レノファ山口:ドローでホーム戦閉幕。勝ち点は50に伸長 「名城」への確かな一歩
レノファ山口FCは11月12日、維新百年記念公園陸上競技場(山口市)でモンテディオ山形と対戦し2-2で引き分けた。J2初年度のホームゲームはすべて消化し、今季はアウェーでの1試合を残すのみとなった。
明治安田生命J2リーグ第41節◇山口2-2山形【得点者】前半40分=大黒将志(山形)、同46分=鳥養祐矢(山口)、後半13分=福満隆貴(山口)、同34分=山田拓巳(山形)【入場者数】5839人【会場】維新百年記念公園陸上競技場
ホーム最終戦も先制点許す
前半は立ち上がりから山形が攻勢。レノファはセカンドボールを拾えなかったり、パスが繋がらず、苦しい展開になる。要因の一つは山形のフォーメーションだ。中盤を分厚くした布陣はスペースを効果的に埋め、レノファの生命線たるボランチからの供給を絶った。レノファの選手からみれば、顔を上げればいつもそこに相手選手がいるというような状態。序盤はこれに対応できなかった。
この苦しい時間を耐え、前半30分過ぎからはレノファがボールを持つようになっていく。しかし一瞬の隙を突かれて同40分に失点。MF川西翔太の浮き球のパスからFW大黒将志が頭でトラップし、それを左足を振り抜く鮮やかなシュート。レノファはまたしても先制点を献上し、むざむざとゲームを難しくしてしまった。
それでもレノファも追いすがる。前半アディショナルタイム、MF庄司悦大の縦パスをMF福満隆貴が高い位置で受けると、「ボールを受けたときに仕掛けるというのもあった」(福満)が、それは選択せずに「感覚で」センタリングを上げる。「中は見ていなかった」と言うが、ゴール前のコンビネーションは繰り返し練習してきたレノファ。体に染みついた呼吸はぴたりと合い、クロスをMF鳥養祐矢が決めきった。「僕の前で加藤が潰れてくれてフリーで打てた。しっかりミートもできたので、蹴った瞬間に入ったという感触があった」と鳥養。維新公園では今季初めてゴールパフォーマンスのバク転も披露した。
福満は1ゴール1アシスト
レノファは後半13分、ゴールの鳥養を下げてFW岡本英也を投入。鳥養とはまた違うアクセントを加えて、攻撃の再加速を狙う。追加点はその直後。「庄司くんから『行け』というような声が聞こえたので思い切って仕掛けていった」と話すFW加藤大樹が中央突破を図りペナルティエリアに接近する。シュートも打てたが左から詰めてきた福満にボールを預けると、福満はGKの位置を見定めて反対側のサイドネットへ、コースを突いたシュートを放った。「練習でもああいう形で何本か決めていたので、チャンスがあれば狙おうと思っていた」と納得のゴールでレノファは逆転に成功する。
その後、レノファはFW中山仁斗をピッチに立たせる。中山は得点に絡めるだけでなく、守備でも高さを活かせることから、攻守両面での活躍が期待された。これでレノファが勝ちゲームの流れを作るかに見えたが、後半25分にDF北谷史孝が接触プレーで負傷してしまう。一方で山形にもトラブル。MFアルセウが同28分、2枚目のイエローカードで退場となってしまったのだ。一連の問題に対して、レノファはDF奥山政幸を投入して対応。山形は守備を固めながら少ない人数で得点を狙っていく。
策が奏功したのは山形だった。同34分、左サイドを上がったMF高木利弥のクロスがそのままゴール方向に一直線。GK村上昌謙が一度は片手で跳ね返すが、それにMF山田拓巳が詰めて山形が同点とした。その後の山形の狙いは明白。同点で終わって勝ち点1を得ればJ2残留を決めるられるため、終盤はいっそう守備偏重にシフトする。
レノファはボールを持ててはいるものの最後のシュートがことごとく嫌われ、後半アディショナルタイムのMF三幸秀稔のシュートはわずかに外。タイムアップ直前に加藤のクロスから放った中山のボレーもGK山岸範宏の正面だった。相手の割り切った守備に「やりづらさはあったが、そこの裏を突けなかったのがすごく残念」と加藤。悔しさの滲むドローゲームになった。
上野展裕監督は「数的優位な状況になったにも関わらず失点してしまい、もったいなかった」と試合を振り返るとともに、シーズンを通して「波があった」と話した。その要因を「簡単に失点してしまうことと、決定機会に外してしまうこと。その2点」と語り、守備と決定力の両面で強化が必要だとした。とはいえレノファは勝ち点1を積み上げ、時間は掛かったが勝ち点「50」に到達。J2初年度で強烈なインパクトをJリーグ界に与えた。今季最終戦は今月12日にアウェーで水戸と対戦する。
レノファという「名城」へ、可能性示す
今から1年前、上野監督はJ2昇格を報告する席上で「山口はお城を手に入れました。それをまたみなさんと一緒に名城、すばらしいお城にしていきたいと思います」と語った。迎えた今季、1年で名城にまで磨くことはできなかったが、天守を構えられるポテンシャルは十分に示した。
城といえば山口県萩市にあった指月城(萩城)は毛利氏の緻密な策略と萩の特異な地形が融合した堅牢な城郭だった。天守がまだ現存していた150年前、そのお膝元で明治維新の萌芽を見ることになる。名城ありて、時代を拓く志士あり。「レノファはできます。伸びます。これからたくさんの試練が訪れると思いますが、しかし、どんなときも志を持って、心を一つにして、この山口にレノファという名城を築いていきましょう」。胸に一文字に三つ星の家紋がデザインされたエンブレム。試合後のセレモニーでは指揮官の言葉が維新の名を冠したスタジアムに響いた。レノファはまだ山口県出身の主力選手を抱えるに至っていないが、驚くほどに長州のスピリットを刺激して今季の幕を閉じようとしている。