北京冬季オリンピックがいま一つ盛り上がらない何ともシンプルな理由
外交的ボイコットなど、逆風にさらされる北京冬季オリンピック・パラリンピックは、はたして盛り上がるのか。
それを判断する材料として一つの参考になるのは、同じコロナ禍中で開催した東京オリンピック・パラリンピックだ。
思い返せば日本では、開会式の直前まで浮かれた気分などほとんどなく、テレビ番組の街頭インタビューでマイクを向けられた人々は一様にネガティブだった。
だが、一たび大会が始まると雰囲気は変わった。日本人選手のメダル獲得ラッシュが続いたことなどもあり、ふたを開けてみれば大会は、オリンピック・パラリンピックらしいといえる盛り上がりとなった。
では、北京はどうか。
同じオリンピック・パラリンピックといっても夏季と冬季の違いがあり、同列視できないという悲観的な指摘がある一方、中国共産党が国を挙げて盛り上げる大会という視点から、最終的には盛り上がる大会になるのでは、という見方も根強い。
高まる開会式への期待
確かに、2008年の夏の大会ほどではなくとも、国威発揚の要素など政治的な意味が拭えない大会であれば、それなりに見せ場をつくってくると予測される。
つまり、国の威信をかけて演出されるド派手な開会式や国民を動員した大会運営など、はたして中国が何をやってくるのだろうかといった期待は、いやがうえにも高まるはずだ。
外国人の視点でさえそうであれば、なおさら中国国内での期待はすでに高まっているのでは、と思ってしまうのだが、どうやらそうではないらしい。
年が明ければ、開会まで一カ月を切ってしまうというのに、である。いったいどうしてなのか。
日本のメディアに倣えば、「三期目を狙う習近平の思惑に、市民がしらけてしまっている」とか、「国が大会を盛り上げようとする裏側では、市民が置き去りにされている」といった解説をしたり顔ですべきところだが、実態はそれとも違っているようだ。
冬だからという理由
「やっぱり、冬季というのが中国人にはピンとこないんですよね」
と語るのは北京の友人だ。
「中国人にとってウインタースポーツは縁遠いものなのです。まず、この広い中国大陸でまともに雪が降るのは東北3省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)とチベット自治区、新疆ウイグル自治区の一部だけなのです。中国には寒い地域は多くありますが、雪景色とは無縁なのですよ」
確かに、思い返してみれば日本の北海道があれほど中国の観光客に人気なのは、雪景色という観光資源を除いて説明できないのだ。事実、真冬の夜中にはマイナス10度を下回る日も少なくない北京にだって雪は滅多に降らない。そのため、年にあるかないかの降雪日には、たちまち都市機能がマヒしてしまうほどの混乱に陥る。私自身、四年間の北京留学中に傘を使った記憶がないほどだ。
そんな状況であれば人々がウインタースポーツに親しみを覚えるはずはない。
別の友人も同じように語る。
「そもそも東北の人々が雪を知っているといっても、それはウインタースポーツへの親しみではない。仮にスキーやスケートを楽しむ人々がいたとしても、人口は東北3省を合わせてもやっと1億人に届く程度ですから。中国全土への影響という意味ではやっぱり小さいと言わざるを得ないでしょうね」
また、ただでさえ雪に親しみのないところに加えてウインタースポーツには、ウェアーや用具をそろえなければ楽しめないというハードルがある。つまりどうしても「金持ちの道楽」というとらえられ方がされてしまうというのだ。
黒竜江省海南島市
今回の大会を通じて中国は、北に一つの大きな経済圏をつくろうとしている。それは広東省を中心にした珠江デルタ、上海を中心とした長江デルタに対抗するもので、北京・天津・河北省をまとめた経済圏プロジェクトである。その目玉の一つはウインタースポーツの盛り上がりを契機に、河北省の観光資源を掘り起すことだとされる。全国の小学校や中学校ではいま、体育の授業にも積極的にウインタースポーツを取り入れている。
しかし、こうした政府の思惑とは裏腹に、現状はお世辞にもウインタースポーツ人口が増えているとはいえない。それどころか、肝心の東北3省から人々が逃げ出しているという現象さえあるというのだ。
前出の友人が語る。
「数年前から中国では『黒竜江省海南島市』という言葉が流行しているのです。これは北の人々が寒さを嫌い、南の海南島に出て行ってしまう現象を揶揄した言葉です。毎年、10月を過ぎたころから海南島へと向かう飛行機は比較的裕福な黒竜江省の人々で満席になるというのです」
日本で表現すれば「青森県那覇市」といったところか。余裕があれば、「まずは厳しい寒さから逃れたい」というのも自然な発想だろう。ウインタースポーツどころか、南に逃げているというのだ。