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「非核化」だけでない米朝首脳会談、もう一つの読み方

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
12日夜、2泊3日の日程を終えシンガポールを出国する金正恩氏。写真は現地取材団。

史上初の米朝首脳会談は、両首脳による共同合意文への署名という形で幕を閉じた。非核化の面では課題が残るものとなったが、この会談の意味は、歴史性を正確に理解することでより深まる。シンガポールからまとめる。

誰も予想し得なかった2018年

長かった今年上半期のハイライトがやっと終わった。

1月には、1日の金正恩委員長による新年辞とそれに続く2年半ぶりの南北高官級会談があった。2月には北朝鮮の平昌五輪参加と北朝鮮特使団の訪韓、3月には韓国特使団が訪朝し金委員長と会談を行いその足で訪米、トランプ大統領が米朝首脳会談の実施を決めた。金委員長の初訪中もあった。

さらに4月には、11年ぶりの南北首脳会談が板門店で開かれ、5月には金委員長2度目の訪中、トランプ大統領による突然の米朝会談キャンセルがあった。そして今回の米朝首脳会談。誰もがその展開を予想し得なかった2018年朝鮮半島の上半期が、米朝首脳の12秒にわたる握手と共同合意文を残し、幕を閉じることになる。

米韓共同合意文の内容と意味

12日午後、両首脳が署名した共同合意文は冒頭で「米国と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の新しい関係の樹立」をうたっている。

さらに、「トランプ大統領は北朝鮮に安全保障を提供することにし、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に対する強固で揺るぎない意志を再確認した」と続く。

次いで、四つの項目の第一項に「米国と北朝鮮は平和と繁栄のための両国民の要望に基づき、新しい米朝関係を構築することを約束する」が、第二項に「米国と朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島における持続的で安定した平和体制を構築するための努力を共にする」とある。

筆者はこの4つに表現に今回の米朝首脳会談の意味があると見る。これまで敵対関係にあった両国が、新しい関係に第一歩を踏み出すことに文字通り、合意したのである。非核化については後述する。

[全訳] 米朝シンガポール首脳会談 共同合意文

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180612-00086398/

日韓メディアの評価

一晩明けて、日韓の主要紙の社説を読み比べてみた。まず、日本の論調で目についたのは「具体性に欠ける」(読売新聞)、「薄弱な内容」(朝日新聞)、「政治ショー」(毎日新聞)といった否定的な内容だ。

韓国紙では「最悪の結果」(朝鮮日報)、「期待より遥かに低い合意」(中央日報)がやはり否定的な評価をする一方、「米朝首脳が会ったという象徴的な重要性」(東亜日報)、「根本的な変化に向かう道が開けた」(ハンギョレ)」という肯定的な評価もあった。

とはいえ、どの社説でも肯定的な面と否定的な面を挙げている。その割合において、日本は否定的な部分が多く、韓国は半々、といったところだろうか。

評価の「差」は必然

この日韓メディアの視点の差、というのは今回の会談を歴史的にどう位置づけるかの意識の差だ。日本にとっては「北朝鮮の非核化のための会談」という立場が強かった一方、韓国にとっては「朝鮮半島の平和のための会談」という受け止め方が優勢だった。

前者の立場ではCVID(完全で検証可能かつ不可逆的)という表現が入らなかった点、具体的な非核化への工程表が出なかった点で惜しい会談となるし、後者の立場では、70年の敵であった米朝首脳が会って「新しい関係」に向け署名した点では画期的となる。

しかし、こうした評価の差はある意味当然だ。米国政府は会談前から「今回の会談は北朝鮮の非核化(CVID)のためのもの」と位置づけていた。日本は忠実にそれに沿った評価を下し、韓国は朝鮮半島の南半分を占める者として歴史性を強調せずにはいられなかった。

歴史性への認識を

実は筆者も米朝会談の前日にコラムで「CVIDを北朝鮮は受け入れる」としていた。祈るような気持ちで共同合意文にこの4文字を探したが、叶わずに残念だ。だが一方で、米朝関係が新しい段階に発展する第一歩を踏み出したという点を低く見る必要は無いと思っている。

今回の会談の評価は、今後の米朝の動きによって決まる側面が強い。文大統領はコメントで「歴史は挑戦する者の記録」としたが、筆者も同感だ。会談を「非核化」でのみ評価し、バッサリと切るのは余りにも惜しい。

過去、北朝鮮が非核化の約束を反故にしてきたことは確かだが、金正恩氏にとっては初めての非核化だ。そして米朝首脳会談での非核化の確認・署名という全く新しいステージでそれは始まった。

今まさに必要なのは、このプロセスが空中分解しないように日韓政府や市民社会が最大限にサポートすることだ。そのためには「朝鮮半島の変化という歴史性への共有」が不可欠だ。植民地、分断と苦難の100年を過ごしてきた朝鮮半島が、新しい時代に向け第一歩を踏み出したという認識だけは大事にしておきたい。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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