気象庁ホームページ「ウェブ広告掲載」の議論から国の防災対策・体制のあり方を考える
■ 突然の発表
「令和2年7月豪雨」により、熊本県で甚大な被害が発生した2日後。発達した雨雲が北上して九州北部にかかり、今度は福岡県・佐賀県・長崎県に大雨特別警報が発表されたのが7月6日だった。私は、最新の気象庁からの報道発表を確認するために気象庁ホームページを訪れ、びっくりした。
トップページに並ぶこれまでに発表された大雨関連の情報に交じって、「気象庁ホームページへのウェブ広告掲載について」という項目が掲載されているのだ。一刻を争う防災対応の最中だったので、気にはなるものの、後刻改めて確認することとして目の前の対応に当たったのだった。
■ 気象庁がホームページを運営する役割
気象情報を提供するホームページは気象庁のほかにも多数あり、民間気象会社が運営するサイトや、Yahoo!をはじめとするポータルサイトにも必ずと言って良いほど気象庁から発表されるリアルタイム更新の気象情報が掲載されている。
こうした天気予報や警報・注意報などといった気象情報の掲載は、当初はむしろ気象庁ホームページよりも、民間気象会社が運営するサイトのほうが早かったほどだ。私がまだ大学生だった20数年前は、気象庁ホームページにはリアルタイムの気象情報ではなく、プレスリリースや業務紹介などが掲載されているくらいだったのだ。気象庁発表の最新の気象情報を入手するために、気象庁ではなく、民間気象会社の運営するサイトへ頻繁にアクセスしていたことを思い出す。
当時私は、「なぜ気象庁自身がホームページで発表しないのだろう」「税金を使って国民全体のために気象情報を発表するなら、気象庁自身も公式ホームページで情報発信し、多くの国民がより使いやすい形で容易にアクセスできるようにしたらいいのに」と思っていたほどだった。
そんな気象庁がリアルタイムで公式ホームページに気象情報を掲載するようになったのは、平成14年(2002年)8月から。認知度やアクセス数の増加に合わせるように掲載される情報も多彩になり、近年では気象庁が新たな防災情報の運用を開始する際にはそのタイミングでホームページ公開が行われることも多くなっている。民間気象会社やマスメディアのほうがそれを掲載・使用するための改修期間や予算が十分に取れず、なかなか対応できないで遅れをとることすらあるほどである。
また、一般向けではないものの、専門的な気象予測資料や技術資料、講習動画などの公開も積極的に行い、民間の気象予報士や自治体の防災担当者のスキルアップを図るような取り組みもホームページ上で積極的に実施している。ホームページの立ち上げ期から知っている私からすれば、隔世の感すらある充実ぶりだ。
ただ、どこまでが国が行うべき業務でどこからが民間のビジネスなのかについては、ホームページでの情報提供においても議論されることがある。こと「防災」に関しては、線引きが容易ではない。同様の民間運営のサイトがある中で、最大の情報提供元である気象庁自身がホームページなどで情報発信することに対し、「民業圧迫ではないか」という声が上がることすらある。
しかし、災害から命を守ることに関して、国民一人ひとりや地方自治体ごとの経済状況・格差により差があってはいけないはずだ。民間気象会社の経営状況や方針の変化によりホームページの有無や内容が左右されることも望ましくはない。これほど多くの国民が当たり前のように利用するようになったインターネットにおいて、誰でも容易に気象情報を入手できる手段のひとつとして、気象庁自らがこれまで通りあるいはこれまで以上に、ホームページという手段を積極的に活用していくべきだと私は思う。今や気象庁ホームページは公的に重要な「防災インフラ」のひとつだと思う。
■ 「自ら命を守る」ツールとして欠かせないサイト
頻発する災害を受け、今、国の防災対策としては以下の方針が打ち出されている。
「自らの命は、自らが守る」
「行政は、それを全力でサポートする」
災害時に全ての国民が手取り足取り、行政から行動を指示してもらい、何もせず何も考えなくても命を守ってもらえるような世の中でないことは、すでに広く知られている。災害時にはみんなが手いっぱいで、誰かが(特に公が)必ずしも助けてくれるわけではないことはかなり前から言われてきたが、改めてその方針を国が強く打ち出して示したわけだ。
テレビなどのマスメディアも、同様である。視聴者全ての人の隣にいて、個別具体的な防災行動を指南することはできない。できるのは、視聴者・住民の方々が一人ひとり、自らに迫る危機を察知できるよう、そしてどう行動したら良いか考えるように促すことくらいである。実際に行動を起こして命を守るのは、昔から変わらず、ほかならぬ自分自身なのである。
テレビ番組によっては、気象庁ホームページを紹介し、実際にアクセスして操作することでその使い方を知ってもらい、住民の方々が「自ら命を守る」スキルを身につけてもらおうと取り組んでいることもある。実際、私も災害のたびに番組内で、パソコンやスマートフォンで気象庁ホームページや国土交通省「川の防災情報」(リンク先に気象庁ホームページのコンテンツあり)などにアクセスして操作し、視聴者の方々に紹介することも多い。
自分が今いる場所の災害の危険度はどの程度なのか。雨の降り方により刻々と変わる危険度が現在どうなっているかを知るために、気象庁ホームページへ自らアクセスして自ら情報を入手することで、一人ひとりが避難などの防災行動に移るのは望ましい姿だろう。そういった意味では、気象庁ホームページは国民の防災インフラのひとつとして欠かせない存在だと私は思う。「自ら情報を取りにいくことで自らの命を守る」際の重要なツールとして積極的に活用されるべきサイトであり、アクセス数が増えるのは当然のことなのだ。
■ ウェブ広告がどう掲載されるのか
気象庁の発表や気象庁長官の定例記者会見(7月15日に開催)でのやりとりによると、広告が掲載されるのはトップページだけでなく、防災情報のページにも及ぶという。大雨災害の危険度を10分ごとに地図上で表示する「危険度分布」のページにも広告が掲載されると明言されている。広告の掲載は9月中旬からを予定しているという。
今回採用されるウェブ広告は「運用型広告」と呼ばれるもので、利用者の検索ワードにマッチする広告を表示する「検索連動型」やサイトの内容に関連した広告を表示する「コンテンツ連動型」などがあるそうだ。気象庁発表の資料では、近年主流となっているウェブ広告手法だそうで、我々がよく見かけるネット上での広告と同様のものと考えて良いのだろう。裏を返せば、我々が普段ネットで見かけるような広告が、気象庁ホームページにも同じように掲載されるようになるわけだ。
■ なぜ気象庁ホームページに広告が掲載されるのか
気象庁のおしらせでは、「気象庁ホームページをウェブ広告媒体として活用することで、ホームページによる持続的・安定的な情報提供を効率的に維持・推進していきます」と記載されている。長官会見では、記者とのやりとりの中で、国が運営するホームページとして「不適切な内容が表示されないように予め排除する」「防災情報が見えづらくなったり、情報の画面が小さくなったりはしないように対応する」などの旨も示された。
また、気象庁の予算が足りないから広告収入でなんとかまかなう、というわけではなく、税金で運用しているもののうち、広告収入を得ることにより少しでも国民の負担を減らすという観点で積極的に進めている、ということのようである。
長官は、「気象庁の予算が足りないからやるということではなく、国として、気象庁ホームページをこれだけの方に見ていただいているおかげで、広告を出せば一定程度の収入が得られるわけですので、それをしないということは、本来得られる収入を無駄にしているということにもなるわけです。そのため、気象庁がどうこうということではなく、国として、これはある意味国民の財産でございますので、そういったものを有効活用していくという観点です。」と述べている。
気象庁長官の定例記者会見は、早い場合には質疑応答も含めても15~20分程度で終了することがあるが、今回は豪雨関連の質問もあったため、1時間近くに及ぶ長いものとなった。それだけ記者の関心も高かったのだろうと推察される。
■ 国民の意見は?
気象庁ホームページに広告が掲載される―――。すでに新聞やテレビなどいくつかの大手メディアが報じたこともあり、この件についてご存じの方々も少なくはなかっただろう。ただ、その後はあまり続報がないようにも感じる。
私自身も、先週、ツイッターのアンケート機能を利用して、フォロワーの方々に賛否を伺ってみた。回答くださった皆様にこの場を借りて深く感謝申し上げる。1週間の回答期間(8月18日午前~8月25日午前)にいただいた回答は1,375票。広告掲載について賛成が22.8%、反対が67.3%、その他が9.8%という結果になった。
おそらく回答くださった方々の多くが、気象解説者である私のツイッターのフォロワーであるという「属性」を踏まえたうえでの評価となるが、1,000人以上という少なくない方々の意見において、反対が賛成の約3倍に及んでいる点は軽んじることはできないだろう。なお、条件付きでの賛成・反対のご意見もいただいており、その他の回答が約1割に達している点についても丁寧に読み解く必要があると感じている。
なお、今回の広告掲載の件について、気象庁がパブリックコメントなどを通じて事前に広く意見を募集したということは、私の知る限り、ない。重要な防災インフラとしての気象庁ホームページに関わることだけに、広く一般に意見を求めても良かったと私は思うのだが…。
■ 命に関わる内容に「広告」が掲載されることの是非
以下は、私の意見である。
私は、そもそも広告を掲載すること自体が、気象庁ホームページの持つ役割や位置づけからして「そぐわない」と考える。間違っているとまではいわないが、「そぐわない」と思っている。平たく言えば、そこまでやらなきゃいけないのだろうか、という思いだ。広告が掲載されることで得られる収入に代表されるメリットと、そのために生じる違和感などデメリットを天秤にかけた時に、そこまでやらなきゃいけないのか、と感じるのである。
経費を少しでも節約してできるだけ国民の負担を減らそうと取り組む姿勢は大変高く評価できるのだが、やらなきゃならないのは「そこ」なのだろうか。私と同じ思いの方々もいらっしゃれば、貴重な税金なのだから、そう、そこまでやらなきゃいけないんだ、とおっしゃる方々もいらっしゃることだろう。
公的機関が運営するものにおいて、さらに、命に関わる内容に付随する形で「広告」が表示されることについては、どの程度の理解・賛同が得られるのだろうか。人によっては全く問題ない、気にならないと感じる方もいらっしゃると思う。収入を得るために大いに進めるべき、という声もあるはずだ。
記者会見の中でも述べられているが、広告が存在することでサイトそのものが重くなって肝心の防災情報の表示が遅くなったり、「情報を伝える」ということに支障が生じたりしないようには配慮されるのは当然のことだ。それも踏まえての是非という意味では、様々な意見があるのだろうと思う。ウェブ広告についての個々人の捉え方・感じ方によっても異なるだろう。
また、テレビ局では、広告掲載がある中では、そのまま放送画面にホームページを取り込んで視聴者の皆様に使い方を紹介する、という方法はなかなか難しくなる。会見時にも記者から懸念事項として示されたが、特に民間放送では同様に広告(CM)により収入を得ているため、競合他社の広告が表示される(かもしれない)となると、非常に具合が悪い。広告を表示できないようにブラウザ上で操作できる、ということも会見では述べられているが、その自由度などの状況次第では、広く皆さんに知ってほしい・使ってほしいのに、使い方を呼びかけることが簡単にはできなくなるかもしれない。悩ましい問題である。
広告収入を得てホームページの運営に充てないと運営がままならないのであれば、それはそもそも必要な予算が十分に確保されていないわけで問題なのだが、記者会見における長官の発言ではそうではないことが明言されてはいる。
しかしながら、ならば一方で、他省庁ホームページにもあまり例のないこの広告掲載という取り組みが、なぜ気象庁で真っ先に進められることになったのだろうか。理由のひとつには、当然ながら、アクセス数が非常に多いサイトであるからそれを活用して、広告収入を得て少しでも運営費に充てることで、利用する税金(国民の負担)を軽減させること、だろう。そして、私の邪推だが、アクセス数が多く国民によく知られたサイトだからこそ、「このように積極的に取り組んでいますよ」というアピールに利用したいという面もあるのではないか、と私は勘繰ってしまうのだ。
■ 災害が頻発しても「コーヒー予算」のまま
失礼を承知で申せば、私は、気象庁にはもっと「強気」でいてほしい。
当然、無駄は徹底的に省くべきだが、必要なことには税金という形で応分の負担を国民に求めるべきだと感じる。何が必要で何が無駄なのかをしっかりと議論したうえでの「命を守る」ための負担であれば、受け入れられるはずだと私は思う。気象庁は安易に妥協したり諦めたりせず、財務当局と徹底的に折衝して予算を確保してほしい。(きっと今もすでに、精いっぱい頑張っていらっしゃるのだとは思うのだが。)
実は、気象庁の年間予算はこの20年ほど、大きく増加してはいない。気象庁の令和2年度(2020年度)の年間予算額は約594.9億円である。ものの試しにザッと計算してみると…。
594.9億円 ÷ 1億2千万人 = 495.75円
国民一人当たりの年間負担額は500円弱となる。ちなみに、私は今、本稿を某コーヒーショップの店内で書いているが、先ほどカウンターで支払った1杯の代金は484円(税込)である。つまり、国民一人当たりの気象庁の業務に対する年間の負担(税金)は、概ねコーヒー1杯分なのだ。
こうした事情は昔から変わらず、気象庁の予算は長いこと「コーヒー予算」と呼ばれ、気象業界では揶揄されてきた。この予算の中で、日々の天気予報、警報・注意報が発表され、気象衛星ひまわりや気象レーダー、アメダスといった観測機器が運用され、もちろん予報官をはじめとする気象庁職員の人件費もまかなわれており、自然災害から国民の命や財産を守るために、365日24時間休むことなく業務に当たっているのである。私が気象庁職員の方々からこの「コーヒー予算」という言葉を聞く時はいつも、自虐的な雰囲気の中、怒りと諦めにも似た感情に混じって、「その予算の中でも命を守る仕事に日々臨んでいるのだ」という誇りも感じられている。
ここまで書いて、ひとつ、少し意地悪な比較を思いついてしまった。各社の報道によると、今般のコロナ禍の中、政府からの布製マスクの全世帯配布にかけられた費用は約260億円だそうだ(当初は466億円と伝えられた)。重要性・緊急性など当然ながら単純な比較はできないが、気象庁の約半年分の予算に迫るほどの額である。こんなにも自然災害が頻発する状況で、なぜ気象庁予算の本格的な増額が検討されないのだろう。日本の年間国家予算総額の約100兆円に対する比率で示すなら、わずか0.06%ほどに過ぎないのが気象庁の予算なのだ。災害が頻発する中で、今までと同じ規模の予算で良いはずがない、と私は思う。私たちの代表者たる国会議員の方々は、これで良いと思っているのだろうか。目先の対策のみならず、ぜひとも根本的・本質的な対策を講じた議論を進めていただきたいものである。
以前、気象台・測候所の無人化が進んでいることについて気象庁職員の方に伺った時、「気象庁の今の予算では、新たに何かをするためには何かをやめなければならない」と言われたことがある。ポロッと出たホンネだろうが、防災・減災対策として真に必要なものであるならば、しっかりと議論したうえで、それに応じた十分な予算をつけるべきだと私は考える。もちろん、無駄なものは徹底して省き、貴重な税金を有効活用するのは当然だ。納税者として無駄がないか監視することも重要だろう。しかし、昨今、ますます重要度が増している気象庁の役割・任務に比べて、現状の予算は明らかに少ないと感じざるを得ない。
読者の皆様はどうお感じになるだろうか。「コーヒー予算」、いいかげん、やめませんか。
■ いくつもある国の「防災」ポータルサイト
話をホームページへの広告掲載に戻そう。
私は気象解説者・気象予報士という職業上、気象庁ホームページのヘビーユーザーであり、防災情報の取得には、一般に公開されているサイトのうちでは気象庁ホームページへの依存度が非常に高いと思う。1日に最低でも1~2度は必ずチェックする。
しかし、気象庁以外にも、国には防災を担当する機関がある。実は、そういった省庁も防災情報の一般向けサイトを運営しているのだ。内閣府の「防災情報システム」、国土交通省の「川の防災情報」・「防災情報提供センター」、環境省の「熱中症予防情報サイト」などがそれだ。気象庁からのデータをもとに独自に画面デザインをしたものもあれば、詳細な情報はリンクとして気象庁ホームページの該当ページ(今後は広告が掲載される)に遷移する仕組みのものもある。また、その部局しか持っていない情報が詳しく掲載されているサイトもあり、これも十分に活用できれば防災行動をとるうえではとても有用でもあるのだ。
ただ、私は以前から思っているのだが、国が保有する自然災害関連の予報・観測情報の管理・発表を一元化することはできないのだろうか。ホームページもそうで、情報を持つ省庁や発表元の違いにより、雨量など同種の情報であっても掲載サイトなどがバラバラで、比較・把握する際に非常に扱いづらいと感じることがある。
情報の形式についても、扱いにくいと思うことがある。気象庁は、これまでの報道対応の経緯もあり、メディアを通じた情報の伝達ルートがしっかりと確立されている。気象庁が発表する注意報・警報など様々な防災情報は、「気象業務支援センター」を経るなどして速報的に放送局やインターネット事業者、民間気象会社に届き、ほとんどタイムラグもなくニュース速報やプッシュ通知という形で利用者に伝わるのだ。予め決められたフォーマット(xml形式など)で配信されるため、情報を画面表示するなどの際には非常に扱いやすい。しかし、ほかの機関からの情報提供は必ずしもそうではなく、FAXによる伝達が主流だったりホームページに掲載するだけだったりする。こうしたものは情報処理としては自動化・システム化がしにくいため、当然ながらテレビなどのメディアで発表直後にリアルタイムで速報するのは容易ではない。
そんな中、この夏からは環境省と気象庁が共同で「熱中症警戒アラート」の試行を始めた(今年度の実施は関東甲信地方のみ)。熱中症の危険度の指標として適切な「暑さ指数(WBGT)」は環境省が日々予測しているが、従前からのホームページ掲載だけでは周知が足りず、国民一人ひとりの活用については十分でなかった。一方で、気象庁は気温のデータをもとに「高温注意情報」の発表をし、報道機関などでも積極的に利用されている。そこで環境省が、報道機関への伝達ルートが確立している気象庁と共同で、高温注意情報を発展的解消する形で始めたのが「熱中症警戒アラート」だ。来年度には全国展開する予定である。
私は、このパターンの取り組みはメディアを通じた防災情報伝達の形としては、今後ぜひ進めてほしい理想の形態だと思っている。気象庁がこれまでに築いてきた速報的な情報伝達ルートは、他省庁を圧倒するものがある。この熱中症警戒アラートのように、国の持つ様々な防災情報をぜひ気象庁の保有する伝達ルートをベースとして発展させ、より国民の防災・減災対策に活用しやすい方式として整備していくことを提案したい。
ただし、ここでもまた、予算の問題が出てくると思う。端的に言えば、そこまでするのは今の気象庁の規模では「身の丈に合っていない」という意見もあるかもしれないわけだ。
■ 今こそ再考すべき国の防災組織・体制
だからこそ、私は、災害が頻発する今こそ、国の防災体制・組織を抜本的に再整備すべきではないかと感じている。国の防災担当の部局を統合・再編した「防災省」の新設が一案である。現状で各省庁に予算・人員が分散する状況を打破し、統一的・総合的な防災施策の立案、予測技術の開発、情報の提供を実施するために、国務大臣を長とする防災省を設立する、という構想に一考の価値はないだろうか。省にするのはやり過ぎだというならば、せめて、予測・観測情報の運用をまとめて担う「防災情報庁」という形での再編も考え得る。
同じ政府内でも様々な省庁により別々に発信される、気象・地震・河川・海洋・気候などの各種防災情報を改めて体系立てて再整理し、扱いやすい形式で、シンプルな伝達ルートを用いて、広く国民へ発信する。技術開発も、同一部局として一体的に進める。もちろん、組織自体がひとつになれば、ホームページについても統一され、ワンストップで情報にアクセスできる形に整えやすくなるはずだと思う。
私見だが、今、気象庁は気象庁で、国土交通省は国土交通省で、内閣府は内閣府で、それぞれに防災対応について非常に頑張っていると思っている。「警戒レベル」の導入など以前よりも連携がなされ始めているが、もっと効果的かつ強力に進められないか。大変恐縮だが、それぞれが頑張っているのに、その内容について連携がまだ十分に有機的ではなく、むしろ「縦割り行政」を感じることすら少なくないのだ。組織の壁が問題というならば、十分に議論したうえで、担当をひとつにまとめるのが良いだろうと思うのだ。国民のためにより一層役立つ施策がなされるように、予算や組織といった部分もタブー視せず、丁寧かつスピーディな議論が行われることを願う。そして、それは主として政治の仕事であるし、とりもなおさず主権者である私たち一人ひとりの考えの反映であるべきだと思う。
気象庁ホームページへの「広告掲載」の話から、だいぶ大きなテーマになってしまった。しかし、私には、この議論は本質的には、国の防災対策への予算のかけ方や組織の課題に通ずるものがあると思えてならないのだ。災害が多発する昨今、読者の皆様もぜひ一度、あるべき姿を考えてみてほしい。
【参考資料】
○ 気象庁のおしらせ「気象庁ホームページへのウェブ広告掲載について」
http://www.jma.go.jp/jma/press/2007/06b/20200706_kokoku.pdf
令和2年(2020年)7月6日掲載
○ 気象庁長官 定例記者会見
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/tyoukan/2020/dg_20200715.html
令和2年(2020年)7月15日開催
○ 気象庁予算概要
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/fund/index.html
※追記(2020年12月8日11時20分):
気象庁年間予算の推移を示したグラフの単位(百万円)が誤っていたため、正しい画像に差し替えました。