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大阪コロナ大規模医療・療養センターはなぜ必要なのか?

忽那賢志感染症専門医
大阪コロナ大規模医療・療養センターの様子(筆者撮影)

11月5日、インテックス大阪での大阪コロナ大規模医療・療養センターの運用訓練が行われました。

1000床規模の療養所であるこの施設はどのような目的のため設置されたのでしょうか?

この施設の医療監修・責任医師をさせていただいている忽那がご紹介します。

大阪コロナ大規模医療・療養センターとは?

インテックス大阪の広場「インテックスプラザ」筆者撮影
インテックス大阪の広場「インテックスプラザ」筆者撮影

2021年8月25日に厚生労働省から「医療資源の効率化・集約化等の観点から、臨時の医療施設の設置についても、積極的かつ速やかな検討を行う」よう各都道府県に要請が出されました。

これを受けて8月27日に大阪府の吉村府知事は「大阪府に大規模な野戦病院を作る」との方針を示し、運営の準備が開始されました。

吉村府知事よりご依頼をいただき、私はこの施設の医療に関する監修、責任医師をさせていただいております。

この施設の入所対象者は、

・宿泊療養施設がひっ迫した際の、軽症患者及び無症状患者(家族での療養なども想定)

・軽症中等症病床がひっ迫した際の、入院が必要な軽症患者及び中等症I患者

です。

常にオープンしている施設ではなく、原則として無症状・軽症者はホテルでの宿泊療養が優先となりますが、「宿泊療養施設の最大確保部屋数の使用率」 がおよそ50%以上になる場合に無症状・軽症者を対象に開設準備が開始され約2週間後に受け入れ開始となります。

また「軽症中等症病床の最大確保数の使用率」 がおよそ70%以上のときにも中等症Iの患者を対象に開設準備が開始されます。

インテックス大阪全体図(大阪府「大阪コロナ大規模医療・療養センター360バーチャルツアー」より)
インテックス大阪全体図(大阪府「大阪コロナ大規模医療・療養センター360バーチャルツアー」より)

場所はインテックス大阪という大阪市住之江区にある大規模国際展示場の一部を使用しています。

インテックス大阪には1号館から6号館まで会場がありますが、このうち最も大きい6号館を使用しています。

この6号館の中に、1000床の病床が設置されていますが、その内訳は

3階:無症状・軽症患者 500名

1階:無症状・軽症患者 300名、中等症 200名

となっています。

無症状・軽症患者用のお部屋はこんな感じです。

大阪コロナ大規模医療・療養センターの個室(筆者撮影)
大阪コロナ大規模医療・療養センターの個室(筆者撮影)

「せまッ!!」と思われたかもしれませんが、私の表現力不足のせいです。

ビジネスホテルの部屋よりは広いです。

テレビも見れますし、WiFiも入ります。

共用スペースも広く設けられており、マッサージチェアも入る予定です。

もちろんトイレやシャワー、ランドリーなども設置されていますし、お食事も魚や野菜が多いAコースと、揚げ物などが多いBコースが準備されています。

実際にどんな感じなのか見てみたいと思われる方がいらっしゃると思います。

大阪府は「バーチャルツアー」で施設内部を紹介していますので、以下のリンクから内部についてご紹介しています。

バーチャルツアー(以下のリンクをクリックしてください)

3階の無症状・軽症者用エリア

1階の中等症Iおよび無症状・軽症者用エリア

医療者は普段は入所者とは別のエリアにいますが、電話を使って定期的な健康観察をします。

中等症Iの入所者は、酸素飽和度などのモニターを付けて常時医療者の目が入るようになっていますし、症状の悪化に備えて薬剤や医療機器の設置も行われます。

原則として、酸素投与が必要となる中等症IIの方は病院に入院することとなっていますが、搬送まで時間がかかることも想定して酸素供給装置も設置されており、また抗体カクテル療法などの治療も行える体制になっています。

懸念事項であった医療従事者についても確保がなされています。

大阪コロナ大規模医療・療養センターはなぜ必要なのか?

1000床規模の施設なんかホントに必要なのかと思われるかもしれません。

この施設は吉村府知事も言及されているように「災害級の感染爆発が起こったときのためのセーフティーネットになる」ことを目的に設置されています。

第6波以降の流行の規模があまり大きくならなければ、使われないということも十分に想定されます。

むしろこの施設が使われるのは本当に災害級の規模で感染者が増えている場合ですので、使われないのであれば使われない方が良いでしょう。

短期間の間にワクチン接種率が急激に向上したことから、現在は感染予防効果が高い人が多いことから感染が広がりにくい状況になっていますが、ワクチン接種からの時間経過とともに感染予防効果は低下しますので、いずれブレイクスルー感染が増えてくると考えられます。

また、第5波では感染者に占める重症者や死亡者の割合が大きく減少したように、ワクチン接種によって重症化する人は減ってきています。

重症化率が減り、また流行の規模が大きくなれば軽症・中等症の病床数の需要がさらに増えることが予想されます。

そういった意味で、この大阪コロナ大規模医療・療養センターは今後の軽症・中等症の増加を見据えた重要な対策と言えます。

吉村府知事は、この大阪コロナ大規模医療・療養センターの設置の意義として、

・自宅で亡くなる人をなくす

・家庭内感染を減らす

の2点を挙げられています。

使用されないに越したことはありませんが、災害級の事態が発生してしまった場合に、この施設が大阪府の皆さんに貢献できるよう願っています。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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