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高校生を襲った「低酸素脳症」原因や対策法は?救急専門医に聞きました

市川衛医療の「翻訳家」
(写真:アフロ)

 新潟県の高校で7月、野球部のマネ―ジャーをしていた16歳の女性が倒れ、8月5日に「低酸素脳症」で亡くなったと報道されました。

練習後走り倒れた女子マネジャー死亡 新潟の高校野球部 朝日新聞デジタル 8月6日

 低酸素脳症は、簡単に言えば「脳に酸素を十分に届けられなくなったことで、脳に障害が起きた」状態です。

 今回報道された高校生は、なんらかの原因で脳に酸素が足りない状態になりました。その結果、脳に障害が起き、死に至ってしまったと考えられます。

 脳は、私たちの生命を維持する、高度かつ重要な働きをしています。しかしそれを担う神経細胞はとても繊細で、酸素が常に供給されていなければすぐに弱ってしまいます。

 脳には血液を通じて酸素が常に供給されていますが、それが完全に途絶えれば、数秒のうちに意識を失います。そしてわずか3~5分が経過すると、たとえその後に酸素が供給されても、障害が残ってしまうことがあります。

画像:Pixabay
画像:Pixabay

 しかし、そもそも脳への酸素の供給は命に係わるからこそ、めったなことでは止まらないようになっているはずです。

 なぜ、それが起きてしまうのか?なってしまったらどうすれば良いのか?一刻を争う低酸素脳症の対応を行う、救急医療の専門家に聞きました。

注)下記の内容は、低酸素脳症の一般的な原因や対策法を聞いたものであり、今回報道されたケースの原因などを解明しようとするものではありません

低酸素脳症はなぜ起きるのか?

インタビューに答えてくれたのは、救急専門医の志賀隆さんです。

志賀隆さん(救急専門医・米国救急専門医 国際医療福祉大学三田病院 救急部 部長 )
志賀隆さん(救急専門医・米国救急専門医 国際医療福祉大学三田病院 救急部 部長 )

Q 低酸素脳症を起こす理由として多いのはどんなものでしょうか?

低酸素脳症の原因として多いのは、血液を脳に送るポンプの働きをする心臓の働きがおかしくなることです。特に若い人では、心臓の動きがおかしくなって上手に血液を送り出せなくなる「心室細動」という状態が原因のことが多いです。

Q 心室細動が起きやすいタイミングはあるのでしょうか?

心室細動の最も多い原因は、「心筋梗塞(こうそく)」などの心臓の病気です。ただ40歳未満の若い人で心室細動を経験された方を調べたところ、そのうちの15%は心臓の病気がなかったという報告もあります。なので、過去に心臓に異常がなくてもとつぜん発症する可能性がないわけではありません。

心室細動に限定されたことではないですが、例えば暑い中で汗を大量にかくことによって起きるミネラルのバランス異常や、激しい運動、そして疲労などは心臓に負担をかけます。それまで運動習慣のない人が急に激しい運動をするようなことは、注意したほうが良いと思われます。

Q 低酸素脳症を防ぐためには、できるだけ早い対処が必要と思われます。どのような症状があるときに、気を付けたほうが良いのでしょうか?

心室細動になると、突然意識を失い、呼びかけに応答せず、呼吸と脈が止まります。呼吸は胸の動きがなく喘ぐような動きをすることがあります。

突然、人が倒れた時には、まず安全(車通りの多い場所ではないかなど)を確認した後、大きな声で「119番をお願いします」「AEDを持ってきてください」と周囲に助けを要請をしてください。

ただ心室細動の場合、対処は文字通り「秒」を争います。仰向けにして胸やお腹を見て、長くても10秒見ても上下に動かない(確かな呼吸が感じられない)ようならば、AEDや救急隊の到着を待たずに、すぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)をして脳に酸素を送ってあげることが大事です。

※AED…自動体外式除細動器

AEDや胸骨圧迫の方法をまとめた日本心臓財団のホームページ(キャプチャ)
AEDや胸骨圧迫の方法をまとめた日本心臓財団のホームページ(キャプチャ)

Q  AEDが近くにない場合、もしくは、届くのに時間がかかる場合はどうすれば良いのでしょうか?

AEDがすぐ到着する場合には、いちど胸骨圧迫を中断してAEDをオンにして指示に従います。到着に時間がかかってしまう時には、周りの人と協力して胸骨圧迫を続けてください。2分を目安に交代し、できるだけ中断時間を最小限にすることが大事です。

(参考資料など)

※AEDや胸骨圧迫の方法については、日本心臓財団のホームページが詳しいです

※詳しく知りたい方は、JRC蘇生ガイドライン2015をご参照ください

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【取材協力】

志賀隆さん(救急専門医・米国救急専門医 国際医療福祉大学三田病院 救急部 部長)

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医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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