なぜエムバペの移籍は決まらないのか?レアルとパリSGの駆け引き...残された可能性と移籍劇の行方。
スター選手をめぐり、駆け引きが続いている。
レアル・マドリーが、キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)を狙っているのは、もはや周知の事実だろう。エムバペとパリSGの契約は今季終了時まで。次の夏には、フリーでの移籍が可能になる。
「この契約において、我々がお金の問題を持ち出すのは最後だろう。エムバペがベストプレーヤーになるために、最高の条件を提示したい。エムバペは確固たる評価基準を持っている。お金は二次的な要素だ。その額については、2分で決断を下せると思う」
「(契約延長について)なんとも言えない。だが、可能性はある。正式なサインがされるまで、我々は全力を尽くす。彼を残留させるため、すべてを尽くす。レアル・マドリーとの試合で、何かが決まるとは思わない」
これはパリSGのスポーツディレクター、レオナルドのコメントだ。
■エムバペの過去
ただ、マドリーとエムバペの関係は、いまに始まったものではない。
2012年12月。当時、14歳だったエムバペに、ある一報が届けられた。マドリーの関係者がエムバペの父親に連絡を取り、彼を練習に招待したいと申し出た。
かくして、エムバペはマドリードに到着した。カデテ(ジュニアユース世代)のチームのトレーニングに参加。アクラフ・ハキミ、ルカ・ジダンといった選手が、そこにはいた。
「エムバペは細くて、小さかった。ボールを持った時は、スピードが凄かった。決定的だったね。その点では、今とそれほど変わらない。技術的には、際立っていたわけではなかった。コントロールがズレたり、というのはあった。しかし、スペースがあれば、危険な存在になった。スピードや緩急で言えば、ほかの選手と比べて抜きん出ていた」とは当時チームを率いていたルベン・デ・ラ・レッド監督の弁だ。
■フィジカルモンスターの面影は
一方、フィジカルトレーナーを務めていたホセ・アンヘル・ピニェーロが興味深い言葉を残している。
「シャープというか、細くて、でもスピードがあった。腰の位置が高くて、それほど筋肉はなかった。あれだけ細かった少年が現在のようなフィジカル・モンスターになるというのは、説明が難しい…。普通に考えれば、エムバペはヘスス・ナバスのような選手になっていたと思う」
現在、セビージャでプレーしているヘスス・ナバスは、スピードと正確なクロスを武器にスペイン国内外で活躍してきた。ウィングやサイドバックでプレーしてきたナバスだが、エムバペのようにストライカーポジションで起用されるというのは考えにくい。だが、14歳の時点では、エムバペのその後の進化というのは、マドリーのスタッフでさえ想像できなかったのだ。
マドリー行きの話が持ち上がったエムバペだが、当時の彼はフランス国内でのプレー続行を望んでいた。それは両親の意向でもあった。そして、2013年にモナコのカンテラに入団。2015年12月には、モナコでトップデビューを飾っている。
一方で、マドリーもエムバペを諦めなかった。2017年夏、両者が再び接近する。
マドリーはエムバペの獲得にボーナス込みで移籍金1億8000万ユーロ(約234億円)を準備。その金額で、マドリーとモナコは合意に達していたといわれている。しかしながら、最終的には税金の支払いで両者が揉めて、交渉が破談になった。
また、当時のマドリーには、カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイル、クリスティアーノ・ロナウドの「BBC」が揃っていた。フロレンティーノ・ペレス会長に、その3選手を売却するつもりはなかった。エムバペが移籍していたとしても、レギュラーポジションが確約されていたかは定かではない。
そして、昨年夏、マドリーは再びエムバペの獲得に本腰を入れた。移籍金2億ユーロ(約260億円)を用意して、フランス代表のアタッカーを確保しようとした。だがパリSGにオファーを断られ、移籍成立には至らなかった。
現時点、エムバペはパリSGとの契約延長にサインしていない。
14歳の時に、マドリーの練習場を訪れ、ジネディーヌ・ジダンやクリスティアーノ・ロナウドに出会ってから、彼の脳裏には「レアル・マドリー」が残っている。
とはいえ、パリSGにノーチャンスというわけではない。ビッグタイトル獲得なら、状況がひっくり返る可能性はある。いずれにせよ、この移籍劇は最後まで目が離せない展開になりそうだ。