“きしめん離れ”なんて言わせない! 「きしころスタンプラリー」に大手チェーンや東京からも参戦
名古屋めしブームに乗り切れず一時は深刻な“きしめん離れ”に
“きしめん離れ”なんて風潮も今は昔? 名古屋名物・きしめんの人気がここ数年、ググッと盛り返してきています。
きしめんは江戸時代発祥で、名古屋のご当地グルメ・名古屋めしの中でも屈指の伝統を誇ります。ところが、1990年代頃から長らく需要は減少傾向に。“きしめん離れ”というワードがしばしばメディアでも取り上げられるようになっていました。
人気が低迷したのには様々な要因が考えられます。
〇1970~80年代、製麺機を導入するうどん店が増え、当時の機械では繊細なきしめんの食感を再現しきれなかった
〇当時盛んだった出前にも、薄くてのびやすいきしめんは不向きだった
〇きしめんの手打ち、調理は手間がかかるため、店が積極的にアピールしなかった
〇2000年代以降の名古屋めしブームで個性の強い他のメニューに注目が集まり、存在感が薄れてしまった
こうした理由から、全国的には知名度が高いにもかかわらず、地元の人があまり食べなくなってしまっていたのが“きしめん離れ”の真相。2000年代初頭はまさに冬の時代で、町のうどん店からは「せっかく仕込んでおいても一日に一杯も出ず、泣く泣く麺を捨てることも珍しくなかった」「きしめんをメニューから外してしまった」という声も聞こえてくるほどでした(ちなみに名古屋、愛知にはきしめん専門店は駅ホームの立ち食い店をのぞいてほとんどなく、きしめんはうどん店で注文する際の麺の選択肢のひとつ、という位置づけです)。
冷たいつゆをかける“きしころ”で“きしめん復権”へ!
こんな状況から風向きが変わったのは2010年代に入ってから。危機感を抱いた地元関係者らが組織的なPRに力を入れるようになった他、町のうどん店によるイベント「きしころスタンプラリー」も“きしめん復権”の大きな推進力になりました。
「きしころスタンプラリー」は主に名古屋市内のうどん店30~40店舗が参加して夏の2か月間にわたって開かれる食べ歩き型のイベント。2015年にスタートして今年で9回目と、今やすっかり夏の風物詩となっています。
このラリーで提供されるメニューが「きしころ」です。名古屋では冷たいつゆをかけたうどんやきしめんを“ころ”と呼び、市内のうどん店ならほぼもれなくこの食べ方を選択できるのです。
きしころをきしめん復権の切り札に! スタンプラリーを始めるにあたっては、うどん店主らのこんな思いがありました。
「きしめんはころが一番ウマいんです! 幅が広くて薄いきしめんには、ぺろぺろっと舌の上を滑るような独特の食感がある。つゆが冷たいと麺がキュッとしまって、この特徴がより活きる。きしころをきっかけにして、きしめんの魅力をあらためて知ってもらおうと考えたんです」(愛知県めんるい組合理事長で「みそ煮込みの角丸」店主の日比野宏紀さん)
この思いは徐々に身を結び、ラリー参加者は年々増えていきました。5店舗のスタンプを集めるごとに進呈される食事券(今年は1枚400円)の配布枚数は1年目の115枚から昨年は463枚と実に4倍に(!)。単純計算で2300杯以上のきしころが食べられていることになります(スタンプ5個に達しない参加者も多数いるため、実際はこれよりはるかに多い)。
9回目を迎える「きしころスタンプラリー」、2023年の注目ポイントを尋ねました。
「大手チェーン、大型商業施設内、そして東京と、これまでになかった立地やタイプの店の参加が大きな特徴です! 特に東京の『きしめん尾張屋』さんでラリーの台紙を配ってもらえることで、東京の人にもきしころをアピールできる、と期待しています」(日比野さん)
ダシのプロが開発したプレミアムきしめん~「棊子麺茶寮いしこん」
「棊子麺茶寮(きしめんさりょう)いしこん」は今回ラリー初参加。名古屋駅前の大型商業施設・ミッドランドスクエア内にあり、住宅街やオフィス街立地が大半の参加店の中でも異彩を放っています。
「場所柄、市外・県外からの観光のお客様が多い。きしころを他地域の人にも知っていただけるチャンスだと考えました」と経営元の石昆・石川哲司さん。同社は「うみぁーっ手羽」など名古屋土産の人気商品で知られる食品メーカー。社名の通り、昆布を中心としたダシにこだわって商品づくりに取り組んでいます。
「きしころスタンプラリーへの参加は2021年にこのきしめん専門店を出店して以来の念願でした。商品開発にあたり100軒以上を食べ歩いて研究し、ダシの取り方からかえしの仕込みまで、ころのために一からつくり直しました」(石川さん)
その名も香露基子麺(ころきしめん)は、たまり醤油の濃厚さと昆布を中心とした上品なダシのバランスが絶妙。最初は濃い口に感じるのですが、後味は清涼です。幅広麺は極薄でつるつる。つゆをたっぷり含みつつものどごしがよく、存在感のあるつゆとよく合います。名古屋のうどん、きしめんのダシはムロアジと宗田ガツオのブレンドが主流で昆布はほとんど使われません。立地だけでなく、味わいもまた異彩を放っているのです。
名古屋コーチンの卵と鶏肉をトッピングした香露基子麺 親子はコーチンの滋味に富んだ味わいもプラス。2000円ときしめんにしてはお高めですが、食せば納得の満足度です。
サガミのきしめん愛が生んだ魅惑の新メニュー~「あいそ家」
今回のスタンプラリーには、何と東海地方最大級の和食チェーン「サガミ」も初参戦。同社の別ブランド「あいそ家」2店舗が名を連ねます。
「『あいそ家』では2002年の1号店オープン当初から具だくさんの『寄せきし』を目玉メニューとして打ち出してきました。それだけに、きしころスタンプラリーには是非参加したいとずっと思っていたんです」と業態開発事業本部の阿曽俊介さん。
スタンプラリー対象メニューとして、この寄せきしに加えて、天道店(名古屋市北区)と港店(名古屋市港区)でそれぞれ店舗限定の新メニューを開発する力の入れよう。いずれもコスパと創作性に優れたきしころに仕上がっています。
そして、にぎやかな具の取り合わせもさることながら、麺のクオリティの高さに驚きます。
「きしめんの麺はサガミグループでつくっているオリジナル。サガミはそばの店内製麺をウリにしているので、きしめんの開発メンバーも負けじと開発に力を入れて、毎年ブラッシュアップを図っています。現在の麺はやや厚みを出してもっちり感を重視。王道のきしめんのおいしさを追求しています」(阿曽さん)
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いわゆる“町のうどん屋さん”がほとんどだった「きしころスタンプラリー」に、今回は企業経営の店も参加。これはすなわち“きしころ=きしめん”が外食企業にとって売れスジ商品になっていることの証といえるでしょう。
いよいよ新たなフェーズに入ったきしめん。今まさに“旬”の名古屋めしをスタンプラリーで味わってみてください!
(写真撮影/筆者 「あいそ家港知多店」のチラシ画像はサガミ提供)