西成にいた熱い教師を描く『かば』に元NMB48の近藤里奈が出演。「何もできなかった」時期を経て再始動
1985年の大阪西成区の中学校で、様々な問題を抱えた生徒たちと正面からぶつかった実在の教師・蒲益男を描いた映画『かば』が公開される。蒲先生のかつての教え子の役で、元NMB48の近藤里奈が出演している。女優を目指してグループを卒業して5年。初の劇場映画となるこの作品で、胸を打つ演技を見せた。
テレビで同世代の活躍を観るともどかしくて
――5年前にNMB48を卒業したとき、「女優を目指す」とのことでした。
近藤 はい。今も変わりません。
――最近は『Apex』のことを頻繁にツイートしていたり、eスポーツ絡みの仕事にも意欲的だそうですが。
近藤 ゲームはめちゃくちゃ好きで、趣味で『Apex』や『荒野行動』をやっている時間が多いので、お仕事に活かせたらいいなと思って配信もしています。でも、一番やりたいのは女優です。
――目指した原点はどの辺だったんですか?
近藤 NMB48にいた16歳とか17歳の頃、同世代の子たちがドラマやCMで活躍しているのを観て、「私もこうなりたい」と思ったのがきっかけです。当時は特に、川島海荷さんのカルピスウォーターのCMを観て憧れました。
――NMB48時代も、動画配信の『りぃちゃん24時間テレビ』内の企画で、ミニドラマをやってました。
近藤 りぽぽ(三秋里歩)とまーちゅん(小笠原茉由)のプロデュースで、私が演技をしたいということで、そういう企画を考えてもらいました。
――卒業してから、苦労したこともありました?
近藤 ありましたね。辞めてから2年間は何もできなくて、テレビで同世代の子たちを観ると、もどかしくて苦しかったです。そんな中で、地元の滋賀から東京まで、演技のワークショップに夜行バスで通ったりしてました。
1年間、映画を毎日観続けました
――映画やドラマを観て勉強したりもしました?
近藤 はい。前から自分の中では映画をよく観ているつもりだったんですけど、全然詳しくないと実感したことがあって。1年間、毎日映画を観続けたりしました。
――刺激を受けた作品というと?
近藤 洋画より邦画を観るようにしていて、『ヒミズ』は内容より、二階堂ふみさんと染谷将太さんの演技をずっと観てました。「こういうとき、こんな叫び方をするんだ」とか。最近もストーリーより役者さんを観ている感じですね。
――二階堂ふみさんの他の作品も観ました?
近藤 ほとんど観ていると思います。『地獄でなぜ悪い』とか。
――エグい作品も多いですよね。
近藤 そうですね。私もグロい作品を観がちかもしれません(笑)。園子温監督が好きで、『冷たい熱帯魚』とか意味がわからなすぎて、すごく面白いです。洋画だとラブストーリーとかより、『ソウ』みたいなのしか観ません(笑)。
――そういう映画を観て、キャーキャー言ったりもせず?
近藤 もうずっとガン見してます(笑)。
――自分もそういう作品に出たいと?
近藤 それはまた別です(笑)。衝撃的で話題になる作品ならいいですけど、自分がグロい映画に出たいとはあまり思いません。観るのが好きなんです。
誉めてもらって伸びました(笑)
――『かば』の撮影は2019年だったそうですね。
近藤 初めての本格的な映画の撮影で、川本(貴弘)監督がオーディションの頃から怖い印象だったんですよ。撮影中に怒鳴られたりするのかなと思っていたら、全然そんなことなくて。「近藤さんが好きなように演じてくれていいよ。もし違っていたら、こっちから言うので」ということで、ありがたかったです。それで、毎回誉めてくれたんですよ。私は誉められて伸びるタイプなので、毎日楽しくて、伸びました(笑)。
――演じた由貴役はオーディションで決まったんですね。
近藤 監督さんたちと何人かフェイスブックで繋がっていて、この『かば』のオーディションがあると回ってきました。当時はマネージャーさんがいなくて、オーディションも自分でネットとかで探すしかなかったんです。『かば』は大阪のお話で馴染みもあったので、受けてみようと思いました。
――手応えはあったんですか?
近藤 映画の最後のほうにある、由貴が蒲先生に泣きながらバーッと話すシーンをやったんですね。実際に蒲先生役の山中アラタさんが相手役をしてくださって。私は思ったままに演じましたけど、打ち上げのときに聞いたのが、そのオーディションで小さなカメラを意識して動いていたのは「近藤さんだけだった」と。ちゃんと顔が映る立ち位置で演技をしていたと言われて、「あっ、そうなんや」と思いました。本当はそんなこと、意識してなかったんですけど(笑)。
――たぶんアイドル時代に、カメラへの映り方が体に染み付いたのでは?
近藤 そうですね。無意識にそんなふうに動いていて、「自分、すごいやん!」と思いました(笑)。
オーディションでは重い作品と知らなくて
――あのクライマックスのシーンでは、西成の部落出身の由貴が、どんな想いをして生きてきたかを涙ながらに訴えていて、完成した映画でも胸を打ちました。オーディションのときから、自然に感情が籠ったんですか?
近藤 オーディションでは、その部分の台本を渡されただけで普通に演じて、こんなに重い作品だとは知りませんでした。映画の撮影でそのシーンをやったときは、全然違って。ひとつひとつの言葉に重みを感じました。
――オーディションに合格してから、西成や部落のことを調べたんですか?
近藤 そうですね。全然知識がなかったので。よくユーチューバーさんが西成に行くのを観て、すごい街という印象はありましたけど、部落のこととか本当に知らなくて。ネットとかで調べて、初めて「こういう問題があったんや」とわかりました。
――どんなことを感じました?
近藤 うーん……。部落とかについて、自分でちゃんと全部を理解はできてないから、何て言ったらいいんやろ? 軽々しく発言できないですね。漠然と、新しいことを知った感じです。
台詞を言ったら気持ちが追い付いて自然に涙も…
――劇中でのそのシーンはまさに軽々しくなく、由貴の深い痛みが伝わりました。役に入り込んでいた感じですか?
近藤 言葉を発すると、気持ちも追い付いてきて、涙も自然に出てくるんです。ただ、泣くシーンを何回もできないタイプで、「1回でキメよう」と感情を全部ぶつけました。それでも結局3回くらい撮って、毎回泣かないといけないハメになって(笑)、ちょっと大変でした。
――とは言え、そこまで役に入れるのは、女優体質なんでしょうね。
近藤 今まで女優になりたいと思いながら、自分の中で「向いてないな」という気持ちもあって。演技経験がそんなになかったから、自分が演じたらどういう感じになるのか、イメージができかったんです。でも、『かば』のクライマックスのシーンで気持ちが追い付いて、ちゃんと泣けたので、ちょっと自信がつきました。
――『かば』以前には、うまく演じられない経験もあったんですか?
近藤 舞台でも毎回、最初は演出家さんに「大丈夫?」と言われます。でも、最後になって、「一番成長が見られたのが近藤さん」と言われるのがうれしくて。『かば』のときも、そう言ってもらえるように頑張りました。それで、私のクランクアップの日に撮ったのが、そのクライマックスのシーンだったんです。
「なるようになれ」という性格です
――大事な場面だけに、撮影前は緊張しました?
近藤 プレッシャーはありました。オーディションのときより成長してないとダメだし、私を選んで良かったと思ってもらいたかったので。
――前の夜は寝られなかったり?
近藤 『かば』の撮影中は寝られない日が続きました。でも、不安というより、楽しみで寝られない、みたいな(笑)。
――遠足の前の日のような?
近藤 そうです。クライマックスのシーンも、プレッシャーはあっても不安はなかったです。「なるようになれ」という性格なので、全力でやって楽しみました。
――里奈さんは普段は泣くことはあります?
近藤 あまり泣きません。映画とかを観て感動したときは涙もろいんですけど、人間関係で泣いたりはしないですね。昔はめっちゃ泣き虫だったんです。ヒステリックに泣いたりしてましたけど、それはダメだと気づいてから、逆に「感情ある?」と聞かれるようになりました(笑)。「本当に悲しんでる? 喜んでる?」という。
――由貴のような形でなくても、差別的なことを受けた経験はありますか?
近藤 ちょっと違いますけど、アイドル出身ということで、仕事に選んでもらえなかったことはありました。「48グループの子なら新人を使う」と言われて、すごく悔しかったです。
おとなしい役で問題児だった自分と正反対(笑)
――由貴はキャラクター的には、真面目でおとなしい生徒だったと、蒲先生に言われてました。
近藤 中学時代の先生に名前を覚えてもらってないような、おとなしくて手が掛からない女の子ですね。
――そこは里奈さん自身とは距離があったり?
近藤 私は由貴と真逆です。目立ちたがりで、先生に手が掛かる子と思われていました(笑)。
――NMB48時代もそんなキャラでしたね。
近藤 問題児と言われてました(笑)。
――由貴役について、監督と話し合ったりもしました?
近藤 細かいことは言われませんでした。スタッフさん同士で「由貴はこう」と話し合っても意見が割れて、「近藤さんはどう思う?」と聞かれたりはしました。「23歳の女の子の役だから、近藤さんが一番わかると思うので、好きなように演じて」と、ほとんど丸投げ(笑)。それを監督が見て、「もっとこうしたら?」という形でした。
――おとなしい雰囲気を出すために、普段の自分と変えたところも?
近藤 いえ、本当に自分のままです。監督にも「そのままで演じてほしい」と言われたので、いつもの関西弁で、当時22歳の自分と変わりませんでした。由貴は恋する普通の女の子で、「自分にもし好きな人がいて、電話をする前だったら、どうだろう?」とか想像しながら演じてました。
自分が演じたシーンを観て泣きました(笑)
――好きな人に電話を掛けて、切ったあとにガッツボーズをしたところとか、逆に、彼に西成のことを悪く言われたあとに橋の上でボーッとしているシーンとか、台詞はない中で表情から気持ちが伝わりました。
近藤 経験ないことですけど、そのときの由貴の気持ちを自分の中で思い描きました。やっぱりデートに行けないと言われたときのショックとか。でも、それでお芝居を1人で観に行って、他のお客さんは笑っている中で、由貴だけがうつむいていたじゃないですか。あそこは目の前でスタッフさんが、実際に笑かすようなことをしていたんです。私の目にも入って、笑ったらダメやけど、めちゃめちゃゲラなので、こらえるのは地獄でした(笑)。
――1985年のお話ということで掛けていた公衆電話は、実際は使ったことはないですよね?
近藤 はい。だから、撮影のときに使い方を教えてもらいました。番号を回したり、難しかったです。
――他に、印象に残っているシーンはありますか?
近藤 橋でお兄ちゃんと缶ビールで乾杯するシーンでは、撮影中にいきなり大雨が降ってきました。通り雨で、やんだと思ったら、また急に降り出したり、大変でした。
――自分で試写を観て、どう思いました?
近藤 由貴が蒲先生にバーッと言うシーンは、自分が演じてますけど、感情が伝わってきて泣きました(笑)。
コロナ禍が始まった中で上京を決めました
――由貴は「東京に行こうかな」と言ってましたが、里奈さんも今は東京暮らしですよね?
近藤 去年の5月に上京しました。コロナ禍が始まってすぐで、どうしようかと思ったんです。でも、東京の家も決まっていて、いつ収束するかもわからなかったので、「今行かなかったら、ずっと行けないままだ」と、上京することに決めました。
――これから、どんな人生を展望しているんですか?
近藤 やっぱり女優業で成功したいですね。お母さんやお父さん、親戚のみんなが、私が何かに出るたびにメールや電話をくれて、喜んでくれるのが一番うれしいです。だから、いろいろな作品に出たいです。
――そのために、自分磨きでしていることもありますか?
近藤 映画を観て、俳優さんがどんな演技をしているか、勉強することは続けてますけど、実践する場所がなかなかなくて。『かば』をいろいろな人に観ていただいて、これをきっかけに業界の方には私を使ってほしいです(笑)。
Profile
近藤里奈(こんどう・りな)
1997年2月23日生まれ、滋賀県出身。
2010年にNMB48の1期生オーディションに合格。2016年に卒業。第11回沖縄国際映画祭「地域発信型映画」部門出品作『誰にも会いたくない』、舞台『地図から消されたウサギ島』、『レディ・ア・ゴーゴー!!2020』などに出演。映画『かば』が7月24日から公開。デジタル写真集『24歳になってもかわいいキープ』が発売中。
『かば』
原作・脚本・監督/川本貴弘 出演/山中アラタ、折目真穂、木村知貴、さくら若菜、近藤里奈ほか
7月24日から新宿K’s cinema、8月13日から京都アップリンク、8月14日から大阪十三 第七藝術劇場、8月27日から吉祥寺アップリンクほか全国順次公開。