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石原詢子 演歌の名手が古内東子のラブソングを歌う「歌手になったからには、後世に残る歌を歌いたい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックダイレクト

石原詢子といえば、その柔らかくも一本芯が通った声と、類まれな表現力で、1988年のデビュー以来「みれん酒」「ふたり傘」を始め数多くのヒット曲を持つ演歌界のスターだ。その石原が、演歌のフィールドから飛び出し、シンガー・ソングライター古内東子が書くラブソングにチャレンジし、話題を集めている。

44thシングル「ただそばにいてくれて」(5月19日発売)
44thシングル「ただそばにいてくれて」(5月19日発売)

5月19日に発売されたシングル「ただそばにいてくれて」と、カップリングの「ひと粒」は、まさに古内節全開のラブソングで、シンガー・石原詢子の新境地を開拓。シンガーとして、表現者として大きな刺激を受けた。「今まで一番難しかった」という今回のシングルについて、石原にインタビューした。

「演歌以外のジャンルの歌にチャレンジしたいとずっと思っていました。昔から好きだった古内東子さんの曲を歌いたかった」

「25周年を過ぎた頃から、違う事にチャレンジしたいという気持ちが強くなっていました。でも演歌以外のジャンルに挑戦するということは勇気が必要で、周りも『着物を着ていないと仕事がこないのでは?』という心配する声も多かったので、なかなか一歩が踏み出せませんでした」。

本人は元々色々な曲を歌いという気持ちが強かったが、演歌界で確固たる地位を築いている石原がなぜポップスを歌わなければいけないのか――石原を“守る”立場のスタッフがそう考えるは当たり前だ。演歌ファンは大切にしなければいけないが、将来演歌ファンになるであろうその予備軍の世代にも、石原の歌を届けることが必要だ。しかしコロナに包まれてしまって、全てのことに変化が求められる時代になったことで、石原の心がさらに強く動いた。

「いつ歌えるのか、いつまで歌えるのかわからないという気持ちになって、だったら“今”を大切にしたいと思った」

「この状況の中で、いつ歌えるかわからない、いつまで歌えるかわかならないという気持ちが大きくなりました。だったら“今”を大切にしたいと思いました。去年の夏頃、次の曲を決めるタイミングで、こういう時期だから出しても仕方がないのかなと思いつつも、やっぱり歌を届けたいという思いが強くて、スタッフさんもその気持ちを汲んでくれて『やりたいことをやった方がいい、歌いたい歌を歌った方がいい』と言ってくださって、私は演歌じゃないく、今の自分の思いを伝えられる曲を歌いたいと言いました。決して演歌を歌いたくないと言っているのではなく、歌手になったからには、後世に残る曲を歌いたい、作りたいというのが最大の目標というか夢です。それが演歌でもポップスでも、とにかくせっかく歌手になることができたので、その夢をかなえたいと思いました。今回のチャレンジはもちろん不安でした。演歌ファンの方がどう受け止めてくれるか心配だったし、空振りに終わってしまうかもと思うと、眠れない日もありました。でもやると決めたからにはそこに向かって歩むしかない、なるようにしかならないと思うようにしました」。

「人とコミュニケーションを取ることがままならなかったコロナ禍で、私は昨年から飼い始めた猫たちに救われました。その思いがきっかけとなって生まれた曲です」

石原はこれまでも企画アルバムでJ-POPのカバーやYouTubeで松田聖子のカバーを披露するなど、演歌以外のジャンルへのアプローチはあったが、オリジナルシングルとしてシンガー・ソングライターから詞曲を提供されるのは今回が初だ。古内を選んだのは、その世界観が昔から大好きだという石原本人だった。

「(古内)東子さんにお会いした時、まず『そちら(演歌)の世界で築いてきたこととはまったく違うアプローチで、こちらの歌(ポップス)でいいんですか?』って心配してくださいました。古内さんのイメージはお会いするまでは、恋愛ソングをずっと歌ってきているアーティストの方は、とっつきにくくて怖いのかなって勝手に想像していました(笑)。東子さんも『演歌の人って、着物を着て凛としていて、怖いイメージが…』っておっしゃっていたので、お互い怖いと思っていました(笑)。恋愛ソングにも陽と陰があって、東子さんの曲はどちらかというと陰で、核心に迫るまでの、その心の揺れを歌っているので、怖いというイメージがあったのかもしれません。でもその世界観が昔から大好きで、今回お願いしました。コロナ禍では世界中の人達が、人とのコミュニケーションを遮断され、そこから得られる温もりも奪われ、苦しんでいました。私も去年7月に2匹のネコが我が家にやってきて、本当に救われました。この子たちにがそばにいてくれたから、この状況を乗り越えることができたと思ったので、“あなたがいてくれたから”というキーワードを、東子さんに投げかけました。でも東子さんには自由に書いて欲しかったので、それ以上のことは何も言いませんでした。本当は『ありがとう』という言葉を歌詞に入れて欲しいなって思っていたのですが、それも伝えませんでした。でもできあがった歌詞にそれが入っていて、すごく嬉しかったです」。

「今まで歌ってきた曲の中で『ただそばにいてくれて』が一番難しかった。こんなに練習したのは初めて」

できあがってきた「ただそばにいてくれて」を聴いて、いざ歌ってみると「歌えなかった」。

「この作品が44枚目のシングルで、アルバムも含めて今まで一番難しい曲でした。演歌は割と曲の構成としては定型のものが多くて、でも「ただ~」は定型外で、音の高低差もあって、最初は体が受け付けませんでした(笑)。演歌だとなんとなくできてしまう、歌えてしまうのですが、この曲にはそれが通用しなかった。いつも鼻歌で東子さんの曲を歌っていたのですが、改めて曲とちゃんと向き合った時、その難しさに驚きました。耳には入ってくるのですが、歌えないという感じです。レコーディング前も、この曲を歌うテレビ番組の収録前も、こんなに練習したのは初めてです(笑)。今の私に課せられた課題と捉え、よく芸の幅を広げるといいますが、この曲が完全に自分の中に入ってきて、自分のものにできたという確信を持てた時に、自分の中に新しい引き出しができたということだと思っています」。

「演歌はイントロが流れてきたら腰がグッと入って構える感じ、東子さんの曲は胸を張って、背筋がピンとなる感じ」

“ありがとう”を伝える大きな意味でのラブソング、メッセージソングの「ただそばにいてくれて」のアレンジを手がけたのは、古内作品を多く手がけている河野伸だ。その、歌に寄り添いながら、温かな切なさを運んでくるアレンジが、石原の透明感を感じさせてくれる歌と古内のメロディを“立てる”。

レコーディングスタジオで
レコーディングスタジオで

「東子さんは『詢子さんが持つ一本筋が通った、そのストレートな声がすごくいいので、ビブラートをつけすぎない方がいいと思います」とアドバイスしてくださいました。演歌とは180度違う歌い方で、演歌はイントロが流れてきたら、腰がグッと入って構える感じで、でもこの曲は胸を張って、背筋がピンとなる感じです。カップリングの『ひと粒』はTHE古内東子節が炸裂していて、カップリングではもったいないぐらい素敵な曲です。『ひと粒』は、不思議なことにスッと体に入ってきました。大きな愛と恋愛、歌っていることが違うからかもしれません。私と東子さんは同世代なので、見てきたもの、聴いてきたもの、食べてきたものも同じだと思うので、“無理”がどこにもないというか、背伸びもしていないし同じ目線でモノが見えているところが、私の中で気持ち的に楽なんです」。

古内東子
古内東子

古内は今回のコラボについて「初めてお会いした時、スタッフの皆さんと談笑する姿を拝見してヒントを得て作りました。初対面の私にもくっきりと見えるような、丁寧に織りなされた絆のようなもの。それがきっと、色んな人や場所や暮らし、それぞれの大切なものたちと、更に年月を積み重ねながら繋がっていくのだなあと。その日はそんな思いを胸に、家に帰ったのを覚えています。そうして出来上がった石原詢子さんへの曲は、私が作り続けてきた“恋愛”の歌ではありませんが、結果として“愛”でしかない一曲になりました。『ひと粒』は、THEな感じの切ないラブソングを歌っていただこうと、等身大の大人の女性の恋心を描きました。こちらの曲に登場するのは、やっぱりお着物姿の詢子さんもいいな、なんて思ったりもしながら。そんな妄想も楽しかったです」と語っている。

「聴き終わった後、もう一回恋をしたいなって思ってもらえるような曲を歌いたい」

<私の話つまらないでしょう>という思わせぶりな歌詞からは始まる「ひと粒」は、酸いも甘いも知り尽くした二人だからこそ成立した、等身大のラブソングだ。

「東子さんと私の世代、それより上の世代の方も、恋愛から遠ざかっている、もう無理とか面倒くさいと思っている女性が多いと思います。もちろん男性も。そういう方が聴いた時に、もう一回恋したいなって思えるような楽曲をこれからも歌ってみたいです。それから早くこの2曲をたくさんのお客さんの前で歌いたいです。お客さんにどう届き、響くか楽しみです。今はコンサートを行なうこともままならない状況ですが、お客さんの前で歌ってこそ、自分の声も生かされます。いくら家で毎日発声練習をしても、声を出していることにはならないんです」。

「ただそばにいてくれて」のMVのスピンオフ映像が話題

「ただそばにいてくれて」は4月21日にイメージ&リリックビデオ、シングル発売日にミュージックビデオが公開された。その歌詞世界を表現し、さらに感動を増幅させる。さらにこれらの映像には4組の家族、夫婦、友人同士が登場し、それぞれにスポットをあてたスピンオフ映像が公開されている。第1弾「生まれてくれてありがとう編」に続いて、6月2日には第2弾が公開され、それぞれ大きな反響が寄せられている。第3弾が6月9日、第4弾が近日公開されるが、それぞれのエピソードから伝わる“そばにいてくれて、ありがとう”の気持ちを、近くにいる大切な人に伝えてみてはどうだろうか。

otonao 「ただそばにいてくれて」特設ページ

石原詢子 オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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