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薬師丸ひろ子 初オーケストラコンサートに挑む 武部聡志プロデュースで名曲に新しい息吹を注ぎ込む

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/billboard japan

初のフルオーケストラコンサートを開催

意外にもこれが初めてのフルオーケストラコンサートだ――2021年にデビュー40周年を迎えた薬師丸ひろ子が、初のフルオーケストラコンサート『billboard classics 「薬師丸ひろ子 Premium Orchestra Concert」〜 produced by 武部聡志』に挑む。6/11(火)東京文化会館大ホールを皮切りに、6/18(火)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール、6/30(日)東京・Bunkamuraオーチャードホールで開催する。

「あなたを・もっと・知りたくて」等、薬師丸の作品のアレンジを数多く手がけた武部聡志がプロデュース

壮大なストリングスアレンジが施された楽曲も多いので、今回が初めてのフルオーケストラコンサートと聞いて意外だった。もちろん今まで話はあったものの「一歩踏み出せなかった」と語った薬師丸。60人を超えるオーケストラと対峙するのは、大きな感動が生まれるとわかっていても、どんなにキャリアを積んだアーティストでもなかなか踏み込めない世界だ。

「フルオーケストラとのコンサートは、自分にはハードルが高くて、なかなか一歩を踏み出すことができませんでした」(薬師丸)

今回「あなたを・もっと・知りたくて」「ステキな恋の忘れ方」「紳士同盟」等、これまで数々の薬師丸の楽曲のアレンジを手がけ、薬師丸が全幅の信頼を置く音楽プロデューサー・武部聡志がプロデュースすることも薬師丸の背中を押した。このコンサートへの意気込みを二人にインタビューした。

「今までコンサートの中で、オーケストラの皆さんとご一緒させていただいたことは何度かありましたが、全編フルオーケストラでのコンサートは今回が初めてです。これまでも、今回のような企画をやりませんかとお誘いしていただいたことはあったのですが、やはりハードルが高いものというイメージがあったので、なかなか一歩を踏み出すことができませんでした。でも今回は武部さんがプロデュースをしてくださるので心強いです。武部さんとはこれまで色々な曲でご一緒させていただいて、その曲達がオーケストラサウンドによって新たな命を吹き込まれるのが楽しみです」(薬師丸)。

2月の『SONGS』での、フルオーケストラをバックにしたパフォーマンスが話題に

薬師丸は2月に『SONGS』(NHK)で、フルオーケストラをバックに「探偵物語」「WOMAN“Wの悲劇”より」「きみとわたしのうた」を披露し、その素晴らしい世界観がSNS上でも話題になった。

「あの時は、今回のコンサートでも指揮・編曲を手がけてくださる、岩城直也さんのアレンジで『探偵物語』を歌わせていただきましたが、もう出だしから新鮮で、こんなに世界観が変わるんだと驚きました。歌い始めて40年以上経った今、またこの曲の新しい顔に出会える幸せを噛みしめました。『WOMAN~』も松任谷正隆さんが、オーケストラ用にアレンジしてくださって、2番の大サビに入っていくところは、本当にオーケストラならではの壮大さが気持ちよかったです」(薬師丸)。

「若手音楽家の岩城直也君に指揮と編曲をお願いし、若手中心の彼のオーケストラの演奏で、曲に新しい息吹を加えたい」(武部)

この時ピアノを弾いていたのが武部だ。今回のコンサートをどうプロデュースするのだろうか。

「今まで音楽番組などで、僕のピアノとストリングスという編成で、薬師丸さんに歌っていただいたことは何度かありましたが、その声質とクラシックな楽器とのマッチングがよくて、オーケストラとも親和性は高いと思っていました。でもオーケストラって個の集まりだけど、その人数と音圧に圧倒されてしまうあの感覚は、僕も怖い時があるぐらいなんです。だから今回フルオーケストラコンサートが初めての薬師丸さんは、もっと怖いイメージがあるはずなので、あの圧に負けないためにはどうすればいいのかをまず考え、若手中心のオーケストラでやるのはどうだろうと思いました。それで、今注目を集めている若手音楽家の岩城直也君に指揮と編曲をお願いしました。フレッシュさを感じる岩城君のオーケストラが、曲に新しい息吹を加えてくれると思いました」(武部)。

「日本を代表する作家陣が作ってきた“横綱クラス”の名曲の数々に、キラキラした彩りを与えたい」(武部)

今回指揮・編曲を担当する岩城直也は、昨年行われた武部の45周年記念コンサートでもアレンジと指揮を手がけた。その岩城が率いる若手が中心のNaoya Iwaki Pops Orchestraの演奏と、日本のポップスシーンを牽引してきた“名匠”達が紡いだ数々のグッドメロディを歌う薬師丸がどう“響鳴”し、オーディエンスをどんな世界にいざなうのか、楽しみが尽きないコンサートだ。

「僕の45周年記念コンサートの時、岩城君のアレンジとオーケストラの音の気持ちよさが心にすごく残っていて。薬師丸さんの曲って筒美京平さんや井上陽水さん、ユーミン、大滝詠一さん、松本隆さんを始め、日本のポップスシーンを代表する作家陣が作った、まさに“横綱クラス”の名曲がたくさんあるので、そういう曲を若手の演奏家のみなさんとコラボすることで、キラキラした息吹を吹き込み、皆さんにお届けしたい。ボーカリストとしての薬師丸さんにはもう信頼感しかなく、あとは数々の名曲達の彩りをどう変えられるのかが、僕の役目です。薬師丸さんの歌はキャリア40年を超えてもまだ進化していて、少し前に薬師丸さんのコンサートを東京国際フォーラム(ホールA)で観たのですが、声と歌の力で満員のお客さんからスタンディングオベーションを勝ち取るのを目のあたりにして、本当にすごいと思いました。今回のコンサートでもその歌を存分に楽しんで欲しいです」(武部)。

「薬師丸さんはデビュー当時から、歌を歌う女優さんの中でその歌唱力はずば抜けていた。あの“鈴を転がすような”声に惚れました」(武部)

「あるアーティストの方からは“変な声”と褒めていただいて(笑)、その声に武部さんをはじめ色々な方が興味を持ってくださったのは嬉しいです」(薬師丸)

武部はこれまで薬師丸の作品を27作品アレンジしている。“歌う女優”・薬師丸ひろ子とその声に出会った時、最初はどんな印象だったのだろうか。

「僕が最初に薬師丸さんの曲のアレンジをやらせていただいたのは、『あなたを・もっと・知りたくて』(1985年)で、もちろん以前からその歌は聴かせていただいていましたが、当時こんなに歌がうまい女優さんがいるんだって驚いた記憶があります。色々な女優さんが歌を歌っていましたが、その中でも薬師丸さんはずば抜けて歌唱力が素晴らしかったです。それとあの“鈴を転がすような”声。今も変わらない唯一無二のあの声に惚れました。だからアレンジするときは本当に楽しみだったし、自分の作ったオケに薬師丸さんの歌、声が乗ることにすごく興奮しました」(武部)。

「武部さんが“鈴を転がすような”と言ってくださったり、以前、あるアーティストの方からは『変わった声』と、たぶん褒めてくださっていると思うのですが、そう言っていただいたこともあり(笑)、親に感謝しなければいけませんね」(薬師丸)。

その声に、日本を代表するメロディメーカー達がクリエイター魂を刺激され、たくさんの名曲が生まれてきた。薬師丸自身は自分の声、歌をどう感じてきたのだろうか。

「変わった声だから(笑)、その声に武部さんを始め色々な作家の方が興味を持ってくださったとしたら幸せです。以前ご一緒させていただいたオーケストラのある演奏者の方に、自分の出す音色と私の声が同じ響きで耳に返ってくると言っていただけたり、新しいアルバム『Tree』(2024年)と、前回のアルバム『エトワール』(2018年)でも作詞を手がけてくださった、作詞家の方には、デモテープで私がラララって歌っているのを聴いていると楽しいと言っていただけて、嬉しかったです」(薬師丸)。

「表現者として何か伝えたい、聴いて欲しいという思いが、自分の歌をよりエモーショナルにしていくのではないでしょうか。皆さんの前で歌うことで歌が成長していくと思います」(薬師丸)

薬師丸の“鈴を転がすような”声は、凛としながらも儚さを湛え、ライヴではより美しさとエモーショナルさが増し、大きな感動を運んでくる。

「皆さんの前で歌うことで歌が成長していくと思っています。レコーディングの時は、新しい歌に取り組むという事でイメージもひとつに集中している感じがあります。でも演じるという仕事をずっとやらせていただいてきて、何かを表現したいという気持ちがお客様の前に出るとより強くなるのだと思います。何か伝えたい、聴いて欲しいという思いが、おっしゃっていただけたように自分の歌をよりエモーショナルにしていくのではないでしょうか」(薬師丸)。

「武部さんのアレンジは、歌詞の余白、行間にあるものを想像させてくれます。どの曲もきれいな映像が浮かんできます」(薬師丸)

薬師丸は、80年代からその作品のアレンジを手がけている武部が作る音、アレンジにはどんな印象を持っているのだろうか。

「ポップでそしてすごく温かみを感じます。例えば少しファンタジーの要素がある曲は、その世界の中でさらに想像力を刺激してくれるというか。例えばそこにスキップするという歌詞がなくても、スキップしている姿が想像できたり、部屋で本を読んでいるシーンがあったとしたら、そこには書いていないけどコーヒーまで飲んでいる絵が浮かんできたり、歌詞にないところの余白というか、行間にあるものを想像させてくれます。どの曲もきれいな映像が浮かんできます」(薬師丸)。

「やっぱりアレンジってどういう情景や映像、絵を描くかということが役割として大きいと思います。テクニカルなことよりも、聴いてくださった方はそこに漂う“ムード”にぐっときたり、泣けたり、元気をもらえたりするのではないでしょうか」(武部)。

「今もコンサートで武部さんがアレンジしてくださった曲を歌うことが多くて、例えば10代、20代の時の曲を歌っていても、自分があの歌の世界の主人公になれるというか、その世界に引き戻してくれるというか、とにかく居心地がいいアレンジなんです」(薬師丸)。

「自分がアレンジした『あなたを・もっと・知りたくて』は特別な存在。『WOMAN“Wの悲劇”より』は奇跡の一曲」(武部)

武部はこれまで薬師丸の作品を27曲アレンジしているが、自身がアレンジした曲を含めて、どの曲が一番好きなのか、聞かせてもらった。

「自分がアレンジしたものの中ではやっぱり『あなたを・もっと・知りたくて』は特別な存在で、作詞筒美京平さん、作曲松本隆さんという、当時のゴールデンコンビが作りあげた珠玉のメロディだと思います。そんな曲をアレンジさせていただけたことは、アレンジャー冥利に尽きます。それとプライベートなことですが、自分の結婚式前日にレコーディングした独身最後のアレンジとしても、一生忘れられない曲です(笑)。もう一曲は『WOMAN~』です。ユーミンが『他の人に提供した曲の中でベスト1』と公言している曲で、松本隆さんの歌詞とユーミンが書いたあのメロディを、松任谷正隆さんがアレンジして薬師丸さんが歌ったことで、大きな化学反応が起こって、松本さんもユーミンも想像していなかった世界ができあがった奇跡的な曲だと思います」(武部)。

「今まで歌ってきた曲達に新鮮な空気が送り込まれ、新しい世界が生まれると思います」(薬師丸)

今回のコンサートでは初めてクラシックの殿堂・東京文化会館のステージに立つ。

「クラシックの殿堂といわれている素晴らしいホールで歌えるなんて、光栄です。なかなかクラシックコンサートに足を運ぶ機会がないという方も多いと思います。いきなり東京文化会館というのは緊張感があるかもしれませんが、私も緊張しています(笑)。でも滅多にない機会なので、客席の皆さんと一緒に楽しみたいと思います」(薬師丸)。

「僕が久々に薬師丸さんのコンサートの音楽監督をやらせていただいたのが、35周年の時(2013年)で、今回もお世話になるBunkamuraオーチャードホールでのステージのことをすごく覚えていて。ステージ上でピアノを弾きながら、薬師丸さんが『セーラー服と機関銃』を歌っているのを聴いたときに、もう震えるほど感動したことがすごく記憶に残っていて、またその思い出の場所でできるのが嬉しいです」(武部)。

「今回武部さんと岩城さんの力をお借りして、オーケストラサウンドになった時、今まで歌ってきた曲達に新鮮な空気が送り込まれ、新しい世界が生まれると思います。楽しみにしていてください」(薬師丸)。

『billboard classics 「薬師丸ひろ子 Premium Orchestra Concert」 〜 produced by 武部聡志』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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