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新型コロナ後遺症 日本人4000人のデータから分かったことは?

忽那賢志感染症専門医
新型コロナ発症から1ヶ月時点での症状の頻度(豊中市調査より)

12月14日に豊中市から、新型コロナに感染した4000人についての後遺症のデータが発表されました。

本研究について計画・実施・解析に関わった筆者から概要をご説明致します。

新型コロナ後遺症とは?

新型コロナ後遺症で頻度の高い症状(筆者作成)
新型コロナ後遺症で頻度の高い症状(筆者作成)

コロナ後遺症で頻度が高いのは、図に示したように「倦怠感」「息苦しさ」「嗅覚異常」「脱毛」「集中力低下」などです。

報道などでは「コロナ後遺症」という言葉がよく使われますが、厚生労働省は「罹患後症状」と呼び、診療の手引きを作成しています(筆者も編集委員です)。海外では「LONG COVID」「Post COVID-19 condition」などと呼ばれています。

定義は様々ですが「発症から少なくとも4週以上経過してからも続いている症状」を指すことが多く、この中には咳など発症時からある症状もあれば、脱毛など回復してから新たに出るものもあります。

コロナ後遺症がなぜ起こるのかについては、まだ十分分かっていませんが、単一の原因ではなく、

・ウイルスの持続感染

・ウイルスによる組織障害

・自己免疫反応

・常在細菌叢の多様性の低下

・集中治療後症候群(PICS)

などが複合的に起こっていると考えられています。

豊中市から新型コロナ後遺症の報告

豊中市、大阪大学大学院医学系研究科、Buzzreachの共同記者発表の様子
豊中市、大阪大学大学院医学系研究科、Buzzreachの共同記者発表の様子

12月14日に豊中市、大阪大学大学院医学系研究科、Buzzreachから新型コロナ後遺症に関する調査の結果が発表されました。

これは、豊中市でこれまでに新型コロナに感染した人を対象に、VOICEというモバイルアプリまたは紙アンケートで新型コロナ後遺症に関する調査を行い、新型コロナ後遺症の実態について調べたものです。

本研究には4000人以上の方が参加していただきました。

参加者の背景としては、

・4047名(男性45.5%、女性54.5%)が参加

・平均年齢は44.3歳

・基礎疾患ありの方が42.8%

・感染時期から推測される変異株の種類は、オミクロンが77.3%、デルタが9.7%、アルファが7.4%、武漢株が5.6%

・78%が2回以上ワクチン接種済み

・急性期の重症度は中等症2が3.4%、重症が1.0%

というものでした。

以下に主な結果についてご紹介します。

自宅療養後も47.7%の人が何らかの症状が残っていた

新型コロナに感染すると発熱や咳、のどの痛み、など様々な症状が出現します。

症状は概ね1週間程度続きますが「自宅療養や隔離期間が解除になった後も何らかの症状が残っていた」という方が47.7%いらっしゃいました。

研究が行われた時点では、自宅療養は10日間となっていましたが、その期間を過ぎても倦怠感や咳などが残っており、自宅療養期間を過ぎてもなかなかすぐに元通りというわけにはいかない、ということが分かります。

発症から1ヶ月後時点で日常生活に支障をきたしていた人が1.6%

新型コロナ発症から1ヶ月時点での症状の頻度(豊中市調査より)
新型コロナ発症から1ヶ月時点での症状の頻度(豊中市調査より)

発症から1ヶ月経っても続いていた症状の中で、最も多かったのは「倦怠感」「日常生活に支障」「脱毛」「咳」でした。

「日常生活に支障」というのは、職場復帰ができない、元通りの生活ができない、といったことを指します。

また、「もの忘れ」「集中力低下」「不安感」といった症状が残っている人もみられました。

これらの頻度は、日本で行われた過去の報告と比べると、かなり少なくなっています。

その理由としては、参加者の多くが軽症者であったこと、オミクロン株の時期の参加者が多く後遺症の頻度が減っていること、などが考えられます。

それでも、オミクロン株になってから感染者数が2300万人にも増えていることを考えると、この頻度は決して楽観視できません。

なお、何らかの症状が1つでも残っている人は、発症から1ヶ月の時点で5.2%、2ヶ月で3.7%、100日で2.5%となっており、基本的にほとんどの人が時間経過によって症状が改善していくことが分かります。

どのような人が後遺症になりやすい?

豊中市の調査では、新型コロナの急性期に重症だった人は、軽症だった人と比べて5倍ほど後遺症を経験しやすいことが分かりました。

また統計学的に有意ではないものの、女性の方が後遺症になりやすい傾向、ワクチン接種回数が多いほど後遺症を経験しにくい傾向が観察されました。

これらの結果はいずれも海外の報告の結果と一致しています。

今回の調査結果からどんなことがわかる?

今回の調査はアンケートによるものであり、ずっと前に感染した人は後遺症のことを覚えておらず、直近に感染した人は覚えている、という影響を受けやすいものと考えられます。

また、このようなアンケート調査に回答してくださる方は、後遺症がない方よりもある方の方が多いと考えられるため、この研究の結果は実際の後遺症の頻度よりも多くなっている可能性があります。

そうした研究の限界を知った上で、この研究結果を解釈する必要があります。

オミクロン株での感染者が大多数を占める中でも、発症から1ヶ月経っても約20人に1人がなんらかの症状が続いているという結果は、これまでの報告よりも頻度は低くなっているものの、やはり軽視できるものではないでしょう。

感染者の規模はオミクロン株になってから圧倒的に大きくなっていることから、頻度は減っていても、後遺症に悩む人の数は増えていると考えられます。

オミクロン株になってからは、感染したときの重症化リスクは低くなっていると言われていますが、後遺症のことを考えると、やはり感染しないに越したことはありません。

またワクチン接種により後遺症のリスクが下がるという海外の知見も合わせて考えると、基本的な感染対策はしっかりと行いつつ、ワクチン接種により感染リスク、重症化リスク、そして後遺症のリスクを下げることが重要です。

※大阪大学大学院医学系研究科では、モバイルアプリ「VOICE」を用いた後遺症の症状について継続的に調査を行っています。新型コロナに感染したことのある方はこちらからぜひご協力をお願い致します。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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