発達障害グレー、ひきこもり、非行…若者の「働きたい」を支援する仕組みは
障害者の就労や短時間勤務、仕事と子育ての両立、コロナ禍のワンオペ育児、がんや難病患者、介護、グレーゾーンやひきこもりなどの多様な生きづらさの取材をする中、障害者手帳を持たない人たちのためのダイバーシティ就労という考え方を知った。既存の障害者の就労移行支援事業および就労継続支援A型事業を活用する構想だ。3月に開かれたダイバーシティ就労の討論会を取材し、その利点と課題について、モデル事業を進める3つの自治体の担当者による提言を整理し、3回にわたって紹介する。今回は、地域の体制についてや、出口の支援について、討論から考える。
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3月に開かれた「就労支援制度の態様横断化を目指すWORK! DIVERSITYの利点と欠点」登壇者(敬称略)
・座長 岩田克彦(ダイバーシティ就労支援機構代表理事)
・パネラー 池田徹(生活クラブ風の村特別常任顧問)
後藤千絵(サステイナブル・サポート代表理事)
竹村利道(日本財団シニアオフィサー)
津富 宏(静岡県立大学国際関係学部教授、前青少年就労支援ネットワーク静岡理事長)
●地域福祉圏に1つ支援センターを
現行の制度としては、就労準備支援事業もある。厚生労働省によると、一般就労に向けた準備が整っていない人を対象に、一般就労に従事する準備としての基礎能力の形成を計画的かつ一貫して支援する事業だ。千葉でユニバーサル就労を進めてきた池田氏は、就労準備支援事業についてこう指摘する。
「現状では、就労準備支援事業というのは全国的に極めて脆弱(ぜいじゃく)な事業です。もう7、8割の自治体は就労準備支援事業を実施しているんですけれども、担当者が1人とか兼務とかいうことで、就労支援の専門性を全く持ってない、そういう自治体も少なくないのが現状です。
しかし、自治体に1つあるという意味では、ちょうどいいものだと言える。例えば地域包括支援センターは自治体に6つ、7つ、大きな自治体ではもっとたくさんありますけれども、基本的に基礎自治体に1つ、就労準備支援事業があると、就労支援のマネジメントセンターになりうる可能性を持っていると思います。将来的には自治体に1つ、総合的な就労支援センターがあるべきと思う。
例えば、静岡県の富士市は条例でユニバーサル就労推進条例を作って、ユニバーサル就労支援センターを持っています。25~26万人の人口だと思いますが、支援員は7人います。これが全国に展開されれば、いい就労支援事業所とか、いい企業とかを改革していく能力を持てる、そういうポテンシャルを持っている。まさに就労困難者の就労支援、今の就労準備支援事業をベースにした総合的な就労支援マネジメントセンターにしていく構想ではないか」
地域福祉圏に1つぐらいのイメージでダイバーシティ就労センター、マネジメントセンターをつくり、政令市は区単位に持つイメージだという。
●出口の支援が必要
後藤氏は、ダイバーシティ就労のモデル事業を進める中で、この先に必要なことを指摘する。
「岐阜は、その基盤がない状態でスタートして、実際に小さな現場の課題がたくさんある。どうアプローチしていくかみたいな苦労は、どの地域でも同じ課題が出てくるんじゃないかなと。でも取り組みが広がって、認知も広がればこの課題も徐々に解決するんじゃないか。半年実施してみて、アプローチに苦労しましたけども、今問い合わせが増えています。
次に検討すべき点が、出口の支援だと思っている。今、実際の職場でリアルな就労をすることで自尊心が高まるという言葉を聞いて、そのとおりだなと思った。少しずつ関係性を構築して、企業の見学に行ったり、職場体験をしたりすることで徐々に就労に向けて準備する。このダイバーシティ就労でも、就労移行支援、既存の施設を利用するという、竹村さんの当初の構想に戻って、支援をして就労に向けて準備を整えていくのは十分できるんじゃないか。
ただ、そこから就職していこうとなった時に、障害者手帳がある方は法定雇用率などの法整備がある。ダイバーシティ就労の対象者に関しては、企業のほうも雇用義務で動くのが難しい。こうした多様な困難を抱える方の雇用に向けて、国も何かしらの制度を整えていくことによって少しずつ就労の場、機会が広がることが求められていく」
まとめると①選択肢を作っていくこと②包括的支援も必要③同時に専門的支援も必要、ということだ。それから、福祉事業所で囲い込むことがないように、一般就労に向けた対応も考える必要がある。
●雇用率でなく当事者の働きたいを尊重
竹村氏は、ダイバーシティ就労の制度を作る上で、現場の意見を聞きながら、何が必要で何が不十分なのか意見を出し合う、そのプロセスが大事だと考える。
「後々、これが制度化された段階で、きちっと教えられるっていう意味では、苦労していただきたいと思っています。あと、ここは悩ましいところで、雇用率があるから雇用されるのか。雇用率じゃなくて、この人が欲しいから、そういう社会を目指したいと思う。もしかしたら、そういう障害者雇用率じゃなくて、ユニバーサル就労率とか、インクルーシブ雇用率みたいなことを出していかないと進まないとするとするならば、今後予定をしている官民協議会のようなところで、議論ができれば。率がなくても雇われる社会を作りたいなと思う」
最後に、登壇者がそれぞれの気づきを投げかけた。
後藤氏「岐阜でモデル事業をやってみて、見えてきたことがたくさんある。特に氷河期世代のひきこもり就労支援を県から受託して、実際にこういうダイバーシティ就労支援を実施してみて、問い合わせの多くが引きこもりの方で、就労したいっていう気持ちがすごくある。これまで偏見と言いますか、バイアスで見られていた人たちとたくさんつながってきた、これはすごいことだと思っている。この取り組みを続けることで、誰一人取り残されない仕組み作りができれば」
池田氏「やはり法定雇用率のあり方に関して、抜本的に見直しをする時期に来ている。きょうのテーマじゃありませんけど、障害者就労の代行ビジネスの問題も出てきている。インクルーシブとは何なんだということを考えつつ、障害者の規定が変わる、つまり働きづらさを持った人が認定されて、何らかのサービスを利用すれば、今の障害者の雇用率に関しても、障害者とは何ぞやという見直しをしていかなければ」
津富氏「懸念が乗り越えられていくアイディアは、たくさん出たと思う。例えばマネジメントセンターは非常に大事だと、私も思っている。そこを具体的にどうするのかとか、あるいは基礎自治体で考えた時に、働けない人の大半は障害者ではないから、どのような状態をもって、いい状態って考えるかとか。インクルーシブの話かもしれませんけども、とても大事。最後一点だけ申し上げれば、やっぱり当事者の方々が自分たちで働きたいという働き方の在りようを実現していく、それを支援していくことだと思う」
「WORK!DIVERSITYプロジェクト」は、日本財団が取り組む、だれもが働ける社会を目指す仕組み作り。2018年、日本財団の調査により、引きこもり、ニート、刑余者、若年認知症、難病、依存症など、働きづらさのある人たちがのべ1500万人におよぶことがわかった。適切な支援があれば働けるが、現行の制度では公助のシステムがほとんどない。
一方で、労働力不足は加速し、2038年には50兆円を越えようとする社会保障費は、財政赤字をさらに膨張させようとしている。労働人口も減少し、2025年頃には国全体で600万人が不足するとの試算がある。日本財団は、働きづらさのある人たちを新しいシステムにおいて支援し、就業を促進、労働市場において活躍し、さらにタックスペイヤーとなることで社会保障や財政改革にも好影響をもたらすと考える。
この課題解決のため、既存のシステムを活用し、個々のQOLを高めて社会に新たな労働力を輩出しようとするプロジェクトがWORK!DIVERSITY(ダイバーシティ就労)だ。既存の障害者の就労移行支援事業および就労継続支援A型事業を活用する構想。現行でこれらのサービスは障害者以外は利用できないが、その就労支援の内容は、働きづらさを抱える多様な人に活用できると考えられる。
就労支援のモデル実証実験を3自治体と協働して行っている。研究とモデル実践を通し、具体的な支援方法を確立、その新システムにおいて障害者以外にも多様な就労希望者を支援し、社会に送り出すことを目指す。