裁量労働制でも残業代はもらえる?「営業手当」が残業代扱いになっている事も…
「働き方改革」に関連する裁量労働制についての議論が激化している。その中でも求職者として気になるのは「残業代」についての話ではないだろうか。
就活生とのやり取りの中でも
「残業代をもらえない企業はどう見極めるべきなのか」
「そもそも残業代というのは実際にもらえるものなのか」
「採用情報に載っている みなし残業代 とはどういうものなのか」
などの質問をもらうことは日常茶飯事だ。
そこで今回は「みなし残業」について話したい。
【みなし残業には2種類ある】
法律上、実は「みなし残業」という言葉は存在しない。
そして「みなし残業」には2つの種類がある。
[1] 「定額残業制」に基いて運用されている「みなし残業」
[2] 「みなし労働時間制」に基いて運用されている「みなし残業」
みなし残業について話す時は、どちらに該当する「みなし残業」なのかをまず確認しておきたい。
[1]の定額残業代制は、労働基準法等の法令に規定されている制度ではない。
しかし過去の判例により一定の要件を満たす限り、適法であるとされている。
一方で[2]の「みなし労働時間制」は労働基準法の中で定義されている。
現在「働き方改革」の一環で法改正されようとしているのは[2]に該当する。
両者についての詳しい解説は本筋ではないため、ここでは割愛する。以下では「就職サイトなどで募集要項を見たり、企業選定を行う時にどういった点を見ておくべきか」という話をしていきたいと思う。
[1]の定額残業代制について
「定額残業代制」は、業種による制限もなく全ての労働者に適用される可能性がある。その代わりに定額残業代制度を実施するためには、基本給部分と残業代部分を区別し、明確化する必要がある。
そのため、基本的には求人サイト上で明示される(金額や残業時間を明示されていないならば問題だ)。
こちらのケースで第一に気をつけるべき点は、「みなし残業代が極端に高くないか」という事だ。
ナビサイトで「みなし残業」などのキーワードで検索してみてもらいたい。
例えば「基本給20万円(みなし残業代5万円を含む)」という求人があったとしたら、みなし残業代を除いた本来の基本給は15万円という事になる。
月平均所定労働時間が173時間だったとしよう。
2017年10月1日の引き上げにより東京都の最低賃金は958円になったので、
月平均所定労働時間×最低賃金=165734円
つまり15万円では最低賃金未満という計算になる。
実例で提示すると、月給21万台でみなし残業代9万円(75時間相当分)を含むというような企業もある。
極端な例だが、実に月給に対して4割以上がみなし残業代という計算になる。
みなし残業代が高いということは、みなし残業時間も長いという事を意味する。
「そのくらいの残業を期待されている」と認識した上で入社可否を判断するべきだろう。
もう1つ、みなし残業時間を超えた時の残業手当について記載しているかどうかをチェックしておきたい。
ちゃんとした会社であれば、
「※〜時間を超える残業をした場合は追加で残業手当を支給 」
「※みなし時間を超過した分は残業手当として実時間算定分を支給 」
など、待遇欄にしっかり記載している事が多い。
(もちろん、そう記載しているから必ず支給されているという保証はない。その点は注意していただきたい)
[2]みなし労働時間制について
みなし労働時間制については、現状で下記の3パターンでのみ適用できる。
「事業場外のみなし労働時間制」
「専門業務型裁量労働制」
「企画業務型裁量労働制」
この適用範囲などを改正しようと今議論しているわけだが、その是非を論じるのはこの記事の本筋ではないため割愛する。
就活中に注意したい点は、「みなし労働時間制を採っている」と求人サイトに記載されていない事も多い事だ。
そのため入社承諾の直前になって初めて「弊社は裁量労働制になっている」という説明がされる可能性がある。
(また、「専門業務」や「企画業務」の適用範囲が曖昧なため、企業側に都合の良い解釈をされている事も多い。無理やり適用した結果、企業側が裁判で負けたというケースもある。)
例えば外回りの営業系職種で、みなし残業代が「営業手当」などの名目で記載されていることがある。
「初任給額/月給〜円 ※営業の場合、営業手当〜円を加算」などの記載がそれに当たる。
外回りで直行直帰が認められている営業なら、「事業場外のみなし労働時間制」を適用する事自体は法的に問題ない。
ただ「基本給+営業手当+残業代が支給される」と思っていたら入社後に期待が外れてしまう事になるだろう。別途残業代を支払っていない事も多いので、確認しておいた方が良い。
就業規則に「営業手当の支給対象者には残業代は支給されない」と記載されている事もある。
厳密に言うと残業代が営業手当を上回るのであれば差額を支払わなければいけないのだが、そのことを明記していない企業においては厳密な運用がされていない可能性が高い。
労働基準法の規定とは異なるのだが、グレーなまま多くの会社でそういった運用が成されている。
もちろん、求人サイトに記載されている「営業手当」が全て残業代扱いになっているわけではない。
純粋に通信費、衣服、靴など営業に必要なものを準備するための手当としている企業もある。
どちらに該当するかを区別して、企業選びの際に考慮していただきたい。
大企業だから安心できるものでもない
「みなし残業代を超過したらその分は支払う」のが本来の運用だが、それを厳密に守っている企業ばかりではない。
そう言うと「大企業ならちゃんとしてるのでは?」と思うかもしれないが、決して大企業だから安心というわけではない。
もちろんベンチャーや中小企業に比べれば法に則って残業代を支払う率は高いかもしれないが、たとえ東証一部上場企業でも残業を付けさせてもらえない会社は存在する。
働き方改革を進めようとなった時、経営サイドの思考は「残業代をきっちり払う」ではなく「残業をなくそう」という方向にのみ働くケースが多い。
たとえ残業代をきっちり払っていたとしても、「残業が多い」時点で世間からのイメージは悪い。
経営者視点では、「残業を漏れなくカウントし、漏れなく残業代を払う」というのは大変割に合わない行為なのだ。
そう考えると「残業を減らす」方向に目を向けられるのは当然だ。
それで本当に残業が無くなるなら問題ないのだが、実態としては残業せずに仕事がこなしきれない事も多く「残業の記録をつけない」方向に行ってしまう企業も多い。
その結果、タイムカードが押された後の居残り仕事や、持ち帰りでの仕事が発生することになる。
最後に念押ししておくが、本記事は政府が法案をどう変えるべきかという部分について論じるつもりはない。
どんな法律になろうと、多かれ少なかれブラック企業は発生する。
その事を前提とした上で、ブラック企業を避けるための知識を知り、自分にとって好ましい働き方ができる企業を是非見つけていただきたい。