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駆け出しの菅田将暉、森川葵らにいち早く着目。まさに先見の明のキャスティングの舞台裏とは?

水上賢治映画ライター
「チョコリエッタ」より

 高校2年生のときに制作した 8mm『0×0(ゼロカケルコトノゼロ)』がぴあフィルムフェスティバルに入選し、「天才少女の出現︕」と10代からその才能を高く評価された風間志織監督。

 現在、風間監督が2000年代に発表した3作品「チョコリエッタ」「火星のカノン」「せかいのおわり」を上映する<チョコリエッタ 2021 リバイバル上映+風間志織監督特集>の開催中だ。

 いわゆる旧作の上映になるが、おもしろいことにこの3作品、風間監督の先見の明とでもいおうか。

 むしろ今の時代の方がリンクすることや今の方が切実に感じられるかもしれない点が多々。

 新たな作品に出合うような新鮮さがいずれの作品にもある。

 ありきたりな言葉になるが、時代を経ても決して色褪せない。そんな映画を発表し続ける風間志織監督に訊く。(全三回)

風間志織監督  筆者撮影
風間志織監督  筆者撮影

先見の明ともいうべきキャスティングはどうやって決まったのか?

 前回(第一回)は、「チョコリエッタ」の主要人物である知世子と正宗を演じた森川葵と菅田将暉へ伝えたことの話で終わったが、今回はキャストの話から入る。

 というのもいま考えると、森川葵と菅田将暉、そして岡山天音と三浦透子と現在大活躍中の若手俳優が顔を揃えている。

 この先見の明ともいうべきキャスティングには正直驚きを隠せない。

 ただ、風間監督はこう語る。

「前回、少しお話しましたが、『チェコリエッタ』は企画が成立するまでにかなりの時間を要しました。

 それもあって、キャスティングもかなりの時間をかけることになっちゃったんです。結果的に。

 で、わたしがというよりも、プロデューサーが主体になって、当時の若手の俳優の情報はすべて頭にインプットされたよというぐらい(笑)、もう何年間も時間をかけてキャスティングをしてくれていたんです。

 その中で(彼らが)選んでくれた俳優の子たちにわたしが会って決めていったんですね。

 だから、わたしより、むしろプロデューサーがすごいかな(笑)」

坊主頭になれることが前提としてあったオーディション

森川葵だけほかと違ったこととは?

 まず、知世子役の森川葵の印象をこう明かす。

「森川さんはオーディションなんですけど、決め手はなんというか。

 もともと知世子のオーディションの条件に、坊主頭になれることが前提としてありました。実際に、髪の毛を切って坊主頭になるシーンがありますから。

 まだ10代の若い女の子で坊主頭になるのはけっこう役とはいえ勇気がいること。その大きなハードルがあった上で、同意してくれた子たちが集まってくれたんですね。

 で、実際のオーディションでは、ほとんどの子が『役のためなら坊主になります』みたいな、あくまで『役のためならばします』という感じの子がほとんどだったんです。

 でも、森川さんだけは違った。

 彼女は最初から『わたし、坊主にしてみたかったです』と、しかも、悲壮感はなくて、あっけらかんと言っていた。

 役のために坊主頭にするのではなく、坊主頭になれることに心が惹かれているような感じでした。『これは坊主頭になれるチャンス!』みたいな(笑)。

 もしかしたら、当時の森川さんがたまたま髪がちょっとうっとうしくて、そういっただけかもしれない。

 でも、いずれにしても、悲壮感がなくて、それは知世子に重なるなと思ったんです。

 あの髪を切るシーンを思い起こしてもらえればわかるんですけど、知世子に悲惨さはないんですよ。

 少しでも髪の毛切ることを嫌がっていたり、ためらいがあると、悲惨さが出ちゃう。

 髪の毛を切ることで悲しみが前面に出てしまうと、もう知世子じゃないんですよ。

 むしろ坊主にすることで、『なんかひとつしてやろう』みたいな快活さが前面に出てくるようなところが知世子にはある。

 髪を切ることで下を向かない、上を向いている。

 そんな気概を森川さんから感じれとれた。それで、『知世子そのものじゃないか!』と思ったんです」

「チェコリエッタ」より 
「チェコリエッタ」より 

わたし『仮面ライダー』シリーズはけっこう詳しいんです(笑)

 正宗を演じた菅田将暉に関しては、オファーをしたと明かす。

「正宗役は当初から探していたんですけど、知世子が森川さんがほぼほぼ決まった段階で、本格的に誰にしようかとなったんです。

 当時、森川さんがまだ俳優としてはキャリアが浅い。ということで、相手役にはある程度、演技経験のある人がいいのではないかという考えがありました。

 その中でリストアップしてもらったんですけど、その資料に菅田くんの名前があったんです。で、わたしはすぐに『彼がいい』と思いました。

 というのも、意外に思われるかもしれないんですけど、わたし『仮面ライダー』シリーズはけっこう詳しいんですよ(笑)。

 いわゆる仮面ライダー俳優と呼ばれる方はほとんど知っている。

 息子が大好きで、わたしも一緒にみていたんです。

 それで、あるとき、洗い物かなにかをしてわたしは画面はみていないんですけど、息子がテレビで『仮面ライダー』をみていた。

 すると、やけにいい声のライダーがいる。それで見たら、菅田くんだった。

 以来、彼の名前はわたしの中にインプットされていたんです。

 だから、このリストをみたときに、『彼だ!』と思ってお願いしました」

 知世子と同じ映画研究部に所属する三橋智は、いまや映画やドラマに欠かせない存在になっている岡山天音が務めている。

「岡山君は、オーディションだったんですけど、もう、会って話した瞬間に『三橋だ、この役しかないよ、この子は』って思っちゃったんです。

 もう完全な直感で、ちょっと損な役回りの男の子、三橋は彼しかいないと思ったんです」

 もうひとり映画研究部の先輩になるユキは、今年、「ドライブ・マイ・カー」への出演でも話題の三浦透子が演じている。

「三浦さんはこちらからお願いしました。

 彼女は直接会っていないかも。

 プロフィールの写真をみて、もう『彼女がいい!』という感じだったと記憶しています。

 わたしはたまにそういう『ピッ』と勘が鋭くなることがあって、それが働いたときはもうその気持ちに従うんです。

 それにしても、もう4人はいまや大活躍で。

 立派な俳優さんになられて嬉しい限りです。

 当時の彼らの印象は、とてもまじめというか。

 一番、ふざけていたのはわたしかもしれない(苦笑)。

 それぐらい、みなさん役にうちこんでいました。

 ほんとうに空き時間とかあると、みんな一生懸命自主練をしているんですよ。

 変な話、撮影時、菅田くんは20歳になったぐらいだったと記憶しますけど、みんなまだ10代で子どもといえば子どもじゃないですか。

 気に食わないことがあったら、『やってらんねぇ』とどっかいっちゃうような子がいても不思議じゃないと思うんです。

 でも、そんな子がひとりもいなかった。みんな、それぞれの役をまっとうしようとしている。

 だから、『大人であるわたしたちがちゃんとしていなくてごめんなさい』って感じでした(苦笑)。

 わたしのほうが彼らから多くのことを学んだ気がします」

「チョコリエッタ」より
「チョコリエッタ」より

反原発というテーマをきちんと表明している役者さんにお願いしたかった

 キャストについては、もうひとり、忘れがたい印象を残す俳優がいる。

 ある意味、社会に鋭い眼差しを注ぐ本作の体現者といっていい爺様役の中村敦夫だ。

「実は最近まで、中村さんに関しては、プロデューサーの提案だと思っていたんですよ。

 でも、実際はわたしが言い出していたみたいです(笑)。

 今だから明かしますけど、当初は別の方を考えていたんです。

 でも、スケジュールの関係でダメで、じゃあ、物語に原発のことが深く関わっているから、それに対してきちんとした姿勢をとっている役者さんにお願いしたいと思ったんです。

 具体的には、反原発というテーマが根底にあるので、それをきちんと表明している役者さんにお願いしたかった。

 それで中村さんにお願いしたら、お引き受けしてくれました。

 そして、この映画の背景にあるテーマにも、すごく賛同してくださった。まさにわたしたちが託したかったことを表現してくださって、お願いしてよかったと思いました」

(※第三回に続く)

「チョコリエッタ 2021 リバイバル上映+風間志織監督特集」ポスタービジュアル
「チョコリエッタ 2021 リバイバル上映+風間志織監督特集」ポスタービジュアル

「チョコリエッタ 2021 リバイバル上映+風間志織監督特集」

2/3(木)まで広島・横川シネマにて

2/4(金)まで愛知・シアターカフェにて開催中

2/11(金)~小山シネマロブレにて(*「チョコリエッタ」のみ)公開

場面写真はすべて(C)寿々福堂/アン・エンタテイメント

2022年2月5日(土)~11日(金・祝)まで横浜シネマノヴェチェントにて、

<孤高の寡作家 風間志織監督特集>の開催決定!

詳細は→https://cinema1900.wixsite.com/home/kazama

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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