルーア(チャルーアの爪)は象徴的だろう。大陸に来た侵略者を相手に最後まで戦い続けた不屈さ。この言葉の前で、嘘はつけない。魂を奮い立たせる。
「Lucho」(ルチョ/ファイター)
それがスアレスの異名である。
スアレスはなぜゴールを奪えるか
しかし、スアレスは野蛮なだけではない。技術的にも戦術的にも一流である。
見落とされがちだが、"ボールを止めて蹴る"というフットボールの原点的才能で傑出している。FKも任されるように技量が高く、ボールを思い通りに止め、飛ばせる。なおかつ、ピッチにおける動きを敵に読ませない。計算高く、戦略的。例えばゴール前のスペースを作るため意図的にサイドに流れ、右サイドではゴールの前のアシスト、左サイドでは自らのゴールを演出するなどいくつかも形を持っている。
前に張るだけではなく、中盤の選手と連係し、ゲームを創る。どの動きもプレーデザインの良さを感じさせ、集団のプレー効率を上げられる。このインテリジェンスは、かつてバルサで活躍したダビド・ビジャにも当てはまる。
一方で、組織に依存することもない。1対1に滅法強く、1対2ですら打開できる力を持っている。打開力とは、一人でシュートまで持ち込む能力を指し、チームにおいて絶対的存在となるのだ。
ユナイテッドを絶望の淵に落とすのは、彼のゴールか――。
スアレスは天に祈る。