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中学受験「本気になるのが遅かった」対策と心構え

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年も12月を目前に焦り始める受験生や保護者からの相談を受ける機会が増えてきた。特に多く寄せられる悩みとして、「ようやく本気になったが、間に合うかどうか不安だ」「夏以降、成績が下がり始めてしまった」「直前に伸びる子が多いと聞いて安心していたが、成績が上がらずどうしたらよいかわからない」というものが挙げられる。これらの問題に共通する原因と対策について考えてみたい。

●塾のペースとの成長・覚悟のズレ

まず、この時期一番苦労するのが、「すぐに忘れてしまう」タイプの受験生だ。「すぐ忘れてしまう」原因はほとんどの場合、しっかり理解せずにただ暗記しているか、真剣に繰り返していないことだといえる。

6年生の夏休みくらいまでは、範囲が決まったテストが多く、塾に通っている場合は、直前に習ったことが出題される。範囲が決まっているテストは傾向もハッキリしているので、テスト対策がしやすいのだが、しっかり理解した上で知識が身についていなくても、ある程度点数がとれてしまうという問題もある。特に、要領のいい受験生は授業中もそつなくこなし、テストもなんとなく点数がとれてしまうので、塾でも家庭でも定着していないことが見過ごされてしまいがちだ。

また、今まで多くの受験生を見てきて感じるのは、本気になるのが遅い受験生がかなり多いということだ。特に中学受験の場合、成長に差がある場合も多く、早生まれや家庭環境といった要因も大きく影響する。そのため、受験を現実的に捉え、自分の弱点を認識して主体的に弱点を克服しようという心構えができるタイミングにも個人差がある。

業界では夏期講習が勝負だという声を聞くが、その理由の一つは「基礎的なことの繰り返しは夏期講習までで終了し、9月からは問題演習」という塾のカリキュラムの都合によるものである。その場合9月以降にようやくエンジンがかかってももう遅い。基礎をやり直すチャンスがないまま、難しい過去問題を直前までひたすらやらされることになってしまう。そうすればせっかくのやる気が、無力感をいっそう煽ってしまい、自己肯定感を下げてしまう。これは今後の人生においてマイナスになりかねない。受験はあくまでプロセスであり、ゴールではない。少なくとも関わる大人が結果よりも経験を活かせるようにサポートしてあげたい。

●塾や勉強方法を変えるべきか

では、このような場合どういう対策が考えられるだろうか。まず第一に、勉強方法は見直した方が良い。やればできるような実力に合った学習で、達成感を得られる方法に変えるべきだ。具体的には思い切って5年生の内容からやり直すことをお勧めする。ほとんどの進学塾において、5年生から6年生の夏休み前までで一通りの範囲が学習できるようにカリキュラムが組まれている。

次に塾を変えるべきかどうかだが、判断基準としては本人が楽しんでいっているかどうかに尽きる。授業が楽しく講師や他の受験生との関係も良好ならば無理にやめる必要はない。塾に通いながら家庭でできる対策もある。しかし、そうでないならば塾にこだわる必要はないし、むしろ通い続けることで自己肯定感を持てないまま実力も上がらないという悪循環に陥ってしまう可能性がある。

また「せっかく今までやってきたのだから」などと考えがちだが、最低限、本人が前向きになれないのであれば、通い続ける意味はない。相性の悪い参考書をずるずる使い続けるのも同様で、思い切って「損切り」することは多くの学習にとって有用だ。

塾を変える場合気をつけたいのが、短期間でも基礎からしっかりと積み上げてくれるかどうかだが、大手塾や集団指導ではなかなか対応してもらうのは難しい。しかし、だからと言って安易に個別指導や家庭教師に飛びつくのもお勧めできない。経験の少ない大学生などが指導に当たることが多く、複数教科を対応することも多いため専門性も低くなりがちだ。残り少ない時間を悔いなく過ごすためにも、焦って決めてしまわず、複数の候補の中から、信頼でき、相性のいい塾や講師を選ぶようにしたい。

●マインドセットは保護者から

このような状況で何よりも大事なのは、マインドセットだ。本気になったのが遅かったことをしっかりと認めて、それでも諦めずに出来る限りの事をやりきって入試に臨むという経験が、合否を超えて人生の糧となる。

筆者の経験では、このように直前期を過ごした受験生は、高校受験や大学受験で力を発揮することが多い。大事なのは、やったらやった分だけ自分がしっかりと成長していると実感することで、そのためには周囲の大人が、受験勉強は合格のためだけでなくその先の人生においても有用であるということを理解し、接する必要がある。小学生にとって中学受験は想像以上に大きな経験となる。すべての受験生にとって意味を感じる受験になることを切に願う。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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