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東京から2時間 観光客の足が戻ってきた越後湯沢の美しい渓流でまさかの風景が

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
新潟県湯沢町の渓流の観光名所。吊り橋が人気で、この時期安全に楽しめる(筆者撮影)

 水辺に人の姿が見えないんです。それなのに、越後湯沢駅の周辺の旅館の予約状況は久しぶりの活況で、直前では予約もできなかったようです。本格的な秋のシーズンを迎えて、湯沢の渓谷の美しい水辺は今が旬で、しかも水難事故が起きない時期でもあり安全です。水辺で休日を楽しまないともったいないです。ぜひ東京から車で2時間の新潟県湯沢町にいらして、大自然を満喫してみませんか。

このコントラストは何だろう

 旅行サイトを検索してみると、越後湯沢駅周辺の今晩の宿の予約ができるホテルがわずかしか残っていません。そして駅近くのスーパーマーケットの駐車場には県外ナンバーの車がずらりと並んでいて、どう見ても観光客が戻って来たように見えます。今年の8月のお盆の時期に比べたら、風景が全然違います。

 湯沢町は日本アルプスのリゾートタウンで、多数の温泉と豊かな水量の渓流があることで知られています。夏は関東の大学の学生たちが合宿に来て、町内のいろいろなスポーツ施設が活気にあふれます。美しい渓流には多くの家族連れや若いカップルが訪れ、川の流れの透き通った冷たさを満喫しています。今年の夏はそういった若い人の姿が少なく、さらに渓流で遊ぶ家族連れの姿もまばらでした。全国で川の水難事故が多発した中で、そういった事故も聞かれないほど、人が極端に少ない夏となりました。

 そういう背景の中で、やっと観光客が増えたと実感し、湯沢の渓谷の美しい水辺にもさぞや観光客がいっぱいと思い、有名どころを回ってみましたら、まさかの風景でした。人の数があまりにも少ないのです。9月の連休から10月いっぱいまで、湯沢の渓谷の美しさは最高潮に達します。そして、なにより水難事故に対しては安全な水辺が楽しめる時期でもあります。

安全な水辺で休日を楽しもう

 いつもは「水辺が危険」としつこい筆者ではありますが、今回は安全な水辺についてご紹介します。これは今回の一例である湯沢町に限らず、全国の渓流を代表とする河川でも共通する話題です。

雨が少ない

 台風が来なければ、カラッと乾燥した天気が続きます。こういう時には河川の水の流れは穏やかで、特に渓流での水の流れもそれほどきつくなりません。そして相対的に水深は浅くなり、そうなれば万が一の事故の際に致命的な結果につながる可能性が低くなるということです。「安全そうに見える川ほど怖い」というのも季節により変わります。その理由については、この後で。

急な豪雨が少ない

 安全そうに見える川でも、上流で急な豪雨が降ればものの1時間で急に増水します。その増水量は半端なくて、小川程度の川の幅が、めいっぱい全体に広がるほどです。対岸や中州に逃げ遅れたなどよくあることで、水深が深くなってそのまま流されるなど致命的な事故につながります。ただ、9月の連休から10月末にかけての時期はここ湯沢においてはそうした豪雨の可能性も少なくなります。

 水難事故の発生件数というのは、こういった増水の危険度と、その場所に人がいるという事実の掛け算になります。簡単に言えば、水に入る人がいなくなれば、事故件数はずっと少なくなります。

気温が低く水に入る気がなくなる

 本日もあちこち見てみましたが、やっと見つけた観光客も、皆さん、せいぜい足を水に浸ける程度でした。身体ごと水に浸けている人はいません。それでいいのです。入水している場所も膝下くらいの深さの流れの緩やかなところでした。場所もそう危険ではないといえます。もちろん、川の流れに近づくときにはライフジャケットなどの浮き具をきちんと身に着けることが重要です。

湯沢町の渓流名所の様子

 本日9月20日に、いつもなら観光客でいっぱいになって賑わう渓流の名所を回って写真を撮ってきました。

鱒どまり

 魚野川の上流にある景勝地です。堰堤より下流側は安全で図1のように水の流れが緩やかで、渓流の流れの音を聴いたり、岩の織り成す不思議な地形を楽しんだりするのにちょうどよい場所です。いい所なのですが、今日はお客さんが誰もいませんでした。川の水温は20℃前後で、流石に積極的に入水するような水温ではありません。せいぜい足を水に浸けて楽しむような水温です。岩の上から水面に落ちる可能性は十分にあるので、散策する時にはライフジャケットを着用しましょう。

図1 湯沢で最も美しい渓流が楽しめる鱒どまり。今の時期は最も安全に渓流の姿を楽しむことができる(筆者撮影)
図1 湯沢で最も美しい渓流が楽しめる鱒どまり。今の時期は最も安全に渓流の姿を楽しむことができる(筆者撮影)

たきびの村

 緑あふれるBBQエリアがあり、図2のように本日はそこそこ人影が見えました。川辺で水を楽しむ家族の姿も見かけました。河原にテントを張って日帰りキャンプやBBQを楽しんでいる様子です。このあたりは全体的に浅いので、晴天が続いている日であれば、流れに足を取られて流されてしまうほどの危険性はありません。ただ、小さなお子さんは流されてしまうので、お子さんと楽しむ時には寄り添って遊びましょう。

図2 たきびの村付近の河原の様子。ここでは観光客の姿がちらほらと(筆者撮影)
図2 たきびの村付近の河原の様子。ここでは観光客の姿がちらほらと(筆者撮影)

大源太キャニオン

 東洋のマッターホルンと呼ばれる大源太山を望む大源太湖とその周辺です。キャンプや水辺のアクティビティが楽しめます。キャンプ場の入り口すぐには風情のある小川が流れています。図3のように水面をのぞき込むと、アユかイワナかよくわかりませんが、川魚の魚影の濃さが印象的です。それほど深い川ではありませんので、万が一落ちても急に流されていくようなことはありません。お子さん連れでも安全に楽しめます。水温は、体感で15℃くらいでしょうか。山から直接下ってきた、透明感溢れる冷たい水です。

図3 水面に広がる波紋のあたりに濃い魚影がみえる(筆者撮影)
図3 水面に広がる波紋のあたりに濃い魚影がみえる(筆者撮影)

 大源太湖では、カヤックやSUP(立ってパドルで漕いですすむボード)が体験できます。図4に示すように、ライフジャケットを着用しての水難事故防止対策がばっちり、しかも新型コロナ感染対策も万全の状態で楽しむことができます。ただ体験は9月いっぱいでしかも要予約なので、要注意です。

図4 大源太湖で楽しむことのできるカヤックやSUPはここで受け付け。もちろんライフジャケット着用で(筆者撮影)
図4 大源太湖で楽しむことのできるカヤックやSUPはここで受け付け。もちろんライフジャケット着用で(筆者撮影)

県外者歓迎?地元の人に聞きました

 大源太キャニオン近くの「星のもと☆オートキャンプ場」のオーナーである星忠承さんにインタビューしました。図5はご本人と息子(貴大)さんで、事務所2階の手打ちそばレストランのバルコニーで撮影した1枚です。

図5 星さん親(左)子(右)。息子さんの肩の向こうに白い花をつけたそば畑が見える。このそば粉で手打ちしたそばがオーナーの自慢(筆者撮影)
図5 星さん親(左)子(右)。息子さんの肩の向こうに白い花をつけたそば畑が見える。このそば粉で手打ちしたそばがオーナーの自慢(筆者撮影)

 新型コロナウイルス感染防止策の中、観光客の訪問については「全然気にしていません。夏に比べればだいぶ県外の人の数が増えてきましたが、さらに県外からのお客さんが増えることを願っています」とのこと。湯沢は水がとてもおいしくて、水道水ですらゴクゴクいけます(筆者の個人的感想)。当然、米どころですが「大源太キャニオン近くのおいしいお米とともに、そばも栽培しています。収穫したそば粉を使ったそばをこの地域のおいしい水でゆでて提供しています」ということで、食べていただけると、豊かな水の貴さが身に染みてくることを保証いたします。

さいごに

 いつもは、水難事故の暗い話ばかり扱っていますが、災害のない時にはぜひ豊かな水を積極的に楽しみたいものです。今回新潟県湯沢町を一例として取り上げたのは、筆者の地元であるばかりでなく、豊かな渓流に恵まれて、しかも安全な時期であること。そして、図6に示すように、いつも絶えることなく山から流れてくる用水で育った農作物が味わえて、おいしい水が飲めるためです。

 ぜひ雪が降りだす前の10月いっぱいまでの間にお越しください。

図6 大源太山から流れてくる清水で育ったコシヒカリ。左の用水路には常に清らかなおいしい水が流れている(筆者撮影)
図6 大源太山から流れてくる清水で育ったコシヒカリ。左の用水路には常に清らかなおいしい水が流れている(筆者撮影)

追記(19:45) 皆さん、どこの水辺にいたかというと、リゾートホテルなどの温水プールに出かけていたようです。さっき泳いできたプールにもたくさんの親子が泳いでいました。リゾート感あふれて安心感があるとは思いますが、お子さんがプールにいる中、スマートフォンの操作に熱中しないようにしましょう。正直、怖かった瞬間があったし、その間も大勢がスマートフォンに熱中してました。お子さんには寄り添って一緒に遊泳しましょう。

追記(22日10:30) 有料で魚釣りが楽しめる場所に大勢の観光客が集まっていたのですが、ライフジャケット着用を啓発する題材にならなかったので、記事から外しています。ここで念のため申し添えます。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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