Yahoo!ニュース

SKE48卒業後の初主演舞台で高畑結希が「自分のまま変な人」の役。香川のラジオや料理教室も開く現在地

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/古元道広

 6月末にSKE48を卒業した高畑結希の主演舞台『父、腐る』が、下北沢の駅前劇場で幕を開けた。名古屋を拠点に活動する劇団「オイスターズ」の第28回公演。高畑は2年前に第26回公演『ちちんち』にも主演で参加。初めての舞台ながら佐藤佐吉演劇賞で優秀主演女優賞を受賞している。

 アイドルを卒業してからは初となる座長公演のレポートと、初日の本番前に行った高畑のインタビューをお届けする。なお、レポートではストーリーの核心に触れるネタバレはもちろんしていないが、今後の公演をまっさらな状態で観たい方は飛ばしてほしい。

【『父、腐る』公演レポート】

父と娘の会話かと思ったら…

 床にあぐらをかいている父親とイスに座っている娘。高畑が演じる娘は夕方からのネットカフェのバイトに出掛ける前らしい。体の調子が良くないという父親は、仕事を辞めて田舎に引っ越そうと考えていることを話す。

 「いつから?」などと会話をしているうちに、父親は急に目を閉じて無言に。娘は母親に電話を掛け、カラッと明るい調子で「お父さん、死んだ。今さっき。前にお父さんが死んだとき、どうしたっけ? あれ、どこだっけ?」と聞いた。

 そのままネットカフェに出勤し、店員や店長と話したところによると、彼女が小学生の頃、同じ父親が死んで、教会みたいなところに行って生き返らせてもらったという。その教会をどう探せばいいのかわからない……。「そう言って帰って行きました」。

 実はここまでは、父親が死んだ石川カナという名の娘をバイト仲間が演じて、店員役を常連客、店長役を店員が務め、本物の店長に芝居として見せている……ということだった。カナが帰った事情を説明するだけのために。すべては高畑の演じる役がカナから聞いた話で、「多少は創作が入っている」とも。

過剰な会話劇に台詞を生き生きとたたみ込む

 そこから、タクシー運転手らも加わった一行が、死んだ父親を担いでカナの言う教会まで向かう道中の出来事を、芝居として再現していく。誰が誰を演じるかを変えていったりで、どこが現実でどこが虚構かも不明瞭。観ていて頭がこんがらがってくる。だが、そこが面白みでもあり、観客が奇妙な世界に引き込まれていく。そして、グルッと回った果ての最後に、タイトルの意味も回収されていった。

 オイスターズがテーマにしている過剰なまでの会話劇の中で、主演の高畑の台詞はひと際多い。日常会話的なバランスを無視したような一方的なたたみ込みが、とても生き生きして見えた。

 劇中劇の役どころを変える中でメリハリも効かせ、荒々しく怒鳴ったりするのも新鮮。作・演出の平塚直隆が「女優の顔になった」と評していたが、客演での主演ながら、ドッシリとした存在感もあって、小劇場に華をもたらしていた。

【高畑結希インタビュー】

誰も正解をわかってないのが面白くて

――『父、腐る』の台本を読んで、すぐ理解できました?

高畑 お稽古を何回か重ねて、やっと理解できた部分もあります。オイスターズさんの面白いところは、「今この人はどういう気持ちだと思いますか?」と聞いても、みんなポケーッとして誰も答えない(笑)。そういう独特な雰囲気が、演じているときも出ています。「本気でこんなことを思っているの?」みたいなところが魅力で、オイスターズさん特有の棒立ち棒読みスタイルは、私も他では経験ありません。

――普通は初心者の演技レッスンでも、棒立ち棒読みは直されるところですよね。

高畑 そこでかえって苦戦した部分もあります。あえて感情を出さないで一定のトーンで言うとか、お稽古でどうすればいいか悩んでいました。

――ストーリーのどこまでが現実とかは、あえて理屈で理解しようとはしなかった感じですか?

高畑 みんなわかってないのが、この作品の良いところだと思います(笑)。すべて、お客さんの想像に任せていて、答えがないのが正解。「どこが本当なんだろう?」とモヤモヤしても、それぞれに想像したことは全部正しいです。

普段から変なのが役に合うようです(笑)

――演じるうえで特に意識したことはありますか?

高畑 私は軸となるカナさんから、いろいろな人になるんですけど、平塚さんからは、私は私のままでいてほしいと。私自身がもともと変な人で、作品に合っているということでした(笑)。ボケるつもりはなくてもボケてる。何も考えてなさそう。実際は何か考えてはいるんですけど(笑)、そう見られがちで、作品として何も考えてない人の役にしてもらいました。だから、「普段と変えずにいてください」とアドバイスをいただきました。

――台詞の量は多いですよね。

高畑 すごく多かったです。携帯に自分以外の台詞を入れて、電車に乗っているときに聴きながら、穴埋めをする感じで覚えました。寝る前も流してブツブツ言いながら寝落ちしたり。ただ、覚えることより、最初のシーンの名古屋弁のイントネーションに苦戦しました。私も名古屋に住んではいるんですけど。あとは自分の声が小さいので、どうやって大きい声を出すかが課題でした。

――そこはどう対処したんですか?

高畑 平塚さんには、自分で異常だと思うくらいの声を出していいと言われました。1人だけ頑張って声を出しているくらいのほうが、変な人に見えると(笑)。周りの方に負けないくらい声を出して、台詞の量が多くて怒鳴るシーンもあったので、久しぶりに大量の汗をかきました。ファンの方がのど飴を差し入れてくださって、いっぱい舐めています。

アイドル時代と大きく変わった感じはしません

――SKE48を卒業して4ヵ月が経ちましたが、生活や気持ちにどんな変化がありました?

高畑 毎日会っていたメンバーと会わなくなって、ちょっと寂しさはありますけど、ありがたいことに舞台、お料理教室、香川でのラジオ番組とやらせていただいて、特に大きく変わった感じはないです。ダンスレッスンやライブのリハーサルがない分、舞台の稽古に集中できるのは大きくて。だから、台詞覚えも早くなったのかもしれません。

――体感として、より忙しくなったか、時間に余裕ができたかというと?

高畑 気持ち的には同じくらいです。ひとつのことに集中してしまうタイプで、なかなか効率よくいろいろなことをできないのは、アイドル時代と変わりません。不器用なりにこなしていけたらいいなと思います。

――ABCクッキングでの料理教室は、ただ作るだけでなく、教え方もいろいろ考えているんですか?

高畑 以前は適当な分量で自分が食べる分を作って、写真を撮ってSNSに載せるだけでした。3人分で何グラムとか分量も量って、1から実際に作って提出するのはちょっと大変です。ここはこう説明しよう、ここにポイントを入れようとか、台本も自分で作っています。最後にみんなで食べながら、「さっき言ったポイントは覚えていますか?」と確認したり。

――先生っぽいですね。

高畑 お料理を楽しみつつ、学んで帰ってもらいたいので。ファンの皆さんが一緒に作って食べて、喜んでくださるので、私も毎月楽しんでいます。

地元の方からのおたよりが嬉しくて

――FM香川の『高畑結希のさぬきの「き」はゆうきの「き」。』が始まってからは、日常でトークネタをメモするようになったり?

高畑 ラジオでお話しできそうなネタは、携帯のメモに入れています。いつもおたよりを送ってくださる方はもちろん、初めての香川の方からいただいたりすると、すごく嬉しいです。地元で聴いてもらえているんだなって。

――SKE48のことも気に掛けていますか?

高畑 仲の良いメンバーとはたまにごはんに行っています。「コンサートはこうだったよ」とか話をいっぱい聞いたり、情報交換をしていて。

――最新シングル『告白心拍数』で26歳で初めて選抜入りした藤本冬香さんが、厳しかった時代に「はたごんさん(高畑)が選抜に入った年齢(24歳)を超すことを目標に、頑張ってきました」と話していました。

高畑 そう言ってもらえると嬉しいです。私は24歳で当時の最年長記録でしたけど、26歳で初選抜はすごいですね。それがSKE48の良いところだとも思いました。

楽しく人生を過ごせることを第一に

――卒業して4ヵ月の間に『甘美なる誘拐』、『父、腐る』と舞台に出演して、12月にも『国性爺合戦~虎が目覚めし刻』が控えています。

高畑 『父、腐る』と並行して、殺陣のお稽古をしていて、大苦戦中です(笑)。

――アクションが売りの30-DELUX NAGOYAの公演ですが、主人公の妻役の高畑さんも殺陣があるんですか?

高畑 バリバリあります。殺陣はダンスみたいな感じだろうなと思っていたら、全然違いました。相手に当たらないところでピッと寸止めしないといけなくて、私の腕にそんな力がないので、どうしても当たってしまうんです。いかに当てずに当たっているように見せるか。右も左もわからないまま、1から練習しています。

――もともと筋力はあるほうではなくて?

高畑 握力は8です(笑)。皆さんが本当にカッコいいので、私も本番までに体力を付けて克服して、頑張らなければと思っています。

――今は名古屋と香川での仕事が多くて、それも目標にされていましたが、全国レベルの活動も目指していますか?

高畑 そうですね。まずはいろいろなジャンルのお芝居を経験したいです。今回は会話劇、次はアクション。自分に合うものを知って、映画やドラマにも出演できる人になれたら。それで香川の観光大使になるのが理想です。ただ、アイドル時代に「こうなりたい。こうしなければ」と思いがちで、自分を追い込んでしまったので。何より、自分が楽しく人生を過ごせるかを第一に考えています。

ゼスト提供
ゼスト提供

Profile

高畑結希(たかはた・ゆうき)

1995年7月18日生まれ、香川県出身。2015年にSKE48の7期生オーディションに合格し、2024年6月に卒業。舞台『ちちんち』、『エゴ・サーチ』、『甘美なる誘拐』などに出演。『父、腐る』が上演中。『高畑結希のさぬきの「き」はゆうきの「き」。』(FM香川)でパーソナリティ。料理教室「はたごはんクッキング@ABCクッキング イオンモール 熱田スタジオ」を毎月開催。12月13~15日に30-DELUX NAGOYA『国性爺合戦~虎が目覚めし刻』(名古屋市青少年文化センター アートピアホール)に出演。2025年2月22~24日にTOKAI RADIO PRODUCE 舞台『パコ~from ガマ王子vsザリガニ魔人』(メニコンシアターAoi)に出演。

オイスターズ第28回公演『父、腐る』

作・演出/平塚直隆

11月3日・下北沢 駅前劇場 11月7~10日・愛知県芸術劇場 小ホール

公式HP

撮影/古元道広
撮影/古元道広

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事