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韓国が格下ヨルダンに苦戦した理由。クリンスマン監督には“戦術”がない?

金明昱スポーツライター
イ・ガンインのパフォーマンスが韓国代表の試合の行方を左右する?(写真:ロイター/アフロ)

 いまサッカーアジアカップが面白い。

 というのも、優勝候補の日本と韓国が苦戦を強いられている状況に加え、他国の奮闘ぶりが大会を盛り上げている。それに近年のW杯アジア予選でも実力では頭一つ抜きんでている日本や韓国だが、これまでの戦いぶりとは一味違うヒリヒリした試合内容が見る者を熱くさせているのもあるだろう

 日本が1次リーグの第2戦でイラクに1-2で敗れ、韓国は第2戦でヨルダンに土壇場で2-2に追いついて命拾いした。1次リーグ最終戦の結果にもよるが、日本がD組2位、韓国がE組1位ならラウンド16の決勝トーナメント1回戦で日韓戦が実現する。本来なら日韓戦は「決勝戦で見たかった」という声も聞こえてくるが、いっそのことなら早い段階でフル代表の日韓戦をして、どちらが強いのか、決着をつけるのも面白いと感じている。むしろそのほうが、「今やW杯に出て当たり前」の日韓両国にとっては、W杯アジア予選の注目度も高まると感じるからだ。

日本は「三笘が戦術」なら韓国は「イ・ガンインが戦術」?

 日韓のメディア報道を見ていると、格下相手にリードを許したあとの、日本の森保一監督と韓国クリンスマン監督の両指揮官の采配をやり玉に挙げる内容が散見される。

 イラクに敗れた日本の森保一監督が「南野拓実の左サイドの起用や不調だった右サイドバックの菅原由勢を使い続けたこと」など、様々なことを言われているようだが、韓国のクリンスマン監督も、国内メディアの辛らつな批判は止まらない。

「イ・ガンインが止められたら『活路を見い出せない』クリンスマン号…戦術が必要だ」と見出しを打ったのは「ハンギョレ新聞」。記事は「イ・ガンインのドリブル突破とクロス、試合解決能力は韓国が持つ強力な得点手段だ。初戦のバーレーン戦での2ゴールは、イ・ガンインの個人技から生まれた。しかし、核心のイ・ガンインが止められたら何もできないのが問題だ。ヨルダン戦でもサイドのドリブルとクロスを何度も仕掛けたが、的中率は大きく低下した」と報じている。

 つまり、イ・ガンインの出来によって韓国の試合内容は大きく左右されると同紙は指摘している。

 過去に日本は「三笘(薫)が戦術」という言葉も出たほどだが、韓国は「イ・ガンインが戦術」とでも言うべきか。

「朝鮮日報」は「結局は組織力よりも選手の個人技に依存するクリンスマン監督の限界が明るみになった」と指摘。それほどにクリンスマン監督の采配にはこれといった打開策がなく、個人の能力に頼りすぎという声が多い。

韓国代表のクリンスマン監督。戦術がないと非難されているが…
韓国代表のクリンスマン監督。戦術がないと非難されているが…写真:ロイター/アフロ

韓国は両SBの攻撃的な動きが課題か

 あまり知られていないが、韓国代表メンバーもそれなりの実力者がそろっている。トッテナムのエースFWソン・フンミンを筆頭に、FWチョ・ギュソン(ミッティラン)、MFイ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)、FWファン・ヒチャン(ウルヴァーハンプトン)、MFファン・インボム(レッドスター)、MFイ・ジェソン(マインツ)といった欧州組が攻撃陣に揃う。

 しかし、今大会は全体的な動きにバランスの悪さがあり、中盤でスペースを与え、カウンターからピンチを招くシーンが多かった。バーレーンやヨルダンといった中東のチームは豊富な運動量とフィジカルで、韓国の中盤を圧倒していた。そのあたり、クリンスマン監督は効果的な選手交代やポジションチェンジなどがうまく活用できていなかった。

 それに加えて守備陣の不安定さが目立った。バイエルンの主力DFキム・ミンジェの奮闘は光ったが、両サイドバックの攻撃的な動きがなかったのが課題と言われている。

 「エックススポーツ」は「左SBのイ・ギジェ、右SBのソル・ヨンウはサイドの深い位置まで攻め上がり、クロスを上げるシーンは見られなかった。後半に両SBを交代させてより攻撃的な采配をしたかと思ったが、守備間の呼吸が合わなかった。逆転ゴールを許したシーンは、DF3人がすべてMFムサ・アル・ターマリに釣られ、ナイマトにシュートスペースを与えて得点を許してしまった」と伝えている。

クリンスマン監督のKリーグ観戦の少なさが影響?

 こうした失態について記事では、「クリンスマン監督がKリーグの選手たちをたくさんチェックしなかったこと」が要因と指摘。

「昨年2月に韓国代表監督に就任したあと、3月と6月のAマッチ期間を前にKリーグの試合を見たクリンスマン監督は6月以降、アメリカ・ロサンゼルスの自宅にいた。その間、代表スタッフのチャ・ドゥリコーチがKリーグの試合を観戦し選手の様子をチェックしていた」

 韓国代表の守備陣の顔ぶれは昨年9月以降、そのメンバーに変化はないままだが、Kリーグに優れた選手がいないわけでもないだろう。それでもアジアカップ優勝のためには、経験値の高い選手を入れるべきという判断も分からなくはないし、現時点ではベストの選択といったところだろう。

 ただ、このままでは単調な戦い方に終始するのではないかという不安もあるのだが、まずは1次リーグ最終戦(25日)となるマレーシア戦の行方を見守りたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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