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「在宅引きこもり部下」がたどった最悪の結末 若者の価値観を「水平思考」に役立てられるか?

横山信弘経営コラムニスト
オフィスだと人間関係に疲れる……(写真:イメージマート)

■若者の価値観を「水平思考(ラテラルシンキング)」に役立てられるか?

「水平思考(ラテラルシンキング)」という言葉がある。

水平思考は前提を疑い、時には前提を否定することで、新たな可能性を見つけ出す思考法だ。

この水平思考に対し、身近に感じられるのが「垂直思考(ロジカルシンキング)」である。

・前提 → 推論 → 結論

という順番で思考する。

たとえば、商品の価格について考えるとき、

「商品を値上げすると販売量が減るだろう(推論)」 → 「だから価格はしばらく据え置くことにした(結論)」

このように思考する。なぜなら

「商品価格を上げれば上げるほど売れなくなる」

という「前提」を条件としているからだ。筋が通っているし、説得力が高い。ところが、もしも

「商品価格が上がれば上がるほど欲しくなる」

という法則があったらどうか? 実のところ、このような心理現象をヴェブレン効果と呼び、実際に存在する。

まさに、これが水平思考である。前提が覆されるからだ。

私たち昭和世代の人間は、いまだに

「社会に出たばかりの若者は世間知らず。社会のことを何もわかっていない」

という前提で接してしまうことがある。

ところが物心ついたときから、身近にスマホがあった若者たちに、果たしてその「前提」は通じるのだろうか。

実務や業界について知識や経験が浅いからこそ、前提を覆すようなアイデアが出てくることがあるのだ。

「水平思考(ラテラルシンキング)」の視点から考えると、若者たちの価値観や視点は貴重だ。組織を変えるうえで、強くて創造的な気付きを与えてくれる。

だが、そのように受け入れられなかった残念な例がある。

■在宅で引きこもる部下が超優秀だったら?

あるメーカーの営業で、こんな「引きこもり部下」がいた。

出社を拒否し、自宅の作業スペースから成果を出し続ける若者だった。その部下の存在に、マネジャーたちは頭を悩ませた。

この会社のマネジャーたちは在宅ワークの経験が乏しかった。だから、どのようにこの若者が効率よく成果を出しているのか、まったく理解できなかったのだ。

入社当時、この部下は成績が低迷していた。自分自身を、

「陰キャです」

「コミュ障です」

と決めつけ、営業成績が上がらない理由にしていた。

しかしコロナ禍になり、在宅ワークでオンラインを使った営業活動に慣れると能力が開花。顧客との効率的なコミュニケーションスタイルを自ら生み出し、部内ナンバーワンの営業成績を叩き出すほどになった。

だが、コロナが収束に向かいはじめた2023年以降、この会社は「基本出社」の路線に切り替える。当然、この若者にも出社を求めたが、

「出社したら、営業成績がダウンする」

と言って聞かない。

上司が手をこまねいていると、同じ部署の部下たちからは、「不公平だ」との声が上がりはじめた。出社を強いられながら働く彼らから見れば、自宅から成果を上げる「引きこもり部下」は特権階級に見えたかもしれない。

■「在宅引きこもり部下」がたどった最悪の結末

本社の総務に問い合わせたところ、

「基本出社ではあるものの、組織ごとに柔軟に対応すべき。強制ではない」

という曖昧な返答が返ってくる。

「在宅で働く優秀な部下」と「出社を求める会社の方針」に挟まれ、上司は悩んだ。

マネジャーたちの意見は分かれた。「多様な働き方を推奨する」という会社の姿勢を取り上げる声も多く聞かれた。

「強制的に出社させるのは、どうなのか?」

「営業成績で結果を出しているのだから、本人の意向を尊重すべきだ」

そのように発言するマネジャーもいた。反対に、

「そうは言っても、在宅ワークは効率が悪い」

「出社しないと組織内コミュニケーションがとれない」

という意見も多かった。結局は、会社の新たな方針――「出社を基本とする」への転換を支持する声が高まり、押し切られた。

「在宅ワークは効率が悪い」

という前提を疑う人が少数だったからだ。つまり「水平思考(ラテラルシンキング)」が欠けていた、とも言える。

方針に従うことは大事であるし、組織の統率がとれないのも問題だ。この理由で出社を求めるのは悪くない、と私も思う。

しかしながら、

「在宅ワークは効率が悪い」

「出社しないと組織内コミュニケーションがとれない」

というのは、本当なのか? 柔軟な頭で、この前提を疑い、

・在宅でも出社でも効率が良い人

・在宅だと効率が悪く、出社だと効率が良い人

・在宅だと効率が良く、出社だと効率が悪い人

・在宅でも出社でも効率が悪い人

これらのパターンを考慮したか。どのような解決の選択肢があるかを吟味して意思決定をしたか。それが問われるだろう。「水平思考」で前提を疑わないことには、これらのパターンを思いつくこともない。

結局、本人を説得して出社を促すようになった。しかし、この意思決定は、想像以上に悪い結末を迎えた。

3年近く在宅で引きこもっていたこの若者は、渋々オフィスに足を運んだ。しかし、彼女が以前のように輝くことはなくなった。効率的に営業活動ができず、成績は下降していった。

さらに悪いことに、彼女のやる気もみるみるうちに下がった。自宅で働くことができず、一日中人間関係に疲れ、業績を出すための自由な発想ができなくなった。

強制的に籠の中に入れられた鳥のようだと言えばわかりやすいだろうか。以前は、外を元気に飛び回っていた鳥だったのに。

この状況を目の当たりにしたマネジャーたちは、自分たちの決断がどれほどの悪影響を及ぼしたかを痛感した。

本来なら業績を引き上げるはずの優秀な部下を、ただの一人の無気力な部下に変えてしまったのだ。多様性の時代に、「水平思考(ラテラルシンキング)」は不可欠だ。

※【参考記事】ロジカルシンキングとラテラルシンキングを同時に学び、思考をパワフルにする3事例と6つのフレームワーク

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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