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タバコは吸えば吸うほど「認知症」のリスクが上がる

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 喫煙は、認知症、脳卒中などのリスクを高める。その結果、介護が必要になることも多く、健康寿命が短くなってしまい、家族や社会に負担をかけることにもつながりかねない。要介護になればタバコを吸うのは個人の自由とばかり言っていられないだろう。最近の研究から喫煙による認知症やアルツハイマー病のリスクについて考えてみる。

喫煙は認知症のリスク要因

 いまだに喫煙は認知症(アルツハイマー病や血管性認知症)の予防になると信じている喫煙者も多いようだが、それが間違っていることは1990年代の後半に明らかになっている。それ以前は確かに喫煙がアルツハイマー病を予防するという研究もあったが、1998年に権威ある医学雑誌『THE LANCET』に発表されたオランダのコホート(集団)研究により、タバコを吸ったことのない人と比べ、喫煙者が認知症になるリスク(Relative Risk)は2.2倍、アルツハイマー病になるリスクは2.3倍になることがわかった(※1)。

 日本でも同じような調査研究が行われた結果、喫煙者が認知症を発症するリスクは1.6倍高いとか、老年期の喫煙と認知症に統計的に有意な関係がみられたといったことがわかっている(※2)。

 2015年に発表された論文(※3)は、1961年から福岡県久山町で続けているコホート研究によるもので、754人を追跡調査したところ、中年期の喫煙は認知症(アルツハイマー病と血管性認知症)の強いリスク因子(ハザード比)認知症は2.1(アルツハイマー病2.2、血管性認知症2.6)であり、中年期から老年期にずっと喫煙を続けた場合、認知症の発症リスクは2.3倍(アルツハイマー病2.0倍、血管性認知症2.9倍)だった。しかし、老年期になって禁煙した場合、認知症の発症リスクはかなり下がったという。

 オランダのコホート研究では、認知症の中で脳梗塞や脳出血などによって発症する血管性認知症のリスクについて、喫煙との関係は明らかになっていなかった。だが、上記の日本の研究や中国での研究(※4)によってアルツハイマー病だけでなく血管性認知症の発症にも喫煙が強く関係していることがわかった。

ニコチン依存で長期間、血管が傷つく

 タバコを吸うと強い酸化ストレスが起き、酸化ストレスはインスリンの抵抗性を高めて動脈硬化を引き起こす危険性がある。喫煙は血管を痛めつけ、認知症を発症しやすくさせると考えられ、さらにタバコを吸うと脳への酸素供給が減って脳も痛めつける要因にもなる。

 また、タバコが原因で引き起こされる病気も認知症の発症リスクとなる。例えば、タバコ病ともいわれるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、2型糖尿病、脳卒中、高血圧、心房細動などで、これらは全て認知症の発症と関係している病気だ。

 認知症は、中年期までに脳に及ぼされた影響によって発症するリスクも変わると考えられ、例えば中年期(50歳、60歳)に睡眠時間が少ない人(6時間以下)の場合、70歳になって認知症を発症するリスクは30%高くなるという研究も最近出た(※5)。喫煙も脳へ悪影響を与えることが知られているが(※6)、最近、米国で行われた研究によれば25年間の喫煙量によって認知力に影響が出た、つまりタバコをたくさん吸うほど認知力が低くなったという(※7)。

 加熱式タバコを含むタバコ製品には必ずニコチンが入っている。ニコチンが作用するのは脳だ。脳が反応してニコチン依存になる。

 ニコチンが認知症の発症に関係しているかどうかはわからないが、朝起きてから寝るまで間歇的に長期間、タバコを吸い続け、酸化ストレスで脳の血管を傷つけ続けるようになるのはニコチンの影響による。認知症のリスクを下げ、健康寿命を延ばすためにも、タバコはなるべく早くやめたほうがいいだろう。

※1:A Ott, et al., "Smoking and risk of dementia and Alzheimer's disease in a population-based cohort study: the Rotterdam Study" THE LANCET, Vol.351, Issue9119, 1840-1843, 1998

※2-1:T Hirayama, "Large cohort study on the relation between cigarette smoking and senile dementia without cerebrovascular lesions" Tobacco Control, Vol.1, 176–179, 1992

※2-2:A Ikeda A, et al., "Cigarette smoking and risk of disabling dementia in a Japanese rural community: a nested case-control study" Cerebrovascular Diseases, Vol.25, 324-331, 2008

※2-3:Tomoyuki Ohara, et al., "Midlife and Late-Life Smoking and Risk of Dementia in the Community: the Hisayama Study" Journal of American Geriatrics Society, Vol.63, Issue11, 2332–2339, 2015

※3:Jun Hata, et al., "Secular trends in cardiovascular disease and its risk factors in Japanese: half-century data from the Hisayama Study (1961-2009)" Circulation, Vol.128(11), 1198-1205, 2013

※4:D Juan, et al., "A 2-year follow-up study of cigarette smoking and risk of dementia" European Journal of Neurology, Vol.11, Issue4, 277-282, 2004

※5:Severine Sabia, et al., "Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia" nature communications, doi.org/10.1038/s41467-021-22354-2, 2021

※6:Peter Mazzone, et al., "Pathophysiological Impact of Cigarette Smoke Exposure on the Cerebrovascular System with a Focus on the Blood-brain Barrier: Expanding the Awareness of Smoking Toxicity in an Underappreciated Area" International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.7(12), 4111-4126, 2010

※7:Amber L. Bahorik, et al., "Early to Midlife Smoking Trajectories and Cognitive Function in Middle-Aged US Adults: the CARDIA Study" Journal of General Internal Medicine, doi.org/10.1007/s11606-020-06450-5, 2021

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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