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なぜ「高層階」のコンサルには要注意なのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:アフロ)

 人間は環境によって考え方や行動が変わる。あべのハルカス(300メートル)の高層階(25・31-36階)はオフィスフロアになっているが、こうした高い位置にいる人の判断はリスクを追いがちになる、という研究が出た。

上に位置する言葉のほうが偉い

 我々は知らず知らずのうちに周囲の環境に影響されることが多い。人間の認知機能と実体験や経験の関係を調べた研究(※1)によれば、アップダウン、出入り、近い遠い、前後といった空間的な移動や行動などによって認知的概念も変わっていくようだ。

 こうした感覚や感情の変化では、上下動による影響を調べた研究がいくつかある(※2)。パソコン画面に表示された単語では上にあるほうに下よりも高い評価を与え、天国と地獄に上下があるように我々には物理的に上にあるものをどうも高く評価する心理が働くようだ。

 では、高い場所にいる人間は、ポジティブで楽観的な行動をとるのだろうか。最近、米国の心理学雑誌『Journal of Consumer Psychology』に出た研究(※3)によれば、その答えはイエスだ。

 これは予備的な先行研究だが、マイアミ大学などの研究者は世界の3147のヘッジファンド(合計運用額5000億ドル、約54兆円、2013年)のデータを収集し、そのファンドがあるビルの階数(1〜96階)のどの階数に事務所を構えているか比較してみた。

 すると、階数とファンドの資産価値の変動幅(ボラティリティ、Volatility)との間に注目すべき相関関係を見い出したという。高層階に事務所を構えるヘッジファンドのほうが、わずかながらリスクテイクしやすい傾向があったのだ。

 物理的に高い場所にいる人のほうが、本当にリスクをとりやすいのだろうか。これを実験で検証するため、研究者は160人(女性26%)の実験参加者に対し、米国中西部の大都市にある73階建ての高層ビルでエレベーターに乗ってもらい、72階までの昇降中に投機ゲームをやってもらった。

 50ドルの掛け金で50〜100ドルの利益が出る安全パターンと20〜130ドルの利益が出る危険パターンを比較したところ、エレベーターが昇る時のほうが降りる時よりもリスクの高い危険パターンに手を出す傾向(38%増)があった。38人(女性60%)の実験参加者に対し、同じビルを使ってもうちょっと複雑な賭けをしてもらったところ、同じように6%ほど昇る時のほうがリスクをとりやすくなる傾向があったという。

1階と3階とでも違う

 さらに、18〜73歳までの144人(女性43%)の実験参加者に対し、3階建ての建物の1階にいる時と3階にいる時とでリスクと報酬(iPadと若干の金銭)をどうとるか比較した。すると1階より3階にいる人のほうが、よりリスクをとりがちだということがわかったという。

 最後の実験では、1階と3階の参加者に対し、いくつかの単語を並び替えて文章を作る作業をしてもらった。すると3階の人のほうが1階にいる人よりも力強い文章を作る傾向(3階9.7:1階9.4)があったという。

 東京や大阪などにみるように都市の高層化は急速に進んでいるが、投資顧問や法律顧問、財務担当、医師などのオフィスも上層階にあったりする。こうした物理的な環境が、彼らの意志決定や判断、言動にどう影響するか興味深い。

 この研究によれば、高い場所にいる人間はポジティブだがリスクをとりがちということになる。もちろん一概にはいえないが、上層階に事務所を構えるコンサルタントの楽観的な言葉には、少し気をつけて耳を傾けなければならないのかもしれない。

※1:George Lakoff, et al., "The Metaphorical Structure of the Human Conceptual System." Cognitive Science, Vol.4, 195-208, 1980

※2-1:Brian P. Meier, et al., "Why the Sunny Side Is Up: Associations Between Affect and Vertical Position." Psychological Science, Vol.15, No.4, 2004

※2-2:Brian P. Meier, et al., "What's "up" with God? Vertical space as a representation of the divine." Journal of Personality and Social Psychology, Vol.93(5), 699-710, 2007

※2-3:Massimiliano Ostinelli, et al., "When up brings you down: The effects of imagined vertical movements on motivation, performance, and consumer behavior." Journal of Consumer Psychology, Vol.24, Issue2, 271-283, 2014

※3:Sina Esteky, et al., "The Influence of Physical Elevation in Buildings on Risk Preferences: Evidence from a Pilot and Four Field Studies." Journal of Consumer Psychology, Doi: 10.1002/jcpy.1024, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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