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家庭でも体罰はダメ?:子供を守り、親を支援するために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:みんな幸せな家族になれるように)(写真:アフロ)

■親も子どもに体罰を加えては違法になります

4月から施行される改正児童虐待防止法に盛り込まれた家庭内の親による体罰禁止。厚労省は2月18日、どんな行為が体罰に当たるかを示した新指針をまとめました。

次のものは体罰です。

(1)注意したが言うことを聞かないので頬をたたく。

(2)いたずらしたので長時間正座させる。

(3)友達を殴ってけがをさせたので同じように殴る。

(4)物を盗んだのでお尻をたたく。

(5)宿題をしなかったので夕飯を与えない。

ただし、次の行為は体罰ではありません。

(1)道に飛び出しそうな子どもの手をつかむ。

(2)他の子どもに暴力を振るうのを制止する。

こういった基準は、学校内の教師による体罰と同様ですね。緊急時に押さえつけるようなことは体罰ではありません。

また親にも教師にも、懲戒(不正・不当な行為に対して、いましめの制裁を加えること)は許されています。説教も、一定範囲内の罰を与えることもできます。ただし、体罰は禁止です。

ただ、家庭内でも学校でも、体罰かどうか微妙なところはあるでしょう。

■世間やネット上の反応

家庭内の体罰禁止に関しては、世間やネットでは、反論や不安、戸惑いもあります。悪いことをした子をぶって何が悪いとか、体罰なしにどうしつけるのかといった声です。その他、誤解や嫌味や皮肉も。もちろん、賛否両論です。

「体罰がよくないことは心理学的にもはっきりしているので、一律禁止は良いことだと思います」

「言葉で自分の子供を説得出来ないのは、親失格!」

「これ 4番目(物を盗んだのでお尻をたたく)はOKじゃないの?」

「悪いことして1回尻叩くくらいで体罰ではないだろー」

「体罰は百害あって一利なしです」

「げんこつ喰らって育ったからもし自分に子供が出来たとしてもどうやって躾けたらいいか分からん 手上げちゃいそう…もう子供いらないわ…」

「子育てしにくい世の中に余計なるね」

「バカじゃないの?『殴られたら痛い』って事を親が教えないから暴力を平気で振るう子供が増えるんだよ」

「口でいってわかるなら犯罪者は生まれないと思う 」

「体罰禁止って言いつつ、他の子に暴力振るったりしたら親の責任なわけじゃん。育児の難易度高すぎる」

「子が言葉だけで理解できず、暴走した時にどう対処するか?それがわからない方は多いと思う」

「悪いことを二度としてはいけないと身体に覚えさせる目的での体罰は必要だと思ってます」

「今後は親から怒れず、躾けられずにぬくぬくと育った傍若無人な子がわんさか発生しそうだな」

虐待予防活動をしている団体の2017年の調査によれば、体罰容認が6割。自分が子どもの頃たたかれた経験がある人は過半数でした。

ANNの2019年の調査によれば、親の体罰禁止の法律に賛成が59%、反対は21%でした。

■子供を守る、親を支援する

今回の新指針発表のニュースで、2/19の朝日新聞朝刊に私のコメントが載りました。

体罰の問題に詳しい新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は、「特に、いま自分が体罰をしている保護者ほど『禁止』を受け入れがたいはず。頭で『悪いこと』と思いながら体罰を続けるのは精神的な苦痛になるからだ」と指摘する。「『体罰禁止だ』と保護者を追い詰める材料にするのではなく、体罰に頼らずに子育てが出来るように周囲がサポートしていく必要がある。長い時間をかけた啓発が重要だ」。

体罰を使っている親は、使って良いと考えたいと思います。人はみんな、自分の行動を正しいと思いたいですし、そのための理屈、口実を考えるからです。

親からの体罰は絶対にダメでしょうか。子どもをたたいてしまった親に、あなたの行為は違法だと攻めれば良いのでしょうか。

実を言えば、「愛の鞭」はあると思います。しかし、愛の鞭なら良いと言ってしまうと、愛の鞭を口実にした虐待が起きてしまいます。だから、虐待を防ぐためには、「愛の鞭などない」という表現も必要でしょう。

愛の鞭ゼロ作戦

体罰は短期的には行動を変える効果がありますが、同時に恐ろしい副作用もあります。

人間関係を悪化させる、自主性がなくなる、体罰がエスカレートする、親が体罰以外のしつけ方法を学べなくなる、子が暴力を学んでしまうなどです。

2/19のNHKテレビ「あさイチ」は、児童虐待がテーマでした。その中で、体罰を振るっていた親が、友達をたたいていた子どもに言われます。「どうして、友達をたたいてはダメなの?」

自分自身が子どもをたたいて親は、愕然とし、子どもの質問に答えることができませんでした。

体罰の5つの副作用: 体罰の定義「体罰の心理学」反対するなら根拠を持とう

たしかに、言うことを聞かない子はいます。グレている子、発達障害の子、様々な理由で手のかかる子がいます。自分が体罰を受けてきた親の中には、体罰以外の方法がわからない親もいます。

悪い親だけが体罰を振るうわけではありません(教師も同様ですが)。むしろ、熱心だからこそ体罰が出てしまうことがあります。また、真面目すぎて、心が追い詰められる親もいます。職場のストレスを子どもにむけてしまう親もいます。

親を責めるのではなく、支援したいと思います。親の独りよがりが確信犯的な体罰を生み、孤独な子育てが虐待を生みます。

体罰は強力な効果を持ちます。しかし、薬と同じで、よく効く薬は副作用も強いのです。安易に使うものではないでしょう。

親を支援し、みんなで子育てをし、幸せな家庭にしていきましょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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