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「BBC」不在でも。ロペテギを悩ませるイスコの配置。

森田泰史スポーツライター
レアル・マドリーの中心選手になりつつあるイスコ(写真:ロイター/アフロ)

レアル・マドリーが、開幕から好調だ。クリスティアーノ・ロナウドが退団したとはいえ、マドリーの勝ちパターンに大きな影響は見られない。

C・ロナウドがユヴェントスへの移籍を決めたのは、7月10日である。2013年夏にガレス・ベイルが加入して以降、暗黙の了解として成り立ってきた「BBC絶対主義」に、終止符が打たれた瞬間だった。

カリム・ベンゼマ、ベイル、C・ロナウドの「BBC」は、フロレンティーノ・ペレス会長の支持を受け、いかなる監督の指揮下においてもアンタッチャブルな存在であった。そして彼らは会長の寵愛に結果で応え、2018年1月には、記念すべき400得点をマーク。その内訳はベンゼマ(99得点)、ベイル(76得点)、C・ロナウド(225得点)というものだった。

■「BBC」とイスコ

BBC絶対主義の被害を受けた選手はと言えば、間違いなくイスコである。

ベイルと同時期に加入したイスコだが、カルロ・アンチェロッティ政権では定位置を奪えなかった。アンチェロッティ当時監督は、イスコに戦術面で問題があると指摘していた。ボランチに置くには、走力が足りない。攻撃的MFで起用するには、継続性が欠けている。ウィングにするには、スピードと突破力がない。

イスコを起用するためには、4-2-3-1を採用しなければならない。イスコを中心にチームを作るか。C・ロナウドを中心にチームを作るか。アンチェロッティが選んだのは、後者だった。かくしてアンチェロッティのチームでイスコの居場所はなくなり、「BBC」を据えた4-3-3によるカウンター主体のフットボールが完成した。

イスコを外すというアンチェロッティの「英断」は結果に結びついた。2013-14シーズン、マドリーは悲願だったデシマ(クラブ史上10回目のチャンピオンズリーグ制覇)を達成。指揮官を咎める者はいなかった。そして、ジネディーヌ・ジダン前監督もまた、ジレンマを抱えることになった。最終的に、ジダンはベイルを外す決断を下して、4-4-2を選んだ。

■盤石の中盤

今季開幕前、マドリーが招聘したのはフレン・ロペテギ監督だった。2016年夏から2018年6月までスペイン代表を率いたロペテギ監督は、そのチームでイスコを中心に据えた。サイドハーフに据えられたイスコに求められたのは、ビルドアップや中盤の「作り」に参加することではなかった。指揮官が彼に要求していたのは、高い位置からプレーを始め、相手DFとMFライン間でボールを受け、フィニッシュに絡むことだった。イスコは期待に応え、ロシアW杯欧州予選で8試合に出場して5得点2アシストと気を吐いた。

だがロペテギはマドリーの監督に就任当初、イスコの配置に悩んでいた。UEFAスーパーカップのアトレティコ・マドリー戦でイスコを4-3-3の中盤で試したが、思うような成果は得られなかった。リーガエスパニョーラ第2節のジローナ戦では、4-2-3-1のトップ下にイスコを組み込んだものの、またしても機能しなかった。

現在のマドリーで、中心にいるのはイスコ、クロース、カセミロ、モドリッチである。この4選手が同時にピッチに立っていない時、マドリーは攻撃において「渋滞」を起こす。スペースの「共食い」が起きてしまうのだ。

カセミロは相手の攻撃を早い段階で摘み取る。状況によっては「第三のCB」となり、セルヒオ・ラモスとラファエル・ヴァランをカバーする。クロースはハイブリッド型だ。攻守を繋ぐ役を担う。正確なフィードで、攻撃を創造できる。そして守備面では、汚いプレーさえ辞さない覚悟がある。

また、中盤のスペースがミニマム化された現代フットボールにおいて、モドリッチはスモールスペースを十二分に生かしてプレーできる選手である。単にボールをサイドに展開するだけの選手だとしたら、彼はこれだけの評価を得ていないだろう。機を見ては対峙した守備者を剥がしてドリブルで前進する。相手のMFラインとDFラインに風穴を開ける。これが試合が進むにつれてボディーブローのように効いてくる。ロシア・ワールドカップで輝いたフランスのエンゴロ・カンテでさえ、モドリッチを止める術を持たなかったのだ。

ただ、ロペテギ・マドリーにも、課題はある。チャンピオンズリーグ開幕戦のローマ戦が象徴したように、試合をコントロールできていない。ポゼッション率が高いにもかかわらず、試合をコントロールできないというのは、別次元の問題を生み出す。今季、リヴァプールやパリ・サンジェルマンのようなチームに、カウンターの応酬を繰り返す展開に持ち込まれたら、危険だ。

そして何より、ロペテギは決めなければいけない。BBCが解体されたとは言え、3トップへの拘りは捨てられていない。ベンゼマ、ベイル、マルコ・アセンシオの「BBA」が形になり始めているためだ。今後、指揮官が中盤をロンボ(ひし形)にした4-4-2に傾倒していく可能性は十分にある。だがイスコは9月下旬に体調を崩して、1カ月ほど戦列から離れることが見込まれている。クラブ内ではBBAの起用を望む声が俄かにあがっているようで、再び不毛な議論が巻き起ころうとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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