「マンゲキ」からロングコートダディ、マユリカらエース格が卒業して1か月、不安吹き飛ばして新世代台頭
『キングオブコント2022』でビスケットブラザーズが優勝、『THE W 2022』で天才ピアニストが優勝、紅しょうがが3位、『M-1グランプリ2022』でさや香が準優勝、ロングコートダディが3位、『R-1グランプリ2023』で田津原理音が優勝。
直近のビッグタイトルでの活躍も目覚ましい、大阪の若手芸人を中心とした劇場、よしもと漫才劇場(通称「マンゲキ」)の所属メンバー。たとえるなら、高校野球における大阪桐蔭か、はたまた『SLAM DUNK』の山王工業か。現在のマンゲキからは常勝軍団の気配すら漂っている。
そんな同劇場から2023年2月、大きな発表があった。マンゲキの中核を担う6組が同年3月をもって卒業し、東京進出するというものだった。卒業したのは、マルセイユ、ロングコートダディ、シカゴ実業、ニッポンの社長、マユリカ、紅しょうが。その時々の看板芸人が東京進出のために同劇場から卒業するのは毎年のこと。トップクラスの血の入れ替えが頻繁におこなわれることで、マンゲキの若手はどんどん伸びる。それが全国的な賞レースなどでのマンゲキの強さの理由のひとつだ。
それでも同時期に、これだけたくさんの中心メンバーの卒業者が出るのは異例のことだった。マンゲキのファンからも戸惑いの声も多くあがった。そんな6組が卒業してちょうど1か月が経った。
大阪時代に発売した水着写真集が異例の大ヒットを記録したマユリカは、『ヒロミ・指原の“恋のお世話始めました”』(ABEMA)の合コン企画に出演。中谷祐太は自己紹介時にバク転を披露するなどして場を盛り上げて大モテ。MCのヒロミも「こういう子は出てくる」と売れっ子になることを約束した。
『THE W』決勝へ4度進出している紅しょうがは、4月5日、12日放送『かまいガチ』(テレビ朝日系)でおこなわれた浜崎あゆみのデビュー25周年企画のとき、“あゆファン”の熊元プロレスが、披露するネタの内容を飛ばすなどテンパりまくり。熊元のポンコツぶりと、それにイライラが隠せない稲田美紀の様子がおもしろく、東京のバラエティ番組にハマりそうな予感がした。
早くも活躍の気配が漂っている東京進出勢。一方、トップランクに位置していた芸人たちがいなくなったマンゲキは現在、どうなっているのか。実際のところは、早くも「新世代台頭」を感じさせる状況となっている。
滝音、カベポスターが新たな看板候補か?
ロングコートダディ、ニッポンの社長、マユリカなどは劇場を引っ張るリーダー的な役割があった一方、アイドル的な人気もあつめていた。3組のように牽引役をつとめながらアイドル的人気も誇る枠におさまりそうなのが、滝音である。『キングオブコント2020』ファイナリストの実績を持つ滝音は、漫才中に生み出される独特のワード「ベイビーワード」を操るさすけ、飄々とした雰囲気でボケる秋定遼太郎のコンビ。3月から8月まで初の全国ツアーも実施するなど活動規模を広げており、これを機にひと皮もふた皮も剥けそうな予感がする。
『M-1グランプリ2022』ファイナリストのカベポスターも飛躍が著しい。早くから漫才の実力が高く評価されていた同コンビ。永見大吾は『千原ジュニアの座王』(カンテレ)で、ロングコートダディの堂前透らともに「細身メガネセンス系」と称されるなど抜群の回答感覚を誇り、浜田順平は関西圏のいくつかのラジオ番組でおなじみだ。それでも印象的には「ネタのコンビ」だった。ただこのところ、平場でもそのおもしろさに拍車がかかっており、「ここまでやれるとは」と驚くばかり。実際、「平場力」が見込まれて大阪の名物番組『せやねん!』(MBS)のレギュラーに。永見大吾にいたっては『探偵!ナイトスクープ』(ABCテレビ)の探偵にも抜てきされた。マンゲキの各公演には、ネタのほか企画コーナーが設けられることが多いが、カベポスターを見ているとそういったコーナーの重要性をあらためて感じさせる。
『M-1グランプリ2022』準優勝のさや香、『キングオブコント2022』優勝のビスケットブラザーズは劇場でもとにかくウケまくっている。さや香はどのネタを見ても完成度が高く、2023年の『M-1』の堂々たる優勝候補。ビスケットブラザーズは王者としての貫禄を感じさせ、ネタの爆発力が凄まじい。『THE W 2022』優勝の天才ピアニストも自在性が抜群。劇場、バラエティ番組などどんな場でも持っている実力をしっかり発揮している印象だ。
裏番長的な黒帯、関係者絶賛のバッテリィズ、トリオ不遇の地にあらわれたcacaoとイノシカチョウ
2022年の賞レースを席巻したコンビがこれだけいるのも「強い」が、それだけにとどまらないのが現在のマンゲキの層の厚さだ。
松竹芸能出身で2015年に吉本入りした黒帯は、劇場の裏番長的なムードが漂っていてとにかく格好良い。共演が多い金属バットのようなアウトローさがある。6月30日には聖地、なんばグランド花月で初の単独公演『黒帯って何がおもろいの』を開催。一気に突き抜ける可能性がある。
バッテリィズは、アホすぎて逆になにを言っても正論になるエース、そんな彼に手を焼く寺家(じけ)のやりとりが笑える。自分たちらしさを生かした漫才の構成もある意味「発明的」で、2023年の『M-1』では準決勝以上の結果も期待できる。また華やかさもある。さまざまなお笑い番組を手がけるABCラジオの『原石発見ラジオ!タメスバ』の初回パーソナリティ(5月7日放送)にも選ばれた。ABCラジオお笑い班は「2023年の新人賞を席巻する」と見込んでいる。
トリオ芸人不遇の地、大阪でついにブレークしそうなのがコント師のcacaoとイノシカチョウだ。cacaoは舞台の使い方、トリオという人数構成を巧みに生かしたネタが良い。大阪のトリオ勢初となる『キングオブコント』決勝進出が有力視されている。イノシカチョウは観る者の想像のはるか上空を超え、見えなくなるほど飛んでいくようなネタが特徴的で、とにかくトリッキー。YouTubeチャンネルの企画内容も同様に、意外性にあふれている。近い将来、マンゲキの看板をはってもおかしくないほど存在感が増している。
前述したように現在のマンゲキは、毎年のようにニュースターが誕生するほど層が厚い。ロングコートダディらがマンゲキ卒業を発表した際、SNSでは劇場の先行きを不安視する投稿も見られた。しかしそれも杞憂と思えるほど「充実一途」と言えるだろう。