わずか150光年彼方!最も近い星団内にブラックホールが存在しそうです
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「観測史上ダントツで近い距離でブラックホールが存在するかも」というテーマで動画をお送りします。
イタリアのパドヴァ大学などの研究チームは、地球から約150光年しか離れていない、地球から最も近い散開星団「ヒアデス星団」の内部またはすぐ近くに、ブラックホールが存在する可能性が高いことを示しました。
●最も奇妙な天体「ブラックホール」
ブラックホールは、宇宙で最も奇妙な天体と言っても過言ではないほど、私たちの常識とはかけ離れた天体です。
ブラックホールは一般的に太陽の30倍より重い超大質量の恒星が一生を終える際、星の核が自身の重力によって中心の1点に向かって際限なく押しつぶされる事で形成されると考えられています。
ブラックホールの中心にあり、ブラックホールの全質量がそこに集中していると考えられている体積0の1点は、特異点と呼ばれています。
そんな特異点の周りでは重力が極めて強く、そこから脱出するために必要な速度(脱出速度)が光速を超えています。
ですが特異点から離れるほど重力が弱まり、脱出速度が光速と等しくなる境界面が、事象の地平面と呼ばれています。
ブラックホールの事象の地平面の内部領域や、特異点で何が起こっているのかは本当に気になるところですが、残念ながら現在の枠組みでは、それらを知ることは永遠にできそうもありません。
なぜならこの宇宙で物質が出せる速度には光速という上限があるためです。
これは観測から得られた明確な事実であり、アインシュタインの相対性理論もこの光速度が誰から見ても不変であるという事実をもとに成り立つ理論となります。
光速が不変である以上、脱出速度が光速度を上回るほど重力が強くなっている事象の地平面の内部に一度でも入ると、そこからはあらゆる物質も光も情報も出てくることはありません。
なのでブラックホールの内部は完全に一方通行の世界であり、その外に住む私たちは中身を知ることが理論的に不可能です。
しかし中に入ると宇宙の他の場所へワープできる、無限の別の宇宙が広がっているなど、様々な説が存在しています。
これまでの様々な観測から、ブラックホールが実在する天体であることは間違いなさそうですが、その性質はこの上なく奇妙というほかありません。
●既知の「最も近いBH」の発見事例
そんな奇妙なブラックホールのうち、最も地球に近い位置にあるものはどのブラックホールなのでしょうか?
2022年11月に新発見が発表されたブラックホール「Gaia BH1」までの距離は約1560光年しかなく、正式に存在が認められている中では現在でも観測史上最も地球に近いブラックホールとして知られています。
私たちの太陽系が属する天の川銀河の中には、実に1億個ものブラックホールが存在していると推定されています。
ですがそのうち私たちが発見できたのは、未確定の候補天体を含めてもたったの数十件しかなく、そのほとんどが強力なX線などの光を放つ「活動的な」ブラックホールです。
ブラックホール自体は余りに重力が強く、そこから光すらも出て来れない天体なので、ブラックホールの本体から放たれた光を直接観測し、ブラックホールを発見することは不可能です。
ですが例えば非常に近い距離に伴星が存在するブラックホールの場合、伴星の恒星からガスを奪い、奪った物質がブラックホールの周囲を超高速で公転し、超高温で輝く降着円盤を形成します。
このように何らかの理由で周囲に降着円盤のような明るい構造を持つ「活動的な」ブラックホールの場合、周囲の構造から放たれた強力なX線などを観測することで、ブラックホールを発見することができます。
現状「活動的な」ブラックホールばかりが発見されている一方で、天の川銀河内に存在するほとんどのブラックホールは、地球から観測可能なほど明るい構造をまとっていない「休眠中の」ブラックホールであると考えられています。
強烈なX線などの光を放たないため観測が困難な「休眠中の」ブラックホールですが、手掛かりがないわけではありません。
例えば休眠中のブラックホールから十分距離が離れた位置で公転する伴星が存在し、その伴星が「光を放たないけど非常に重い天体を公転している」などとわかれば、間接的にブラックホールの存在を明らかにできるかもしれません。
欧州宇宙機関(ESA)の手がける「ガイア」は、無数の天体を継続的に観測し続けることで、その天体の運動や地球からの距離など様々なパラメータを調べ、天の川銀河の詳細な地図を作成することを目的としたプロジェクトです。
2022年にブラックホールの新発見を発表した研究チームは、ガイアプロジェクトで得られたデータの中から、明るい光を放たない「休眠中の」ブラックホールと公転している可能性のある恒星を探していました。
研究チームはガイアプロジェクトで得られた最新データに含まれる17万件近い連星系の候補の天体から、「暗くて見えない何か」と公転する天体を6つだけ抽出しました。
その6つをさらに詳しく調べると、たった一つだけブラックホールが存在している可能性が非常に高い連星系が発見されました。この連星系は「ガイアBH1」と命名されています。
ガイアBH1は、太陽とよく似た恒星が、太陽の10倍程度の質量を持つブラックホールの周囲を約半年の周期で公転している連星系だそうです。
そしてガイアBH1までの地球からの距離は約1560光年で、それまで最も近かった「いっかくじゅう座X-1」の記録3000光年を、約半分にまで縮めたことになります。
●たった150光年彼方にBHがありそう?
そして2023年の6月、イタリアのパドヴァ大学などの研究チームは、地球からおうし座の方向に約150光年しか離れていない、地球から最も近い散開星団「ヒアデス星団」の内部またはすぐ近くに、ブラックホールが存在する可能性が高いことを理論的に示したと発表しました。
正式に認められている中で最も距離が近いブラックホール「Gaia BH1」を発見したプロジェクトでもある「ガイア」により、ヒアデス星団に属する約200個の星々全ての正確な位置や運動が理解されています。
研究チームはコンピュータ上にヒアデス星団を再現し、お互いの重力の影響で個々の運動速度や星団全体の大きさがどのように変化するのかをシミュレートし、どのような条件であればガイアの観測結果と合致するかを調べました。
分析の結果、星団内に太陽の10倍程度の質量を持つブラックホールが2,3個存在する場合が、実際のヒアデス星団の構造を最もよく再現できたそうです。
また、今から1億5000万年前に星団からブラックホールが飛び出していた場合も、実際の観測結果をよく再現できたとされています。
1億5000万年前というのは宇宙規模でも、6億年前に誕生したヒアデス星団の歴史の中でも大昔というほどではなく、仮に飛び出していたとしても星団のすぐ近くにあることが推定されています。
よってまとめると、ヒアデス星団の内部もしくはすぐそばにブラックホールが存在している可能性が高まりました。
このようなブラックホールが実在していた場合、地球から150光年彼方にあることになりますが、150光年というのは従来のGaia BH1の記録の10分の1以下の距離に過ぎず、物凄く近い距離であると言えます。
ただし研究チームは、ブラックホールが実在していても、観測可能な電磁波も重力波も放っておらず、観測できる可能性は極めて低いと考えています。
このようにブラックホールのほとんどが観測困難であり、これまでの発見例が少ないですが、
実際は天の川銀河内だけで1億ものブラックホールがあると考えられているので、地球から150光年という近距離に実在していたとしても、おかしいことではありません。
もしかするとさらに驚くほど近い位置にブラックホールが眠っているかもしれません。
そのようなブラックホールもいずれ発見されたら面白いですね。