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韓国の「奇妙な」軍事報道に注意

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ空軍よりB-1B爆撃機

韓国ではTHAAD問題などの軍事報道でとても奇妙な主張が記事に書かれることがあり、それがそのまま日本でも伝えられ、日本の報道機関も真似をして同じような表現をしてしまう事があるので注意が必要です。幾つか代表例を挙げて見ます。

韓国の言う「戦略兵器」とは核兵器の事ではない

現代の世界で「戦略兵器」とは、広義では核兵器と核兵器を搭載する運搬手段の事を指します。狭義の意味では特に大破壊力を有する戦略核弾頭の事を指します。どちらにせよ戦略兵器=核兵器というのが一般的な認識です。ところが韓国では違います。「韓国がアメリカに戦略兵器の巡回配備を要求」という報道を見ても慌てる必要はありません。

韓国では「戦略兵器」とは「強そうな兵器」の意味

韓国がアメリカに巡回配備を要求している「戦略兵器」のリストは、F-22戦闘機、空母、原潜、イージス艦、大型爆撃機などです。このリストの多くが世界での一般的な認識では通常兵器です。アメリカはロシアとの核軍縮で海軍の戦術核兵器を全廃しており、今はもう空母やイージス艦には核兵器は搭載されていません。アメリカ海軍の核戦力は戦略原潜のSLBMのみで、攻撃原潜や巡航ミサイル原潜には核兵器は搭載されていません。つまり韓国の言う「戦略兵器」とは核兵器の事ではなく、大勢の国民が知っている強そうな兵器であればなんでもいいのです。これを政府や軍の高官が言っているので、マスコミもそのまま報道しています。

B-1B爆撃機は「死の白鳥」ではない

韓国の報道ではアメリカ軍のB-1B爆撃機の事を「死の白鳥」と呼ばれていると紹介しています。そしてこれを見た日本のマスコミも真似して同じ表現を使い始めました。しかし、当の運用国であるアメリカではそのようなニックネームは公式にも非公式にも全く用いられていません。そもそもB-1B爆撃機は夜間進入用に黒灰色に塗装されておりイメージするなら白鳥ではなく黒鳥です。それにロシアとの核軍縮でB-1Bからは核兵器運用能力は取り外されており、「死の」イメージも薄れてしまっています。

アメリカ空軍よりB-1B爆撃機
アメリカ空軍よりB-1B爆撃機

一体なぜ韓国の報道でB-1Bが「死の白鳥」と呼ばれ出したのか大元は分かりませんが、形状がよく似て白く塗装されているロシア軍のTu-160爆撃機が白鳥という別名で呼ばれているので、それと勘違いしているのではと考えられます。

SM-3は海のTHAADと呼ばれて・・・いない

弾道ミサイル防衛システムのTHAADとSM-3ですが、当の開発運用国であるアメリカではSM-3の事を海のTHAADとは呼んでいません。「SM-3は海のTHAAD」とは韓国だけで通用する表現です。呼ばれているというのは韓国の中だけです。ところが韓国の報道を見て日本の一部のマスコミも真似し、ロシアのマスコミまで真似した例が見受けられます。

このように韓国では独特な報道がなされています。韓国の中でしか通用しない言い回しや表現があり、他国のマスコミがそのまま真似して報道するとおかしなことになりかねません。特に戦略兵器の意味が韓国では異なるというのは、重大な勘違いを産みかねないので注意が必要です。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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