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欧州遠征2連敗。ハリルJAPANに突き付けられた「強豪国との差」

森田泰史スポーツライター
デ・ブルイネにプレスを掛ける井手口(写真:アフロ)

今回の欧州遠征は、ロシア・ワールドカップ(W杯)本大会に向け、列強国との差を計る貴重な機会だった。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、世界の強豪をイメージして「弱者のサッカー」を貫いてきた。ポゼッションを主体としたスタイルではなく、堅守速攻で相手の急所を突いて試合を決める。

事実、アジア最終予選のホームのオーストラリア戦では「ハリルJAPAN最高のゲーム」を演じて2-0の勝利を得て、ロシア行きの切符を勝ち取った。

■強かだったブラジル

だが10日に行われた国際親善試合では、ブラジルに1-3と完敗した。ブラジルは強(したた)かだった。

試合開始早々、日本はCKのピンチに吉田麻也がフェルナンジーニョを掴み倒してしまう。主審はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で映像を確認したのち、ブラジルのPKを宣告した。キッカーのネイマールが沈めて、ブラジルが先制する。

その直後だった。日本が得たCK時のブラジルの選手たちの対応が目を引いた。主審が接触プレーに厳しい判定を下して、VARでのジャッジを積極的に取り入れる姿勢を見たカナリア軍団は、自分のマーカーと距離を取りながらセットプレーの守備につく。

難なく日本のセットプレーを跳ね返すと、ブラジルは何事もなかったかのようにカウンターを仕掛けた。だがこのブラジルの「対応力」に、W杯制覇を本気で狙う国の強かさが凝縮されていた。

■1対1の部分で歯が立たず

ハリルホジッチ監督が就任以降、口を酸っぱくして言い続けてきたのが、デュエルの部分である。要は「1対1で負けるな」ということだ。

だがブラジルを相手に、アジアで磨いたデュエルは通用しなかった。ネイマールだけではなく、ウィリアン、マルセロと一線級の選手たちが簡単に日本のプレス網を個人技で剥がしていく。

前線からプレッシングを嵌めていき、できるだけ高い位置で、あるいは良い形でボールを奪取して速攻に出るスタイルは、ブラジルの個々のタレントを前にして無効化された。日本は大迫勇也をチェイシングの先鋒に、(左サイドであれば)原口元気、山口蛍が連動してサイドにボールを追い込む守備が機能しない。

「第一ライン」をロングボール、サイドチェンジ、個人技で突破されてしまう。そうなると、中盤にはアンカーの長谷部誠しか残っておらず、自ずと数的不利に陥ってしまう。その局面でどちらかのサイドに振られれば、ネイマール対酒井弘樹、ウィリアン対長友佑都の1対1が待っている。

それでブラジルの攻撃は終わらない。マルセロ、ダニーロとSBが猛然とオーバーラップで上がってくる。「第一ライン」に参加していた原口、久保裕也は相手SBの上りにまでは付いていけず、トップスピードでありながら技術の落ちないブラジルの攻撃が、日本に襲い掛かった。

ハリルホジッチ監督の考えるベストメンバーで、前半のうちに3失点。後半に1点を返したが、ブラジルが力を落としていたのは明らかだった。トップコンディション、ノープレッシャーで打ち合えば、ブラジル相手であれば完敗する。ブラジルは組織で太刀打ちできるチームではなかった。

■より戦術色の濃かったベルギー戦

そうして迎えた、14日のベルギー戦。この試合で、まず改善されたのはゲームの入り方だ。

高いプレー強度でプレスを掛けベルギーの選手たちの自由を奪う。9分には、背後からプレッシャーを受けたヴィツェルが主審にファールをアピールするほどだった。

日本は3-4-3を敷くベルギーの、3バックの裏を狙う。開始直後には大迫がポストプレーから反転して原口にスルーパス。こぼれ球を浅野拓磨が拾ってシュートを打った。

だがベルギーは15分を過ぎたあたりから日本のカウンターを警戒して、最終ラインを上げず、中盤にスペースを空けて日本にボールを「持たせた」。中盤の守備はルーズではあるが、ボールを持てる余りに日本の球離れが悪くなる。これにより日本はリズムを失い自滅した。

スコアレスの展開が続いたこともあり、後半に入ってもなかなかハリルホジッチ監督は動かなかった。61分に長澤和輝に代えて森岡亮太、67分に浅野に代えて久保を投入したが、これは疲労を考慮しての交代策に過ぎない。

強豪相手に勝ち点1を獲得して、選手に自信を植え付けさせる。そんな指揮官の魂胆が見え隠れした。

■守備の「エアスポット」

しかし、勝負を決めるのは一瞬だ。

ベルギー戦で4-3-3を採用してアンカーに山口蛍を起用したハリルホジッチ監督だが、このシステムではアンカーの両脇が守備の「エアスポット」になる。中盤前目に位置する2選手(ベルギー戦では長澤と井手口が先発)が背後を取られると、ピンチを招く。

72分にその弱点が露呈する。森岡の背後、山口の横のスペースで前を向いたチャドリが久保、森岡、吉田と3人を一気に抜き去り、クロスを入れる。ルカクがファーサイドで悠々とヘディングを叩き、ネットを揺らした。

守備だけでなく、攻撃にも課題が残った。大迫へのロングボール一辺倒で、攻め手がない。高い位置でボールを奪ってショートカウンターを仕掛けたいが、ボールを持たされるとミスパスを連発する。試合会場ヤン・ブレイデルスタディオンのピッチ状態はお世辞にも良いとは言えなかったにしても、である。

守護神クルトゥワ、エデン・アザール、カラスコ、ナインゴランら複数選手を欠いたベルギーに、ブラジル戦で感じたほどのインパクトは与えられなかった。引き分け以上の結果を得てもおかしくなかった。

それでも日本はベルギーに難なく寄り切られてしまった。ハリルJAPANはこの事実と真摯に向き合うべきだろう。

少なくとも本大会では、今回のベルギーレベルの相手には勝ち点1以上を積み上げなければいけない。それができなければ、グループ突破の目標は極めて厳しいものになるはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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