世界の難民・避難民6千万人 積極的平和主義の安倍政権 受け入れ貢献度は世界100位以下
フランスが「国境封鎖」
シェンゲン協定で移動の自由が認められているイタリアとフランスの国境が「封鎖」されている。北アフリカや中東からのボートピープルが大量に押し寄せ、イタリア経由でフランスや北欧に移動しようとしているため、フランス当局が国境で難民や移民の流入を阻止しているのだ。
北アフリカから地中海を渡って欧州を目指すボートピープルは今年に入ってすでに10万人を突破。昨年は約21万8千人がボートで地中海を渡ったが、航海途中で少なくとも3500人が死亡した。不法移民が約6割に達するとみられるため、欧州連合(EU)は密航斡旋業者の逮捕やボートの差し押さえ、破壊の軍事行動を計画している。
EU域内では、こうしたボートピープルは最初にたどり着いた国が責任を負う。このため責任を押し付けられたイタリアやギリシャは反発。イタリアがEUにフランスの「国境封鎖」はシェンゲン協定違反と訴えたところ、EUは「治安維持のための緊急避難措置」と取り合わなかった。
2001年の米中枢同時テロに続くアフガニスタン戦争、イラク戦争。そして世界金融危機、欧州債務危機。中東の民主化運動「アラブの春」に端を発するリビア内戦、シリア内戦を経て、北アフリカと中東は混乱に陥っている。より良い暮らしを求めてボートピープルが大挙して欧州に押し寄せるが、EU加盟国も財政難で余裕がない。
それどころかギリシャがデフォルト(債務不履行)して単一通貨ユーロを離脱するか、英国がEUから離脱するかが真剣に懸念されている。ベルリンの壁を崩壊させた人の自由移動が民主主義と経済を発展させるという理想モデルが膨大なボートピープルの前に足元から崩れようとしている。
混乱と殺戮が生み出す強制移動
混乱と殺戮を逃れ、秩序と安全を希求する地球規模の大移動が起きている。独裁者フセイン大統領を取り除くためのブッシュ米大統領(当時)のイラク戦争が無秩序というパンドラの箱を開けた。「アラブの春」で独裁による安定より民主化の促進を支持したオバマ大統領の優柔不断が混乱をさらに拡大させてしまった。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のグローバル・トレンズ・レポート(年間統計報告書)によると、昨年末時点で紛争や迫害を逃れ、家を追われた人の数は5950万人。急増し始めたのはシリア内戦が始まった11年からだ。
国の人口と比較するとイタリアの6100万人に次いで世界24番目となる。内訳は難民1950万人(前年比280万人増)、国内避難民3820万人(同490万人増)、庇護申請者は180万人(同60万人増)だ。
グテレス高等弁務官は「人々の強制移動の規模は拡大し、危機への対応能力は縮小傾向にある。世界規模で対応するために、紛争や迫害を逃れて避難する人々の保護を可能にする新しい人道支援のあり方が求められれている」と訴えている。
過去5年間で、アフリカではコートジボワール、中央アフリカ、リビア、マリ、ナイジェリア北部、南スーダン、ブルンジ、中東ではシリア、イラク、イエメン、欧州ではウクライナ、アジアではキルギス、ミャンマー、パキンスタンで15の紛争が起きたり、再燃したりしている。状況は悪化の一途をたどっている。
UNHCRの報告書から数字を拾ってみた。
新たな避難民1390万人
新たな難民290万人、国内避難民1100万人。
UNHCR支援対象者、統計上史上最高の5440万人
無国籍者約1千万人
14年にUNHCRに報告された無国籍者数は約350万人だが、実際は1千万人以上が無国籍者とみられている。
途上国による庇護提供 86%
難民の約86%が途上国にいる。
受け入れ国トップ5
(1)トルコ159万人
(2)パキスタン151万人
(3)レバノン115万人
(4)イラン98万2千人
難民発生国トップ3
(1)シリア388万人
(2)アフガニスタン259万人
(3)ソマリア111万人
帰還12万6800人
1983年以来、最も低い数字。このうちの約半数が出身国のコンゴ民主共和国(2万5200人)、マリ(2万1000人)、アフガニスタン(1万7800人)に帰還した。
第三国定住先は26カ国
14年に第三国定住した難民数は10万5197人。米国が最も多くの難民7万3011人を受け入れている。日本は23人だ。
難民認定申請数163万5190件
ロシア27万4744件
ドイツ20万2834件
フランス10万1895件
米国9万6152件
日本7533件
14年の難民認定数では日本は12件、人道的な配慮による在留許可が110件。3976件の申請は却下された。下のグラフでは日本の件数が他に比べて少なすぎて見えなくなっている。
保護者のいない子供3万4300人
保護者のいない子供の庇護申請が82カ国で3万4300人。その多くはアフガニスタン、エリトリア、シリアやソマリア出身者。統計の収集を開始した2006年以来、最悪となった。
18歳未満は全難民の51%
これは過去10年で最も高い比率である。
恐ろしく低い日本の貢献度
人口1人当たり国内総生産(GDP)で比較した日本の難民受け入れ貢献度は世界107位(1位エチオピア)。人口1千人当たりでは141位(1位レバノン)。国土の面積1千平方キロメートル当たりでは111位(1位レバノン)。
EU主要国のドイツはそれぞれ49位、50位、22位。日本の貢献度の低さが浮き彫りになっている。
アジアではミャンマーのラカイン州、カチン州、シャン北部でイスラム教少数民族「ロヒンギャ」の多くが家を追われた。ロヒンギャ族やバングラデシュ人のボートピープルへの対応を話し合うため、東南アジア諸国連合(ASEAN)が7月2日にクアラルンプールで臨時内相会議を開く方向で調整していると共同通信がマレーシア政府当局者の話として伝えている。
ロヒンギャ族の乗った木造船が各国から上陸を拒否されて漂流したり、人身売買されたりするなど人権問題としてクローズアップされている。日本にも群馬県館林で約200人のロヒンギャ族が暮らしているが、無国籍のままだ。就労できず、社会保障も受けられない。
UNHCRのグテレス高等弁務官は任期中に実に12回も日本を訪れ、厳格過ぎる日本の難民認定の見直しを求めている。いくら人道的な配慮から特別に在留を許可していると言っても、難民としての地位が認められなければ家族を日本に呼び寄せることは難しい。
国会では安倍首相の掲げる「積極的平和主義」を実現するため安全保障関連法案が審議されているが、難民の受け入れ問題が日本で注目を集めることはあまりない。ブッシュ大統領のように無思慮にツボを壊すのは簡単だが、破片をつなぎあわせて元に戻すことはもはや叶わぬ夢となっている。地球規模の安定を取り戻すために必要なのは対立と武力による破壊ではなく、和解と協力、そして共存を目指す永々とした人間の営みである。
(おわり)