パブリックアフェアーズはますます重要。変革を目指す市民セクターには企業と連携するチャンスに。
今回は、企業やNPOのロビイングを含む「パブリックアフェアーズ」活動を支援するマカイラ株式会社 代表取締役COOの高橋 朗氏より、パブリックアフェアーズ(以下、PA)についてお話を伺いました。
明智 では、まず自己紹介をお願いします。
高橋 はじめまして、高橋 朗です。マカイラは、後ほどお話しする「パブリックアフェアーズ」のコンサルティングをメインに、その他、PAに関するメディア運営や、PA人材の紹介・組織構築支援なども行って、メガテック企業からスタートアップまで様々な営利企業や、NPOや財団、自治体など非営利団体を支援している会社です。
私自身は、キャリアのスタートこそパブリック・セクター、日本銀行でエコノミストなどをしておりましたが、その後は中小製造業の企業再生、楽天で経営企画や事業開発、医療×ITのスタートアップ企業であるWelbyでアーリーステージからIPOまでなど、主にビジネス・経営側でキャリアを積んできた者です。改めてパブリック寄りの仕事をしようと考えていたところ、縁あってマカイラに参画して、去年から創業者の藤井と共同で代表を務めています。
明智 それではパブリックアフェアーズ(PA)について教えてください。
高橋 概念としては、PR(パブリック・リレーションズ)と、GR(ガバメント・リレーションズ)の中間にあるのがPAです。つまり、広く社会全体のあらゆるステイクホルダーと関係を構築するために情報発信するのがPR。一方、個別の行政機関や政治家と関係を構築するのがGR、いわゆる昔ながらのロビイングですね。これらの間にあるPAは、もう少し広く社会課題・公共課題に取り組むために、様々なステイクホルダーと関係構築することを指します。
企業や団体の立場から考えると、PAは「非市場戦略の構想と実行」と言い換えることもできます。企業や団体が、その戦略的な目的を実現するために、どんな「好ましい環境」を整えるといいか、を構想するのが非市場戦略です。ここで「好ましい環境」とは、ルール・法規制の形成や緩和というケースもあれば、社会からの好感とか支持の獲得、というケースもあります。こうした「好ましい環境」の実現を目指して、自分たちの社会的な主張に賛同してくれる、できれば応援してくれる「仲間」を増やす働き掛けがPAなのです。私たちがご支援するときには、そもそもどんな目的のために(Why)、どんな環境を(What)、どのように実現するか(How)、というWhy-What-Howアプローチで、非市場戦略の立案・構想と、その実行のために「3L」(RuLe, DeaL, AppeaL)と整理される様々な活動を展開していきます。
ここで気を付けたいのが、あくまで「社会的な主張」を掲げるべき、というところです。自分だけの利益を目指すような主張をいくらしても、なかなか仲間を増やせませんし、聞き入れて法制度を整えてくれる政治家も行政機関もいません。そうではなくて、自分たちにとって好ましいだけでなく、社会全体にとってのベネフィットをもたらすような主張を練り上げて、賛同・応援してくれるような仲間を増やしていくことがPAなんだと思います。
明智 これからの日本社会におけるパブリックアフェアーズ(PA)の重要性についてどうお考えになりますか?
高橋 ますます重要になってくると考えています。それは、テクノロジー・イノベーションとソーシャル・イノベーションの両方の必要が増しているからです。まず、日本経済には、少子高齢化や地方の衰退など構造的に従来の延長線上では解決できない問題がどんどん増えていて、その解決策となり得る新しいサービスや技術、いわばテクノロジー・イノベーションが求められています。また、貧富の格差拡大、環境問題、ジェンダー問題などダイバーシティに関することなど、いわゆるSDGsで取り上げられるような社会課題について、人々の解決志向、すなわちソーシャル・イノベーションを求める意識が、まだマジョリティではないにせよ、徐々に高まりつつあるように感じています。これら、テクノロジー&ソーシャル・イノベーションこそ、解き難い日本の様々な課題の解決策として期待されています。
しかし、これまでになかったものを社会に実装して解決策として活用していくためには、様々なステイクホルダーの合意をとりつけて、法規制やルール、社会の理解と整合させていくこと、すなわちPAが重要になります。
かつてのあらゆる情報が霞が関の官僚に集まっていた時代と異なり、政治家も官僚も、新たな解決策に関する情報を求めています。一方で彼らも、限られたプレーヤーの声だけに依拠した政策作りは恐くてできません。だからこそ、公益性を主軸に据えた社会的な主張を元に、丁寧に仲間を増やす、様々なステイクホルダーの合意形成を促すPAがますます重要になってくると考えています
明智 これからの企業と市民セクターとの連携についてはどのようにお考えになっていますか?
高橋 今、このNPOやスタートアップ企業、そしておそらくは草の根のアドボカシーをやっていらっしゃる市民セクターの方を含め、なんらか社会を変えようと志す方にとって大きなチャンスなんじゃないかなと思っています。
この点、さきほどお話したソーシャル・イノベーションが求められていることに加え、世界的な「カネ余り」が重要な背景となっています。日銀を含めて各国の中央銀行が過去に例を見ない金融緩和を続けてきた結果、マクロではカネが余りまくっています。コロナ禍で実体経済がダメージを受けているにもかかわらず世界的に株高が続いているのも、この影響とみていいでしょう。届くべきところにおカネが届いてないという問題もありますが、こうした行き場のない投資家たちのおカネが今、「投資先」と「投資する理由」を求めている状況なのだと思います。
「投資する理由」として求められているのが、ソーシャル・イノベーション、もしくはソーシャル・インパクトをもたらすストーリーとロジックであり、「投資先」が変革を担うスタートアップ企業や、NPOを含む市民セクターです。SDGsの認知が広がるなかで、とくに欧米の投資家にとってはESG投資が当たり前の話になり、さらに一歩進んで、これからはインパクト投資の観点で社会的インパクトをきちんと評価できないと駄目だよねという流れがかなり強まっています。そこで、「〇〇という社会課題にこういう解決策で取り組み、この程度の社会的インパクト創出を目指します」というストーリーとロジックを、投資家サイドが求めていて、そのプレッシャーを受けてベンチャーキャピタルや大企業、フィランソロフィー系の財団なども、「投資する理由=社会的インパクト創出ストーリーとロジック」を持つスタートアップ企業やNPOを捜しているというのが、今のおカネを巡る世界の状況なんじゃないかなあと思います。
なので、おカネがじゃぶじゃぶ余っているなかで、むしろ希少なのはこうしたソーシャル・イノベーションをもたらすような「種」を持っていて、かつ自分たちはこういうふうにソーシャル・インパクトを創るというストーリーとロジックを持っている投資先候補です。スタートアップ企業やNPO、市民セクターが大企業や財団などおカネの出し手側の「非市場戦略」、すなわちどんな目的のもとに(Why)、どんな環境を(What)、どうやって実現したいのか(How)、をよく理解したうえで、そこと関連や整合性のあるストーリーやロジックを提供できると支援を得られる確率がかなり高くなるのだと思います。
※本日のお話の元になった講演録を、マカイラ(株)が運営するPublicAffairsJPにも掲載しています。