新型コロナの唾液を介した感染は起こり得るのか?
新型コロナウイルス感染症の患者の唾液からSARS-CoV-2ウイルス(新型コロナウイルス)が検出されたという報告がされています。
多い人では10の8乗コピー/mLというウイルス量で、これは鼻咽頭粘液と遜色ない量です。
まだ症例数が十分ではないため、さらなる検証が必要ではありますが、唾液が検査に使用できるようであれば鼻咽頭の粘液を採取しなくても済むようになるかもしれません。
新型コロナウイルス感染症患者の検査には、現在PCR検査という手法が用いられていますが、検体として鼻咽頭の粘液を採取しています。
インフルエンザの迅速検査などで鼻咽頭の粘液を採取されたことがある方はお分かりかと思いますが、かなり辛いです。
私もされたことがありますが、検査後クシャミが止まりませんでした。
一方、医療従事者側も検査する際に直接咳やクシャミなどのしぶきを浴びる可能性があり、感染に繋がりうるため、感染対策に注意が必要となります。
どれくらい感染に注意が必要かというと、これくらいです。
この絵はNHK ドクターGなどで有名な大阪医科大学 総合診療科教授 鈴木富雄先生が描かれたものです。
当院ではこのタイベックと呼ばれるつなぎは着ていませんが同等の防護具を着て採取しています。
検体を採取するのもなかなか大変なのです。
日本医師会は医療従事者の新型コロナウイルスの感染を防ぐためにインフルエンザを疑って迅速検査を行うことを止めるよう推奨を出しています。
というわけで、新型コロナウイルス感染症の診断のために鼻咽頭の粘液ではなく唾液の採取で済むようであれば患者さんも辛くないですし、医療従事者もしぶきを浴びる危険も少ないためメリットが大きいと言えます。
舌に新型コロナウイルスの受容体が発現している
ところで、現在は心臓血管外科医としてドイツに留学中高校時代の友人から久しぶりに連絡が来ました。
ある論文について紹介してくれたのですが、舌のウイルスの受容体に関する論文でした。
受容体というのはウイルスがくっつく部位であり、新型コロナウイルスではACE2受容体という受容体を介して細胞内に侵入することが分かっています。
彼が送ってくれた論文(doi.org/10.1038/s41368-020-0074-x)には新型コロナウイルスが侵入するACE2受容体は口の中の粘膜、特に舌に多く発現しているというものでした。
最初は「ほ〜ん」と思いながら聞いていたのですが、彼は「舌を介して感染が起こっているのではないか」と熱弁しました。
確かに唾液中にはウイルスもたくさんいて、舌に受容体があるのであればそういう可能性もあるのかもしれません。
現在、中国、イタリアに次いで3番目に感染者の多いイランですが、イランで感染が広がっている要因の一つとして、巡礼者がモスクの柱や壁に唇をつけてお祈りをすることが飛沫感染を招いているのではないか、という記事からの引用です。
唾液にウイルスが多く存在し、またウイルスの受容体もあるのであれば、飛沫感染というよりも唾液を介して感染している可能性もあるのかもしれません。
日本国内でこれまでに流行が広がったクラスターも「換気の悪い閉鎖空間」と言われていますが、ビュッフェ、ライブハウス、屋形船などは人が食事をしたり大声でしゃべったりする場所です。
もしかしたら感染者から飛んできたツバを浴びたり、感染者と共通の食事を食べることで唾液によって舌から感染することがあるのかも・・・と思った次第です。無症候性感染者も少なからずいることもこうした感染が起こりやすい要因になりえます。
満員電車ではみんな黙ってスマホをいじってるからクラスターにならないのかな、とか思ったり・・・でもジムで流行が広がっていることは説明がつかないですね。ジムって行ったことないのですが、たぶんしゃべりながら自転車漕いだりしないですよね。これはやはり接触感染または飛沫感染によるものと考えられます。
なお、唾液、舌を介した感染についてはまだ証明されていません。上記の論文を元に、もしかしたら・・・という仮説をご紹介したものであり、基本的に新型コロナウイルス感染症は主に接触感染、飛沫感染で感染が成立すると考えられています。
ですので今の時点では感染対策を変える必要はありません。
こまめな手洗いと咳エチケットを徹底するようにしましょう。
※しつこいようですが私個人が考察した仮説であり、国立国際医療研究センターの見解ではありません!