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薄汚れた「でか丸」が職場に現れ、上司は「捨てろ」と… そこから一歩踏み出せば

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

これから、子猫が生まれてくるシーズンです。

保護が必要な猫を公園や職場、通勤途中などで見つけるかもしれません。見て見ぬ振りをするのは簡単ですが、そんなとき、一歩踏み出すことの意味を考えてみましょう。自分は飼えなくても里親を見つけられたら猫だけでなく、みんなが幸せになれるかもしれません。以下のエピソードは、動物が好きなものには、なんともありがたいすてきな話です。

「職場で猫を保護したんですけど、譲渡会に参加させてもらうことはできるでしょうか?」。相談主は、ねこかつのお客さんの女性だった。

「どうしたんですか?」。保護の経緯を尋ねた。

「職場に見たことのない猫が現れたんです。とてもなつっこい猫でおなかを空かせていました。職場のおじさんがご飯をあげると、それから姿をみせるようになりました」

(略)

「でも、職場の所長さんが大の猫嫌いだったんです。どこかに捨ててこいと言い出しました。捨てて来ないなら、自分が捨てに行くと言って、段ボール箱の中に猫を入れようとしたんです」

「それで保護したんですか。すぐに飼い主さんが見つかるか分からないですけど、譲渡会で一緒に飼い主さん探しをしましょう」

出典:薄汚れた大きな猫「でか丸」が職場に、上司は「捨てろ」と言った それでもピカピカになって新しい家へ

この記事を要約すると、とある女性の職場に薄汚れた大きな猫がやってきました。餌をあげると職場に姿を見せるようになりましたが、所長さんは猫嫌いで「捨ててこい」と言い放った。保護主は、かわいそうでそうすることもできず、猫を里親に出すことにした。薄汚れた猫は、その女性の家で、ピカピカの猫に生まれ変わった。今は、「でか丸」ちゃんと名付けられ、新しい飼い主の理想の猫として幸せに過ごしているそうです。

新しい家族の見つけ方

自分のところで飼うのは、無理でも、このように新しい家族を見つけてあげると、猫は幸せに暮らしていけます。

・猫の保護団体で、一時預かってもらえるところを探す。

・動物が好きな人に、写真などをつけて尋ねてみる。

・SNSで猫を保護したことを発信してみる。

・動物病院に猫の写真や情報を書いたポスターを貼ってもらう。

などがあります。いまの時代、保護猫に対して、関心を持っている人も以前より多くなっているようですので、里親を見つけやすくなっています。

猫が引き取られやすくなる見せ方

私たちの病院には、猫の保護活動をされている人がいます。その人から、猫が早く引き取られるコツを以下のように教えてもらいました。

・猫の写真の撮り方。

猫の角度によっては、より可愛いく見えるときがありますので、その辺りは考慮してあげてください。

・ノミの駆除などをして清潔に。

汚れているのなら、やはりピカピカに洗ってあげることですね。洗うときは、猫の健康状態を見てからにしてくださいね。猫は基本的に、水は苦手なので、洗うことはストレスです。シャンプーの後に、猫風邪をひく子もいますので、注意が必要です。

・子猫の方がもらわれやすい。

一般的には、成猫より子猫の方がもらわれやすいです。ただ、最近は、意識の高い人も増えて、年齢を重ねた猫を希望する人もいます。

痩せ細った猫が会社に、動くこともできない 実話

これは、私の病院であった実話です。

猫好きの飼い主・南さん(仮名)は、自宅でも2頭の猫を飼われています。

自営業で、会社に子猫が住みついていました。しばらく来ないな、と思っていると、数日ぶりに現れて、目ヤニ、鼻水がひどく、いわゆる猫風邪でした。私は、点滴などの治療をしました。弱っているので、本当に大人しく治療をさせてくれていました。顔も人間でいうところの頬もコケて、とんがっていました。

温かくしてもらわないと、この子猫は、体力がないので危ない状態でした。2キロもない、文字通り骨と皮だけの猫でした。もちろん、外にいるより、会社に入れてもらっているので、温かいけれど、それだけでは、よくないので、野良猫だけれど、自宅に連れて帰ってもらうように、南さんを説得しました。「元気になるまで」と言って。

猫好きの南さんは、子猫を連れて帰りました。

南さんは、布団の中に子猫を入れて、寝かしつけましたが、それでもその子猫は、寒いらしく、その子猫はずっとストーブの前を陣取っていたそうです。南さんも晩は心配なので、一緒にストーブの前にいたそうです。子猫が2キロになるまで、南さんは、ストーブの前でごろ寝をして暮らしました。

子猫は、体重が増えたので、顔も丸くなりふっくらして可愛いらしくなりました。誰が見ても「愛されている」顔に変わっていったのです。

野良猫は、外で厳しい状態で暮らしています。でも、室内飼いになり、飼い主から「愛を注がれる」とおっとりした顔に変わるから不思議ですね。

いまでは、ワクチン接種に来るぐらいで、そのときの話をいつも南さんとします。最近は、ストーブ前を陣取ることもなくなったそうです。少し肥満なぐらいになっていますので。南さんちのその子は、もう子猫の時期のことは、忘れているように見えます。

捨て猫を助けることとは

公園や道には、野良がいるかもしれません。全部の子を助けることはできないかもしれません。誰にも、その義務はないのです。

でも「どうにかしてあげたい」と一歩踏み出すことで、一頭の猫が幸せになってくれることは確実です。なかなかその行動が難しいのですが、いまやSNSがあり、以前より里親を見つけやすくなっています。

まとめ

野良猫を思いやる、そして、気にかけるという気持ちは、人生を豊かにしてくれると信じています。自分の生活や仕事だけでも、忙しいのに、そこまで手が回らない人も多いです。でも、こんな話を頭のどこかに入れておいていただけでも、命に対する考え方が少しずつ変わって、そういう場面に遭遇したいざというとき、心が動いてくれるはずです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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