ベラルーシは参戦するのか。ロシアが1000ドルで兵士を募集中:ウクライナ戦争
最近、ベラルーシ軍がウクライナ戦争に参加するのか、ロシア軍と共に戦うのかが注目されている。
この国は、政治的にも経済的にも、ロシアに完全に依存している。そのため、モスクワの意のままに、戦争の広大な後方基地と化している。
首都キエフ(キーウ)に向けて、侵攻初期にロシア軍が進軍したのは、ベラルーシからであった。
ベラルーシ軍の飛行場は、ロシア空軍が使用している。
そして、ロシアのミサイルは、同国の領土からウクライナに向けて発射されている。ルカシェンコ大統領自身が認めている。
おまけに、2月末に行われた憲法上の国民投票では、核の中立政策を放棄、ロシアの核ミサイルが国内に配備されることになってしまった。
そして、これまでポーランドとバルト海の国境にのみ集中していた部隊が、ウクライナとの国境にも配備されるようになった。
このように、ベラルーシはロシア軍の好きに使われている。それでも、ベラルーシはロシアの同盟国として参戦はしていないし、する様子もない。
独裁者として大いに批判されるルカシェンコ大統領であるが、それでも自国民を戦争に駆り出そうとはしない。最後の一線は超えていない。
所詮、自分の独裁を守りたいだけ、自分の身が可愛いだけというのは本当だとしても、それでも、たとえ属国のようになっても、結果として国民を守っている。
一口に民主主義国家と言ってもレベルがあるように、独裁者といっても色々レベルがあるものだ。ルカシェンコ大統領の綱渡りの能力はかなり高いと、認めざるを得ない。
月給に加えて、モスクワ留学
なぜロシアはベラルーシの参戦を求めているのだろうか。
地元メディアが引用していたウクライナ情報機関の情報によると、モスクワはすでに、個々のベラルーシ人に戦争への参加を促そうとしており、1000ドルから1500ドルの月給やロシアの大学での訓練・教育を約束しているという。
兵士は一人でも多く必要としているのは確実なようだ。
詳細に理由を考察してみると、フランス国際関係研究所(Ifri)のロシア政治専門家、タチアナ・カストゥエヴァ=ジャンさんがフランス公共放送に語ったところによると、以下のとおり。
1、武器供与のハブとなっているポーランド国境からウクライナに入る部分で、武器を遮断すること。
2、NATO加盟国とバルト諸国の間の唯一の地上アクセスである、リトアニアとポーランドの国境100キロメートルの「スヴァウキ回廊」で行動を実行する。
しかしこれは、NATOとベラルーシが直接対決をすることになり、大変高いリスクを伴う。
それに、この回廊を絶つことで、ロシアにどんなことが出来るというのか。
確かに、プーチン大統領がNATOに要求している「1997年の状態に戻せ」に従えば、バルト3国はNATOに入っているべきではない。
しかし、この旧ソ連領を自分の勢力下に取り戻したいというのなら、この3国を占領するだけの力がなくてはならない。陸で攻め入るのに十分な陸軍、空から制圧するには制空権。そのような余裕が、今のロシア+ベラルーシにあるのだろうか。
「連合国」案が再浮上のロシアとベラルーシ
ロシアとベラルーシは、両国の統合という課題を最近進めていた。
大変長い話を短く語るのなら、1997年と1999年に両国の間に結ばれた二つの条約が、連合国(連邦国とも訳せる)をつくるための基礎となっている。しかし、ほぼ死文化しており、特に政治統合の分野は進んでいない。
ルカシェンコ大統領は、ロシアに頼りながらも、EUとロシアの間をうまくバランスを取るようにして独立を保ってきたのだ。
それが、2020年のベラルーシ大統領選において、ルカシェンコがまたもや再選、市民が不正選挙と腐敗にうんざりして、全国的な抗議デモを展開した。これを暴力で抑えつけて以来、ルカシェンコは反動化した。
米欧の制裁を受けている者同士として、よりプーチン大統領に頼るようになった。そして、この「連合国」構想が再び浮上してきたのだった。
参考記事:ベラルーシはどうなっているか。下僕志望を公に表明のルカシェンコと軍事演習の行方:ウクライナ危機(2月18日の記事)
上記の参考記事で、筆者は「このままルカシェンコが完全に下僕になるとは、今までの経緯があるので、とても筆者には思えない。これは完全に推測であるが、『あそこまで私はプーチンの下僕であると、世間にはっきりと見せたではないか』と言う必要があるほど大きな動きが、背後にあるという仮説も成り立たないでもない」と書いた。
でもまさか、戦争になるとは思ってもいなかった。
ベラルーシの軍事専門家アレクサンドル・アレシン氏によると「ベラルーシとロシアの軍事協定では、ベラルーシがロシア軍と一緒に戦えるのは、どちらかが攻撃されたときだけと決められている」という。『ル・モンド』が報じた。
そのせいなのだろうか、ウクライナ軍は3月11日、ウクライナ国境付近のベラルーシの村を、ロシア軍機が空爆を行ったと発表した。空爆はウクライナ領空から行われたという。
ウクライナ軍は、自国が行った行為ではなく、そのように見せかけて実際はロシア軍が行ったのであり「ベラルーシ軍を対ウクライナ戦に巻き込むことを狙った挑発だ」と指摘した。
何が本当かウソかはわからないが、確かにベラルーシが攻撃されれば、ロシア軍としては軍事協定を盾に、参戦の説得がしやすくなるのは確かである。
また、領土外への軍隊派遣は憲法で禁じられているが、「ロシアの圧力で採択された新しい特別法では、兵士が海外派遣に志願することができる」ともアレシン氏は指摘している。
今年の1月に、カザフスタンで起きた暴動が例となった。
政権内の対立をめぐる暴動で、トカエフ大統領はロシアに軍事支援を要請、難を逃れた。大統領を支援するために展開された、モスクワ主導の「平和維持」作戦には、ベラルーシが参加したのだった。
有名なベラルーシのパルチザン
しかし、ベラルーシがたとえ参戦したとしても、決定的なものにはなり得ない。
「ベラルーシの軍事力は、徴兵を含めて4万5千人を超えません。NATO諸国との国境が非常に長いので、そこに多くの部隊が駐留しています」とアレシン氏は言う。
ウクライナ西側への攻撃に参加できるのは、理論上、ほとんど経験のない6千人の部隊しか残っていないとも語る。
政治アナリストのアルチョム・シュライブマン氏は、「政権支持者や軍内部でさえも、ベラルーシのどの層にも戦争への参加意欲はない」と指摘している。
それどころか、ウクライナ人と共にロシア軍と戦うベラルーシの志願者もいる。
「ベラルーシ人はルカシェンコではない。ベラルーシ人が権利のために戦っていることを、人々は理解するだろう」と、戦闘員の一人であるグレブ・グンコは、フランス公共放送に語った。
彼は、政権の弾圧でポーランドに亡命した青年で、ウクライナのリヴィウのトレーニングセンターに入り、その後キエフ(キーウ)に向かった。
こういった人々の数は正確にわからないが、「ベラルーシのパルチザン(レジスタンス)」というのは有名である。第二次大戦で、ナチス・ドイツに抵抗運動をした人たちのことだ。Wikipediaに、約10ヵ国語でページがあるくらいだ。
前述のロシア専門家のタチアナさんによれば、ウクライナの大統領顧問オレクシィ・アリストビッチ氏は、国境の自国側で、定期的にベラルーシ人に「あいさつ」をしているという。
ベラルーシからウクライナに入ってくるロシアからの物資を輸送する鉄道を使えなくして、迂回を余儀なくさせるよう、彼らを励ましているのだ。そのためか、管理システムやシグナルが、あちこちで故障しているという複数の証言があるのだという。
参考記事(フォーブスジャパン):ベラルーシの反乱軍が鉄道を破壊、ロシアの侵攻を妨害か
この戦争の経緯や結果次第で、特にロシアが極度に弱体化した場合は、ベラルーシでもどういう状況になるのか、まったくの未知数である。