安全な「無痛分娩」を受けるために 医療機関の選び方のポイントは
徐々に増加している「無痛分娩」
出産(分娩)には、赤ちゃんを子宮内から外へ出すために陣痛が必要で、それには非常に強い痛みが伴います。初産では陣痛が始まってから出産に至るまで20時間以上かかることも珍しくないのですが、長時間にわたる陣痛の痛みに耐えることが昔はどうしても必要でした。
しかし、その痛み・不安感を和らげる方法として、もう百数十年以上前に米国で「無痛分娩」が試みられ、徐々に広まっていきました。近年では米国や仏国、英国、フィンランドなどでは無痛分娩の割合が非常に高く、60〜80%ほどとされています。
日本でも少しずつ実施数は増えてきていますが、2020年の厚生労働省のデータで
・一般病院:9.4%
・一般診療所:7.6%
と報告されており、全体の分娩に対する割合で言うと諸外国よりだいぶ少ないと考えられます。
*なお「無痛分娩」のほかに「和痛分娩」という用語も使われることがあり、医療機関によって麻酔方法や効きの強さ等で言い分けていることがありますが、本記事ではまとめて「無痛分娩」と表します。
無痛分娩の合併症や注意点は?
無痛分娩は「出産時の痛みを大きく軽減する」というメリットがあり、これは苦痛の軽減だけでなく産後の回復にも良い影響をもたらします。
方法としては主に2種類あり、
・硬膜外鎮痛(麻酔)
・点滴からの鎮痛薬投与
に分けられます (1)。
ただ、無痛分娩では以下のような分娩時合併症が増加することがわかっています。
・分娩時間の延長
・器械分娩(吸引分娩や鉗子分娩)
・出血量の増加
・産道裂傷(腟や会陰のキズ)
また、医療的処置を要するものですので、麻酔処置に関する注意点や起こり得る合併症が存在します。
日本産科麻酔学会の一般の人向け解説ページでは、硬膜外鎮痛(麻酔)について以下のように整理されています (2)。
よく起こる副作用
① 足の感覚が鈍くなる
② 低血圧
③ 尿のトラブル
④ かゆみ
⑤ 体温が上がる(発熱)
まれに起こる不具合
① 硬膜穿刺後頭痛
② 局所麻酔薬中毒
③ 異なるスペースに麻酔薬が入ってしまう
④ 麻酔部位の体内に血や膿(うみ)の塊ができる
「まれに起こる不具合」が生じる頻度はかなり低いものの、起こってしまうと迅速な対応や治療が必要となるため、日頃からの予防対策、早期発見、早期対処が重要になります。
無痛分娩の安全な実施のために望ましい医療機関の体制基準は?
それでは、安全に無痛分娩を受けるために、どのような医療機関を選べば良いのでしょうか。
2023年に更新された最新の産婦人科診療ガイドラインでは、医療機関に求められる体制について以下のような項目が記載されています (3)。
なお、ガイドラインはあくまでも指針を示すものであり、強制力を持っているものではありませんので、以下の項目を全て満たしていなくても無痛分娩の実施は可能です。
人員体制
・無痛分娩全体に責任を負う無痛分娩麻酔管理者
・患者の定期的なチェックと緊急時対応が可能な麻酔担当医
・無痛分娩のケアに習熟した助産師・看護師
その他の運用
・無痛分娩実施のためのマニュアルの用意とスタッフにおける周知
・危機対応シミュレーションの定期的な実施
・麻酔合併症への対応に必要な蘇生設備や医療機器などの常備
・無痛分娩の診療体制をウェブサイト等に公開
(無痛分娩の診療実績、説明用文書、急変時の体制、危機対応シミュレーションの実施歴、無痛分娩麻酔管理者の麻酔科研修歴・救急蘇生コースの有効期限など)
無痛分娩を受ける前に十分な情報収集と医療機関の選択を
今回は、無痛分娩における代表的な注意点や合併症の紹介と、それらのリスクを踏まえて安全に診療体制を組むために求められる医療機関側の体制を紹介しました。
まずは妊婦さん自身(とパートナーやご家族)で十分に情報収集し、メリットとデメリットについてある程度の理解をしておきましょう。
そして、出産を考えている医療機関が無痛分娩を取り扱っているかどうか、取り扱っているならどのような診療体制を敷いているのか、の確認が重要です。
日本では比較的小規模な医療機関でも無痛分娩を実施していることが多いですが、上記のような診療体制が不十分であると、万が一の事態の際に迅速かつ適切な対処が受けられず、重症化につながってしまうリスクが高まる懸念があります。
本記事を参考に、無痛分娩を希望される方がなるべく安全な環境で出産できることを願っています。
参考文献
1. 一般社団法人 日本産科麻酔学会. 無痛分娩 Q&A. Q3. 無痛分娩で用いられる鎮痛法にはどんな方法があるのですか?
2. 一般社団法人 日本産科麻酔学会. 無痛分娩 Q&A. Q14. 硬膜外鎮痛の副作用が心配です。
3. 産婦人科診療ガイドライン産科編 2023. P281-283.