東京モーターショーのスポーツカーから感じたこと。
第44回東京モーターショーのプレスデイ1日目が終了した。日本の自動車メーカーのお膝元で開催されるモーターショーで、日本の各メーカーのステージには数多くのスポーツカーが鎮座した。
マツダはロータリーエンジン継続の意思を示すスポーツカーのコンセプト、RX−VISIONをお披露目し、トヨタはコンパクトなFRスポーツのコンセプト・モデル、S−FRを展示した。ホンダは次期NSXを…といった具合だ。
自動運転に光が当たる一方で、ある意味対極にあるともいえるスポーツカーにもスポットが当たる。自動車が今、いかに過渡期にあるかを象徴するような展示、ともいえる。
本日の朝一でカンファレンスが行われたマツダのRX−VISIONの記事をここYahooニュースに掲載すると、アッという間にFacebookのいいね!が山ほどつく。先日公開したホンダのNSXコンセプトの記事も、一瞬にして相当数の閲覧があった。動画も好調に回るという現実がある。
そうした状況から想像するに、多くの人にとって未だスポーツカーには何らかの興味があるのだろう。
ただご存知のように、スポーツカーは“多くの人が買わないクルマ”でもある。価格を始め、乗車人数の事情などで、“限られた人のためのクルマ”であると同時に、同様の事情から“非現実的なクルマ”でもあるし、そうした事情から“買えないクルマ”でもある。
スポーツカーに乗って、海岸線を走る。
スポーツカーに乗って、高原を走る。
スポーツカーに乗って…と様々に想像するのは楽しい一方で、それを現実のものにしよう、と思う方はそれほど多くはないのが実際でもある。
だが、スポーツカーは多くの人にとっての憧れであり、夢であり、希望であり、自動車メーカーにとってもそれは全く同じことだ。
自動運転で便利な世の中を目指す一方で、その姿を見る方々に、夢や希望や憧れを届けたい、と思うのは自然な欲求だろう。
ただ少しだけ気になるのは、トヨタのそれやマツダのそれは、まだまだ現実味を帯びていないということ。トヨタのそれは以前から研究を行っているクルマだけに、今回のショーでの反響次第で検討が始まる可能性はあるが、現実にコンパクトなFRレイアウトのクルマを開発するとなると、特に開発コスト面で相当なウルトラCが要求される。
またマツダのロータリーエンジン継続を示唆するRX−VISIONも、デザインは現実味があるとしても中身の現実度は我々が思っている以上に厳しいのが実際だ。ロータリーエンジンを現代で通用するものにするためには、マツダ自身が歌う「挑戦」が必要とされるし、不屈の精神、血と汗のにじむような努力を求められるだろう。
しかも現実を考えれば、環境や安全をさらに強化する必要がある。自動運転の重要さは、スポーツカー復活よりも先に対応すべき事項かもしれない。
いや、もっと厳しいことをいえば、スポーツカーにも環境や安全や自動運転は融合されるべき事項だともいえる。
個人的にスポーツカーは大好きだし、その世界にどっぷりと浸かりたいし、できれば自分自身もこうした状況に飲み込まれたいと心から想う。が、この業界の末席を汚すものとしては、今回各社が送りだしたコンセプトに、スポーツカーの持つピュアな感覚やストレートな欲求に頼りすぎているような感があった(いや、メーカーは頼ってはいないけれど、それがピュアであるほどにそう穿った見方もできてしまう)ことは気になる。
スポーツカーはもちろん、ピュアでストレートで良いと思うのだけれども、21世紀にビジネスでそれを成立させるためには、もっともっと語るべき要素も多いのではないかと感じるのが実際だ。例えば賛否両論が激しそうだが、自分としてはキッチリと自動運転モードを備えたスポーツカーのコンセプトがあって然るべきだと思うし、ピュアなスポーツカーでもキチンと世の中とコネクトできるものを装備している提案があっても良いのではないか? と思うだ。
安全や環境、そして自動運転と、スポーツカーのピュアでストレートな感覚を同一視することはできない。けれど、安全や環境や自動運転と、スポーツカーを線引きするような分け方をしている今回の傾向もなんだか素直にうなづけない。スポーツカーを未来に存在させるためにはむしろ、真っ先に安全や環境や自動運転と融合していく必要があるようにも思えるのだ。
そして私自身がそう思う以上に、ここ東京モーターショーを訪れる多くのお客様は、そうしたことを考えるだろうし、それ以上に望みがあるのではないかと思う。
だから今回、スポーツカーのコンセプトや登場間もないモデルが多く登場していて嬉しい一方で、何か焦りとこのままではマズいような感覚も同時に抱くのだ。
とはいえ、そうした諸々を含めて多くの方々に来て見て触れていただくのがモーターショーなのだ、とも思う。
今回は少しナーバスな書き方をしてしまったけれど、自動車を成長させていくのは我々ユーザーの多様なニーズそのもの。なので皆さん是非、この状況を見ていただいて感じたことを声にしていただければ。
そういう意味でも今回の東京モーターショー、是非いらっしゃってください。