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米陸軍の無人型HIMARSことAMLの射撃映像が公開

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAML射撃試験

 4月25日、アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団(DEVCOM)の航空ミサイルセンターと地上車両システムセンターが合同で新型無人兵器AML(Autonomous Multidomain Launcher、自律型複数領域発射機)の発射試験をアリゾナ州ユマ試験場で行ったと発表しました。マルチドメイン作戦(複数領域作戦)というコンセプトで使用する装備です。

Autonomous Multi-domain Launcher meets another program milestone | U.S. ARMY

アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAML(2024年4月25日発表)
アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAML(2024年4月25日発表)

アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAML(2024年4月25日発表)
アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAML(2024年4月25日発表)

 AMLはHIMARSの車両を無人化したものになります。発射したのは短縮射程訓練ロケット(Reduced Range Practice Rocket、RRPR)と呼ばれるもので、ロケット弾自体はHIMARSやMLRSが普段の訓練で使っているものです。

関連:米陸軍の無人型HIMARS、自律型ミサイル発射車両AML(2021年6月26日)

 AMLは2019年発表のDEVCOMの資料でも登場し、2021年6月16日にはCG動画のイメージ映像が公開されましたが、実写の映像は今回の2024年4月25日が初めての公開となります。なおAMLは以前のイメージ画像やイメージ動画では、通常のHIMARSの発射機よりも長い物を装備していました。

 しかし今回初公開されたAMLの実写の映像では通常のHIMARSの発射機と同じ長さですが、HIMARSの発射機に標準装備されている装填クレーンが付いていない物が装備されています。

  • 2024AML:発射機はHIMARSと同長、クレーン無し 発射ポッド2
  • 2021AML:発射機はHIMARSより長、クレーン無し 発射ポッド2
  • 2019AML:発射機はHIMARSより長、クレーン有り 発射ポッド1

 発表時期によって仕様が異なっています。まだ開発試験中で発射機の仕様が定まっていないのか、あるいは複数種類の大きさの発射ポッドが別仕様として用意されているのでしょう。

 なお通常型のHIMARSの発射機は発射ポッド1個搭載ですが、装填クレーン無しの2021年AMLのイメージ絵では発射ポッド2個搭載でした。そして2024年AML実写映像ではポッド数がはっきり確認できませんが、発射機の前方が狭まっていないので、発射ポッド2個の可能性が高いでしょう。

  • 6連装ロケット弾ポッド(GMLRS/ER-GMLRS)、射程90~150km
  • 2連装短距離弾道ミサイルポッド(PrSM)、射程500km
  • 単装短距離弾道ミサイルポッド(ATACMS)、射程300km

※ここでのアメリカ軍の「発射ポッド」とは上記のように複数の弾薬を一纏めにした多連装発射機用のポッドのこと。6連装ロケット弾ポッドと同じ大きさのポッドにロケット弾より大きな短距離弾道ミサイルを収納した別バージョンも用意してあり、射程など用途に応じて選択する。

2024AML:発射機はHIMARSと同長、クレーン無し 発射ポッド2

アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAML(2024年4月25日発表)
アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAML(2024年4月25日発表)

2019AML:発射機はHIMARSより長、クレーン有り 発射ポッド1

アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAMLイメージ(2019年資料)
アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAMLイメージ(2019年資料)

2021AML:発射機はHIMARSより長、クレーン無し 発射ポッド2

アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAMLイメージ(2021年資料)
アメリカ陸軍戦闘能力開発軍団航空ミサイルセンターよりAMLイメージ(2021年資料)

通常の有人型HIMARS、発射機上部前方にクレーン 発射ポッド1

アメリカ陸軍よりカンザス州軍のHIMARS(2022年9月20日、クウェートでの訓練)
アメリカ陸軍よりカンザス州軍のHIMARS(2022年9月20日、クウェートでの訓練)

左:AML発射機前方(2024年4月25日)、右:HIMARS発射機前方

アメリカ陸軍よりAML(2024年4月25日)とHIMARSの発射機前方の比較
アメリカ陸軍よりAML(2024年4月25日)とHIMARSの発射機前方の比較

※2024年4月25日に発表されたAMLの発射機前方は狭まっておらず装填クレーンは無く、発射ポッド2個搭載の可能性が高い。通常のHIMARSは装填クレーン有り発射ポッド1個搭載。おそらくこのAMLの発射機は後述のPFAL(パレット化野戦砲兵発射機)と呼ばれる新型発射機の一形態で、従来型弾薬(HIMARS用)に対応したもの。

 今回の2024年4月25日のDEVCOMのAML射撃試験の発表文では「Palletized Field Artillery LauncherPFAL、パレット化野戦砲兵発射機)」という装置の言及があります。これが従来のHIMARS/MLRSの発射機とは異なる新しいもので、様々な種類のロケット・ミサイルを撃てる(大きさが異なる発射ポッドを複数種類用意)と思われます。代わりに装填クレーンは削除されているのでしょう。

“The AML team leveraged three major Army S&T investments, the Palletized Field Artillery Launcher, Autonomous Transport Vehicle System and Secure Tactical Advanced Mobile Power to rapidly and economically develop the AML prototype,” Hunter said.

出典:Autonomous Multi-domain Launcher meets another program milestone | U.S. ARMY

 なおPFAL(パレット化野戦砲兵発射機)自体は従来の有人型HIMARSにも改修すれば適用が可能だと思われます。

 アメリカ陸軍は無人車両AMLでHIMARSの6輪トラックをそのまま無人化して、発射機は搭載量の増大を計画しています。これに対してアメリカ海兵隊は無人車両「ROGUE-Fires(ローグファイア)」を小型の無人4輪車両としながら、HIMARSと同じ搭載量を持たせようとしています。

関連:米海兵隊の無人4輪車両の基本型「ローグファイア」、HIMARSより小型ながら同等の火力システム(2024年5月4日)

 アメリカ軍は陸軍と海兵隊で遠距離火力型の無人車両について全く違った方向性で開発を行っています。これは海兵隊が島嶼戦で島から島へ移動する際にヘリコプター吊り下げ輸送での空中移動能力を重視しているのに比べて、陸軍はこの能力までは求めていなかった違いがあります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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