石原詢子 演歌は「ゆるぎないもの」、さらにジャンルを超えたシンガーとして「大好きな歌を歌いたい」
『アコースティックカバーライブ vol.2 我がこころの愛唱歌 〜時代を飾った歌たち〜フォークソング・春から初夏へ』
演歌歌手・石原詢子がジャンルを超えたシンガーとして5月20日、フォークソングやポップスのカバー曲を中心とした『アコースティックカバーライブ vol.2 我がこころの愛唱歌 〜時代を飾った歌たち〜フォークソング・春から初夏へ』を、吉祥寺・スターパインカフェで行なった。このライヴは石原の「大好きな歌、聴いて欲しい歌をより近くで届けられるライブハウスで歌いたい」という思いを実現したもので、昨秋に第1回を開催。これが好評で今回2回目の開催となった。
「大好きな歌をライブハウスで歌いたい」という思いは、石原がコロナ禍で活動がストップした際に自分が影響を受けた曲、特にフォークソングをよく聴いたことが起因している。石原といえば、1988年のデビュー以来「みれん酒」「ふたり傘」を始め数多くのヒット曲を持つ、言わずと知れた演歌界を担う存在だ。しかし以前インタビューした際「25周年を過ぎた頃から、演歌に縛られず、違う音楽のジャンルにもチャレンジしてみたいという気持ちが強くなった。でもこれまで歌い続けてきた、演歌以外のジャンルに挑戦するということは勇気が必要。周りからは『着物を着ていないと仕事がこないのでは?』という心配する声も多かったので、なかなかその一歩が踏み出せなかった」と語っていたが、演歌という自身にとって「ゆるぎないもの」があるからこそ新しいことにチャンレジしたいという思いは、自然な流れでもある。その思いは2021年5月にリリースされた、古内東子が書きおろしたラブソング「ただそばにいてくれて」で結実する。
石原はこれまでも、企画アルバムやYouTubeなどでJ-POPのカバーを披露するなど、演歌以外のジャンルへのアプローチも多かったが、オリジナルシングルとしてJ-POPのシンガー・ソングライターが書き下ろした曲をリリースするのは、初めてだった。
ピアノ、ギター、バイオリン、チェロという編成で臨んだ今回のアコースティックライブで披露した曲は、オープニングナンバーの「初恋」(村下孝蔵)を始め「アザミ嬢のララバイ」(中島みゆき)、「「いちご白書」をもう一度」(ビリー・バンバン)など誰もが知るスタンダードナンバーばかりだが、やはり石原の持ち味である、たおやかな表現力で原曲の薫りを残しながら、自分色に染め、披露した。その歌には、オリジナル楽曲とそれを歌ったアーティスト、作家陣へのリスぺクトと愛が溢れている。「22才の別れ」(風)は47年前の曲だが、瑞々しさを失わず、石原の歌が歌詞の行間に漂う感情をも映し出し、せつなくなる。歌い終わると「とてもせつない歌なんですが、この歌に登場する女性は、葛藤はあったと思いますが、わがままだと思うんですよね。結局は嫁いでしまう…今も昔も女性って意外にドライなんですよね」と素直な言葉で曲への思いを語っていた。「夢の中へ」(井上陽水)では「好きなアーティストの歌は鼻歌では気持ちよく歌えるのに、ちゃんと歌おうとすると難しくて」と今回実際にライブで歌った感想を、素直に語っていた。
演歌として2016年にリリースされたオリジナルソングの「化粧なおし」は、フォークシンガーでもある杉本眞人が石原に提供した曲で、より今回のライブコンセプトに寄せたアコースティックアレンジで披露。「オリビアを聴きながら」(尾崎亜美)では、のびやかに情感豊かに歌いあげ、「やさしさに包まれたなら」(荒井由実)では一転、客席を巻き込んで爽やかに軽やかに歌い、会場を温かい空気で包んだ。
「歌いたいものを歌う、やりたいことにチャレンジしていく」というシンガーとして今の矜持を感じさせてくれるステージだった。特に「ありがとうという感謝を伝えるメッセージソングであり、ラブソングです」と語り、歌い始めた、古内東子作のオリジナル曲「ただそばにいてくれて」は、石原の優しく透き通ったストレートな歌声で、言葉ひとつひとつを真っすぐに聴き手に届けていた。
この日の石原は、演歌歌手というだけではなく、また違った一面をひとりの“歌い手”として改めてその実力と、さらに大きな可能性を感じさせてくれたアコースティックライブだった。「この先の歌手人生、ひとりの歌手して、多くの人の心に残る歌を歌っていきたい」とインタビューで語っていた石原は、今年10月から歌手デビュ35周年目を迎える。10月にはそれを記念したスペシャルライブも開催予定だ。