『THE SECOND』「芸人集中型」のカメラワークが伝えたベテラン芸人の「戦い方」と「劇場感覚」
芸歴19年目のギャロップが初代王者に輝いた、漫才の賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』(5月20日放送/フジテレビ系)。
全国ネットの漫才賞レース番組での優勝者をのぞく芸歴16年目以上のお笑い芸人を対象に、ネタ時間6分以内、1組対1組の対戦によるトーナメント方式、審査員は100人の観客など、『M-1グランプリ』とは大きく異なる方法をとった同番組。
そんな『THE SECOND』で特筆したいのがカメラワークである。『M-1』をはじめとする賞レース番組では、ネタ中の芸人だけではなく、審査員、司会者などが笑っていたり、難しい表情を浮かべていたり、さまざまな「情報」も画面に映し出していた。
しかし『THE SECOND』のカメラはネタ中、ほぼ全編で芸人たちのパフォーマンスに密着していた。マシンガンズ、三四郎などがネタ中に今大会のアンバサダーを担当した松本人志(ダウンタウン)の話題に触れたときのみ、カメラはその反応を追いかけていたが、基本的にはネタ中の芸人たちの姿を画面から外すことはなかった。
そんなカメラワークから考察できることは、一体なんなのか。
カメラワークで再現を試みた「劇場感覚」
第一は、出場した芸人たちへのリスペクトである。経験豊富なベテラン芸人による、6分という漫才の賞レース番組としては豊かな時間を使ったネタの数々を視聴者にも余すことなく観てもらおうという意気込みが伝わってきた。
そしてもうひとつは、「劇場感覚」「ライブ感覚」の再現である。劇場へ足を運ぶタイプのお笑いファンはネタ中、舞台上の芸人のパフォーマンスに集中するものだ。まわりの鑑賞者がどんな反応をしているかなどを何度も確かめたりすることは、ほとんどないはず。『THE SECOND』における「芸人集中型」のカメラワークは、脇目もほとんど振らずにネタを楽しむ「劇場感覚」をテレビ番組として再現できないか試みていたのではないだろうか。
カメラはネタ中、真正面と左右からの全身、膝上、喋っている芸人のアップ、背後の画を切り替えながら構成。松本人志や司会者の東野幸治ら、そして観客の反応を映すときも、絶対に画面の軸にネタ中の芸人を配置する構図だった。だから松本人志らが笑っている様子も遠目でうっすらとしか確認できないほどだった。ただ、だからこそ6分という長めのネタも時間を忘れるくらい集中して観ることができた。
暴力的なツッコミ、不祥事の話題であってもあくまで「ネタ尊重」
同番組の「劇場感覚」の再現は、カメラワークだけではなく、各芸人のネタからも感じられた。『THE SECOND』で芸人たちが披露したネタのなかには、今のテレビ番組の考え方としては、避けられたり、編集でカットされたりするものも少なくなかった。披露するネタを事前にスタッフらに伝えるタイプの賞レース番組であれば、再考を求められてもおかしくなかったように思える。
囲碁将棋には暴力的なツッコミがあったし、三四郎からはメンバーの不祥事で解散したお笑いコンビのキングオブコメディの名前や、寿司チェーン店で発生した「醤油ペロペロ」といったワードが飛び出した。テンダラーは、賞レース番組では敬遠される下ネタを盛り込んでいた。優勝したギャロップの薄毛ネタも場合によっては「容姿いじりだ」と目くじらを立てられることもあるだろう。準優勝のマシンガンズも最終決戦のネタ中、「(決勝へ進出したから)明日からモテるぞ、女が足に飛びついてくるぞ」と口にした。
これらのネタで出てきた話題やワードはいずれも、いわゆるコンプライアンス的に検討されそうなものだ。一方、劇場でのライブでは、これらの話題やワードを扱ったネタは減少傾向ではあるものの、それでも披露されることは少なくない。お笑いには間違いなく、テレビ番組では決して観ることができない、劇場でしか味わえないおもしろさが存在する。
『THE SECOND』の出場者は、テレビ番組ではなくそんな劇場を主戦場としている芸人が多い。たとえばテンダラーは、大阪のなんばグランド花月の舞台に立った後、『THE SECOND』に駆けつけたという。つまり出場者たちは、「テレビだからこのネタ」ではなく、ベテラン芸人としてあるべき姿をそのまま出していた。
もちろん、暴力的な言葉や下ネタなどに嫌悪感を抱く視聴者、観客もいるはず。それでも『THE SECOND』は、ベテラン芸人たちの「戦い方」そのものをリスペクトすることを優先した。ベテラン芸人たちが日頃、どこで活動しているのか。そこでどんなネタを見せて笑わせているのか。それを伝えるためのカメラワークであり、各組のネタだったように感じた。