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セレッソ大阪社長「柿谷はスアレスだ!」~フォルラン獲得秘話と8番覚醒への期待

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2013年11月、日本代表ベルギー遠征での柿谷曜一朗(最前列中央)

知らせたのはオーナーだけ

Jリーグにもっと人を呼びたい。正直に言うと満員のときの埼玉スタジアムは、大音量のブーイングも含めてうらやましいと思っている。長居スタジアムもファン・サポーターで埋めたい――。

セレッソ大阪の岡野雅夫社長がディエゴ・フォルラン獲得の気持ちを固めたのは、昨年8月に宮城スタジアムで行われた日本代表対ウルグアイの親善試合だった。

もともとあこがれの選手であったというフォルランを目の前で見て、FKを含む2得点を決めたその姿に心は固まった。帰りのタクシーの中では「フォルラン!」と叫んでいるほど感動していた。

秋口には大阪サッカークラブ(セレッソ大阪)の親会社であるヤンマーホールディングス株式会社の山岡健人社長にだけプランを明かし、他のスタッフには極秘で代理人にフォルランへの接触を指示。とはいえ、実際にフォルラン側に接触できるのか、また、フォルラン自身の考えや詳しい状況も分からないままのスタートだ。

最初は雲をつかむような部分もありながら、その一方で、ビッグネーム獲得のための費用捻出などの試算も行った。まずは徹底的なコストカットを決行。ちょうど、レビー・クルピ監督を含めたコーチングスタッフとの契約の切り替え時だったため、そこを一気に刷新した。

「削るところは削るという自助努力で大物獲得資金を捻出するという方向性を敷いた。報道されているような特別なヤンマー・マネーはない」(岡野社長)。そうするうちに、人間性も含めてフォルランが素晴らしい選手だという情報が聞こえてきた。ますます焦がれた。

代理人から「好感触です」との返事が来たのは昨年末だ。その後は一気に話が進んだ。年明けにフォルランの兄と代理人が来日して岡野社長と極秘交渉。インテルナシオナルがフォルランとの契約を解除し、セレッソ大阪との契約書にサインしたとフォルランが自身のツイッターで“発表”したのは1月23日だった。

“サッカーのヤンマー”

1月31日、Jリーグ理事会後の会見に出席した岡野雅夫社長(前列左。右は村井満・新チェアマン
1月31日、Jリーグ理事会後の会見に出席した岡野雅夫社長(前列左。右は村井満・新チェアマン

岡野氏がセレッソ大阪の代表取締役に就任したのは2011年2月だった。前職はセレッソ大阪の親会社であるヤンマー株式会社のブランドマネジメント部長。そのときに打ち出したのが、「サッカーというコンテンツを前面に押し出したアジア戦略を行う」ということだった。

これは、農機、建機などの製造・販売で最大のライバルである株式会社クボタが、ラグビートップリーグの「クボタスピアーズ」を持っているのに対し、ヤンマーはアジア全域で人気の高いサッカーでブランド力を高めようという考えだ。セレッソ大阪の社長に就任してからは、自らが陣頭指揮を執って戦略を実行していった。

ちなみに、ヤンマーはこのほど長居陸上競技場(長居スタジアム)と長居第2陸上競技場の命名権(ネーミングライツ)を獲得した。近いうちに長居スタジアムには「ヤンマー」の名がつけられるという。

「柿谷はスアレス」

「うちにはスアレスはいます。8番はスアレスですよ。タイプが同じ」

岡野社長はこう言った。フォルラン獲得が若手選手に与える影響について聞かれたときだ。

8番とはジーニアス柿谷曜一朗。そしてスアレスとは、W杯南アフリカ大会での“神の手ブロック”や、イングランドプレミアリーグでの“かみつき事件”など、さまざまな話題を提供しつつ、リバプールで世界トップ級の得点力を見せているウルグアイ人ストライカー、ルイス・スアレスである。フォルランとともに出た昨年8月のウルグアイ対日本の試合でも、1得点を決めている。

なるほど、言い得て妙か。柿谷には変な荒々しさや、こすっからく相手を欺く雰囲気はないが、確かに「タイプ」として共通してところがあるのかもしれない。「ただし」、と岡野社長は続ける。

「ただし、スアレスは1点取っても2点目、3点目を取りに行く姿勢があるが、曜一朗は1点で満足してしまう。本人はそう思っていないだろうが、あれだけのポテンシャルがあるのだからもっと、という期待を持ってしまう。それは誰にも教えられないこと。育成型クラブがなぜフォルランなのだとも言われたが、ビッグネームを獲得するのも育成の一環なんです。(スアレスとウルグアイ代表でチームメートである)フォルランと一緒にやることで、曜一朗には本当のプロの心を勉強して欲しい」

岡野社長によると、フォルランは非常に質素な考えの持ち主だという。大阪での新居探しに関しても、セレッソ側が「セキュリティーの万全なところを」と提案すると、フォルランの兄が「弟は日本はどこに行っても安全だと感心していた。そうじゃないのか?」と逆に言われたそうだ。

ウルグアイで生まれ、アルゼンチン、イングランド、スペイン、イタリア、ブラジルと渡り歩いたフォルランにとって、日本は7つ目の国。今までに4度来日したことがあるそうだが、「治安が良く、人々が親切である」というイメージを持っているのだという。「フォルランはこちらが拍子抜けするほど、要求がない」(岡野社長)とのことで、家賃はクルピ監督のときの3分の1くらいに収まる予定だという。

入場料収入1・5倍が目標

セレッソ大阪は昨年、柿谷や山口蛍、南野拓実ら、若手選手の人気で入場者数が大幅に増えた。同クラブは4万7000人のキャパシティーを持つ長居スタジアムと、2万500人規模のキンチョウスタジアムを併用している。

器の大きな長居スタジアムでの試合の入場者数を昨年7月の東アジア杯前後で比較してみると、東アジア杯前が1試合平均1万7647人であったのに対し、柿谷人気がブレークした東アジア杯後は平均3万3371人と約2倍に増えている。

また、岡野社長によると、ICチップ使用のワンタッチパスによる入場者のカウントではセレッソの昨年の女性入場者数は一昨年より10%増加した。そして、もっと特徴的なのが10代・20代の入場者数だ。新規ファン獲得の伸び悩みがJリーグ全体の悩みとなっている今、この世代の比率は他クラブがおおむね20%台であるのに対して、セレッソは40%を超えている。そういった下地を考えたうえで、若い世代への訴求、新しいファンの獲得という意味で、世界的ビッグネームであるフォルラン加入のプラス面は大きい。

岡野社長は「器の大きなスタジアムを埋めていくというのは、見込みではなく確信だ。現在のセレッソの入場料収入は全収入の約20%で、これはJの平均的な割合だが、これを30%台にするという目標を掲げている」と話した。

1月31日に発表された今年のJリーグの試合日程によると、セレッソが長居スタジアムで行うリーグ戦は、昨年の8試合から12試合へと増えた。もはや実質券売数1万7000人程度のキンチョウスタジアムでは入場者が収まりきらない試合も増えているため、長居スタジアムでの試合数増加はダイレクトに成果として現れるだろう。

3月1日、セレッソ大阪対サンフレッチェ広島

フォルランはビザが取れ次第、2月10日前後に来日できる見込みで、2月13日からの宮崎キャンプから合流する予定だ。

そして、3月1日14時、長居スタジアムでセレッソ大阪と昨年のJリーグチャンピオン広島との試合で今季のJリーグが幕を開ける。熱く盛り上がるであろう2014Jリーグ。まずはフォルランの日本デビューとなるであろう開幕戦に熱視線が注がれそうだ。

フォルランと柿谷のコンビを長居で。超大物がもたらす得点、集客、成長。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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