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階級の壁を超えたパンチ力!いよいよ井上尚弥のWBSS準決勝

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:アフロスポーツ)

ボクシングのWBA世界バンタム級王者の井上尚弥(26)が、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)準決勝で、IBF王者エマヌエル・ロドリゲス(26=プエルトリコ)と対戦する。

試合は、スコットランド・グラスゴーで、18日(日本時間19日)に行われる。井上は、試合10日前に日本を出発し、現地で調整を続けている。決戦まであと僅かだ。

注目の無敗対決

ここまで、圧倒的な強さを発揮してきた井上だが、今回対戦するロドリゲスを「対戦したボクサーの中で一番」と警戒している。

ロドリゲスは、プエルトリコ出身の世界王者で、ここまで19 勝(12KO)無敗の戦績を誇っている。

アマチュアのキャリアも豊富で、ユースオリンピックで金メダルも獲得している。昨年5月に世界タイトルを獲得し、プエルトリコで、将来を期待されているボクサーだ。

一発のパワーはないが、当て勘がよく、まとめるのが上手い。タイミングでKOを積み上げてきたタイプだ。

井上ほどのパンチ力はないが、基本に忠実な王道スタイルで、ガードも固く、パンチも多彩だ。

総合力が高く、バランスが取れていて、穴のない選手だ。

階級の壁を超えたパンチ力

これまでのキャリアや、対戦してきた相手を比較すると、井上が有利なのは間違いない。

井上はこれまで、海外で知名度があるチャンピオンを早いラウンドで葬り、圧倒的な強さで3階級を制覇した。

私は、これまで様々な世界王者と対談をしてきたが、最強のボクサーとして必ず名前が上がるのが、井上尚弥だ。同じボクサーからも、尊敬を集め、一目置かれている。

井上の武器は何と言っても、階級を超えたパンチ力にある。実戦練習のスパーリング経験者に話を聞くと、その驚くべきパンチ力のエピソードを聞かせてくれる。

通常スパーリングのグローブは安全面を考慮して、試合より大きいグローブで行う。そのため、スパーリングで倒れることは、ほとんどない。

しかし、井上のパンチはガードの上からでも、痺れるほど強いそうだ。これまで倒されたことがない選手が、「気づいたら天井を向いていた」と話していた。

また、井上より3つ上の階級の選手は、スパーリングで戦った時、上の階級の選手と戦っている感覚に襲われたそうだ。

それほど尋常ではないパンチ力なのだ。対戦した相手も、想像以上の破壊力に驚くのだろう。

ボクシングは、細かく階級に分かれた競技だ。ひとつ階級が変わるだけで、パンチ力は大きく変わってくる。

階級を変えて、パフォーマンスを発揮できなかった選手を何人も見てきた。

しかし井上は、そんな階級の壁を超える、破壊力のあるパンチを持っている。

ハードパンチの種類

ボクサーの強打者は、いくつかの種類に分かれている。必ずしも、パワー=KOに結び付かないのがボクシングの奥深いところだ。

まずは、キレやタイミングで倒す、

「タイミングパンチャータイプ」

パンチが強くても、そのパンチが予測できると相手も対応することができる。しかし、良いタイミングや予測できないパンチを急所に当てることで、相手を倒すことができる。

次に、硬いパンチを打つ、

「ハードパンチャータイプ」だ。

ハンマーで殴られているようなパンチで、もの凄く痛い。相手からしたら、ジャブもストレートも硬く、大きなダメージを受けるので、非常に嫌なタイプだ。

最後に一発のパンチに破壊力があり、パワーで相手を倒す、

「パワーパンチャータイプ」だ。

踏み込みを利用して、全体重を拳に乗せ、強力なパンチを放つ。腕力だけでは強いパンチは打てないため、下半身からの踏み込みの力を、体幹から拳に伝達していく。

井上は、パワーパンチャータイプに該当する。

フックで倒すパターンも多いが、一番強いパンチは右ストレートだろう。居合のような一発で、試合を決めるのが特徴だ。

決勝戦は5階級王者のノニト・ドネア

井上に油断はないだろうが、少し気になるのは、慣れない海外での試合と、現地での調整だ。今回の試合に対する期待も非常に高く、プレッシャーも感じているだろう。

過度なプレッシャーはマイナスに繋がるが、適度な緊張感はパフォーマンスを向上させる。

倒そうと力まないで、普段通りの動きができれば、早いラウンドでのKO勝ちもあり得る。

そのためにも、緊張とリラックスのバランスが重要だ。周囲の期待を力に変えて戦って欲しい。

このトーナメントの決勝には、5階級王者のノニト・ドネアが待っている。日本でも知名度の高いドネアとの対戦が決まれば、大きく盛り上がるだろう。

勝ち上がれば、決勝戦は日本開催の可能性もある。

井上は、パウンド・フォー・パウンドランキング(全階級を通じて最も強い)でも、日本人最高位の6位にランクインしており、海外での注目度も高まっている。

このトーナメントに優勝すれば、世界でもトップ3に入る可能性が高い。日本人の誰もが、踏み入れなかった領域に足を踏み入れている。

決戦まであと僅かだ。令和の時代で、新たな伝説を築いていってほしい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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