幻の「カルラコード」とは:弱肉強食の二次元コード物語
現在、我々は商品などに付けられているバーコードやQRコードの恩恵にあずかっているが、他にも多種多様なコードがある。その一つが日本発の「カルラコード」だ。登場した当初は注目を集めた一次元の識別子だが、いつしか消えてしまった。カルラコードとは何か、なぜ消えてしまったのか、その謎に迫る。
一次元コードと二次元コード
線や模様によって数字や文字列を表す種類の識別子では、横方向のみの一次元コードとしてバーコードがあり、タテヨコ方向の二次元コードに日本発のQRコードがあり、どちらも商品などに付けられて広く普及している。当然、一次元コードより二次元コードのほうが記憶密度が高いため、小さな面積に多くの情報を入れることができる。
だが、一般市場流通や製造業用として、一次元コードは依然として多用され、日本でもコンビニエンスストアの商品や書籍などのコードは一次元コードのバーコードが主流だ。一次元コードは、世界に100種類以上あり、実用として使われているものは数十種類と考えられている。
一般的なバーコードは、バーコードリーダーで読み込まれなければ意味をなさないが、読み込みのために求められる精度は細かく厳しい。例えば、バーコードの白黒のバーのコントラストを高くし、バーの幅も標準値に近い値を求められ、印刷品質もAからFまでの5段階のグレードが評価される。
そのため、現在でもこうしたバーコードの印刷精度に関しては課題があり、多少の誤差があっても読み込みできる一次元コードがあればという声もある。だが、バーコードがこれだけ広く普及し、標準化している状況でバーコードに代わる一次元コードはなかなか出てこないだろう。
「カルラコード」とは
こうした識別子コードは、世界に多種多様なものがあるが、実は1980年代後半に話題になった日本発のコードがあった。それが「カルラコード」だ。
このコードは、東京の小さな印刷会社の社長が考案したもので、「田」の字を塗りつぶすことで数字とアルファベットを16通りに分けることができる。当時の新聞記事によれば、
とあり「だれでも、軽く、ルンルン気分で、楽に情報化社会に参加できるように」という願いから「カルラコード」と名付けたという。
この「カルラコード」は、0.01ミリの印刷精度が要求されるバーコードと比べ、0.75ミリの印刷のズレがあっても読み込める。また、バーコードの原版の1/350の値段で作成でき、「田」の字の中を塗ればいいので、手塗りでもコードができるし、手作りも可能だ。
そして、バーコードの情報量は10種類の数字だけだが「カルラコード」は2段重ねにすると256種類を組み合わせる情報量になるという。左右だけでなく、上下に重ねることで一種の二次元コードとしての使用も可能だ。
識別子コードの課題とQRコードの成功
富岡さんは仲間と一緒に「カルラコード」を普及させるための別会社を立ち上げたが、その後、多くの企業が参加し始め、プリペイドカードや農作物の出荷表、自動車工場の製造ラインの製品管理コード、プロ野球球団の選手のベースボールカードなどに使われるようになる。そして、1990年代の半ばには、中国市場に進出しようとした。
「結局は資金が足りなくなったんです。中国進出やコンビニエンスストアへの流通で失敗したのも痛手でした」
発明者の富岡氏と一緒に「カルラコード」を広めるためのベンチャー企業「アレック・ジャパン」を設立した久松潤一氏(現・株式会社リーテック、代表取締役社長)はこう振り返る。同氏らは「カルラコード」を元に、他業種連携のコンソーシアムを発足させ、凸版印刷などとイオン電解質の電位差を利用した透明自動認識コードなどを開発、紙媒体とデジタル媒体のメディアミックスなど、ユニークな活動を展開した。
だが、次第に「カルラコード」は話題に上らなくなり、やがて活動もなくなってしまったという。
バーコードの歴史はすでに70年以上あり、発案当初のものは射的のまとのような円形だった。その後、コンシューマ市場における自動化とPOSシステムの発達とともに多種多様のコードが出現し、日本でもNEC、富士通、三菱などが独自の一次元コードを開発した。
今回紹介した「カルラコード」もこの流れの中で開発されたが、こうした識別子コードの最大の課題は、商品や製品など全てにコードが印刷されたラベルを貼り付けなければならないこと、そしてコードリーダーを普及させなければならないことだ。
QRコードはよく知られているように日本の大手自動車部品メーカーが開発したが、特許を公開して特許権を放棄してオープンソース化した。そして、コンビニエンスストア大手に導入されたこと、スマートフォンなどから読み込めるようにして特殊なカードリーダーを不要にしたことなどが普及の理由とされている。
もちろん、読み込みエラーの回避といった技術的な側面も大きいが、マーケティング力や継続できる体力と同時に、モバイル決済の普及といった時代の流れがQRコードの背中を後押ししたといえる。もしかしたら「カルラコード」にも、その可能性があったのかもしれない。